ルグミアン川へ出発するまで、アデルは出陣の準備をしているカロン達を待っていた。
基本的にアデルは動きを重視するので、武器防具は自前の大剣と鎖帷子だけで十分だ。というより、大剣を存分に振るうには、動きの制限が加わる鎧等を着ていられない、というのが正直なところだった。
しかし、カロンとルーカスはそういうわけにもいかない。彼らは今、自分に合う武器や防具を武器庫から選ばせてもらっているのだと言う。
ちなみに、カロンとルーカスは人生で初めての対人戦なのだという。本当にいきなりの実戦で大丈夫なのか、心配でならないアデルであった。
カロン達の準備中、アデルは馬車の積み荷に数日分の食糧と、自らの大剣を積んだ。
ルグミアン川までは往復で三日か四日程かかる。その間、王都には帰ってこれないので、最低限の備蓄は必要だった。
「ア~デルっ」
ふう、と一息ついたところで、後ろから陽気な声が掛けられて、驚いて振り向く。
「――アーシャ王女!?」
そこにはヴェイユ王国王女にして〝ヴェイユの聖女〟ことアーシャ=ヴェイユその人の姿があった。
アーシャは嬉しそうにアデルに手を振った。
周囲に人がいないからか、今は凛とした王女の風格はなく、アデルの知っている素の状態らしい。
「早速山賊退治だなんて……ツイてないですね、アデルも」
「そうなのか?」
「はい。ヴェイユにはそれほど多く賊がいるわけではありませんから。それに、いつもはもっと多くの兵を差し出すのに、新人の三人だけだなんて」
不安です、とアーシャは心配そうにアデルを見上げた。
「陛下の真意はわからないけど、これは俺の入団試験も兼ねられてるんじゃないかな」
この山賊退治は、実質的にはアデルの実力査定だと思えた。
カロンとルーカスは新人で実戦経験がない。その二人を使って──或いは使わずに──どの様にして山賊を倒すのか、アデルに力を見せてみろ、と国王は言っているのである。
ちなみに、アーシャ王女に対して敬語でないのは、敢えてだ。昨日にアーシャが「王宮兵団に入っても、他に人がいないところではこれまで通り普通に話して欲しい」という王女直々の命令があったのだ。以降、周囲に人がおらず、彼女が普通に接してくる時はアデルも自然に接するようにしている。
「気を付けて下さいね」
「大丈夫さ。腐っても銀等級としてやってきたんだ。山賊程度には負けない」
不意打ちで死にかけていた俺が言うのも何だけどな、とアデルが冗談っぽく付け足すと、アーシャは困った様に笑うのだった。
「あ、それと……」
アーシャは悪戯げな表情を浮かべると、少し首を傾げた。
「お父様のお話は、もう少しちゃんと聞いた方が良いと思いますよ?」
「う」
王女の鋭い指摘に、思わずアデルは息を詰まらせた。
彼女はアデルが先程の式中に国王の話を全く聞いていなかったのを察していたらしい。
「もしかして、絨毯の皺の数を数えていたんですか?」
「何でわかるんだよ!? 心の中を読む聖魔法でもあるのか!?」
アーシャが内心を読み取ったかの様に言ったものだから、思わず声を荒げてしまった。
「えっと……冗談で言ってみただけだったんですが、まさか本当に数えてたとは思いませんでした」
一方のアーシャは微苦笑を浮かべて頬を掻いていた。どうやら墓穴を掘ってしまったらしい。
(それにしても、全然雰囲気が違うな)
王女として振舞っている時のアーシャと、こうして素のままでいる時のアーシャで差があり過ぎて、全くアデルはついていけないのだった。
それに、こうして素を出している時は、周囲の人にも気を付けなければならない。王女と友達口調で話すなど、不敬罪に当たってもおかしくはないのである。
基本的にアデルは動きを重視するので、武器防具は自前の大剣と鎖帷子だけで十分だ。というより、大剣を存分に振るうには、動きの制限が加わる鎧等を着ていられない、というのが正直なところだった。
しかし、カロンとルーカスはそういうわけにもいかない。彼らは今、自分に合う武器や防具を武器庫から選ばせてもらっているのだと言う。
ちなみに、カロンとルーカスは人生で初めての対人戦なのだという。本当にいきなりの実戦で大丈夫なのか、心配でならないアデルであった。
カロン達の準備中、アデルは馬車の積み荷に数日分の食糧と、自らの大剣を積んだ。
ルグミアン川までは往復で三日か四日程かかる。その間、王都には帰ってこれないので、最低限の備蓄は必要だった。
「ア~デルっ」
ふう、と一息ついたところで、後ろから陽気な声が掛けられて、驚いて振り向く。
「――アーシャ王女!?」
そこにはヴェイユ王国王女にして〝ヴェイユの聖女〟ことアーシャ=ヴェイユその人の姿があった。
アーシャは嬉しそうにアデルに手を振った。
周囲に人がいないからか、今は凛とした王女の風格はなく、アデルの知っている素の状態らしい。
「早速山賊退治だなんて……ツイてないですね、アデルも」
「そうなのか?」
「はい。ヴェイユにはそれほど多く賊がいるわけではありませんから。それに、いつもはもっと多くの兵を差し出すのに、新人の三人だけだなんて」
不安です、とアーシャは心配そうにアデルを見上げた。
「陛下の真意はわからないけど、これは俺の入団試験も兼ねられてるんじゃないかな」
この山賊退治は、実質的にはアデルの実力査定だと思えた。
カロンとルーカスは新人で実戦経験がない。その二人を使って──或いは使わずに──どの様にして山賊を倒すのか、アデルに力を見せてみろ、と国王は言っているのである。
ちなみに、アーシャ王女に対して敬語でないのは、敢えてだ。昨日にアーシャが「王宮兵団に入っても、他に人がいないところではこれまで通り普通に話して欲しい」という王女直々の命令があったのだ。以降、周囲に人がおらず、彼女が普通に接してくる時はアデルも自然に接するようにしている。
「気を付けて下さいね」
「大丈夫さ。腐っても銀等級としてやってきたんだ。山賊程度には負けない」
不意打ちで死にかけていた俺が言うのも何だけどな、とアデルが冗談っぽく付け足すと、アーシャは困った様に笑うのだった。
「あ、それと……」
アーシャは悪戯げな表情を浮かべると、少し首を傾げた。
「お父様のお話は、もう少しちゃんと聞いた方が良いと思いますよ?」
「う」
王女の鋭い指摘に、思わずアデルは息を詰まらせた。
彼女はアデルが先程の式中に国王の話を全く聞いていなかったのを察していたらしい。
「もしかして、絨毯の皺の数を数えていたんですか?」
「何でわかるんだよ!? 心の中を読む聖魔法でもあるのか!?」
アーシャが内心を読み取ったかの様に言ったものだから、思わず声を荒げてしまった。
「えっと……冗談で言ってみただけだったんですが、まさか本当に数えてたとは思いませんでした」
一方のアーシャは微苦笑を浮かべて頬を掻いていた。どうやら墓穴を掘ってしまったらしい。
(それにしても、全然雰囲気が違うな)
王女として振舞っている時のアーシャと、こうして素のままでいる時のアーシャで差があり過ぎて、全くアデルはついていけないのだった。
それに、こうして素を出している時は、周囲の人にも気を付けなければならない。王女と友達口調で話すなど、不敬罪に当たってもおかしくはないのである。