リーン王妃はアーシャと髪色は異なる紫色だが、その瞳の色は彼女と同じ浅葱色をしていた。今ではお淑やかに座しているが、昔は敵が武器を捨てて逃げ出すほどの恐ろしい武人で、〝戦乙女〟という異名を持っていたのだと言う。
そして、アーシャはそんな大陸六英雄二人の血を引いている事になる。血統としては凄まじい。彼女が〝ヴェイユの聖女〟として崇め立て祀られるのもわからないでもなかった。
「それは詩人達が勝手に言っているだけの事。剣には自信がありますが、〝シノンの死神〟には及ばないでしょう」
アデルは恭しく頭を下げて答えた。
〝シノンの死神〟とは、大陸で有名な剣士だ。傭兵稼業を生業としており、ふらっとどこかに現れては小さな紛争に参加し、屍を積み重ねて金だけ取るとふらりと消えてしまうのだと言う。もはや伝説の剣士として、冒険者の中でも語り草になる者だ。
アデルも剣技ではそれなりに著名だったので、よく〝シノンの死神〟と比べられる事があった。無論、会った事も見た事もない者と比べられて、優劣がつけられるはずがない。
「ですがこの剣はもはやヴェイユのもの。我が大剣で──」
「国王! 本当に冒険者等を王宮兵団に加えるおつもりですか?」
アデルの言葉を遮って国王に異議を唱えたのは、グスタフ宰相だ。脂肪分に包まれた、如何にも私服を肥やした貴族、というのが伝わってくる容姿をしていた。
「グスタフよ。王宮兵団の人数が足りなくなってきているところに、銀等級の冒険者が加わるのだ。国の治安維持にはもはや我が国の兵士だけでは回らぬ。これからは彼の様な人材も必要になってくるとあれほど言ったであろう?」
「むぅ……」
ロレンス王の言葉に、グスタフが黙り込む。
グスタフという人物は、どうやらアデルが気に入らないようだ。強者が自国に来るというのに、何か不都合があるのだろうか。
「アデル=クラインよ。ここを第二の祖国と思ってくれて構わない。王宮兵団の仕事は大変だろうが、君ならばすぐに慣れるだろうと思っている。どうか、その力を存分に使って欲しい」
「はっ!」
アデルはロレンス王の言葉に、敬礼を以て答える。
アーシャの推薦による件をちくちくと訊かれるかと思ったが、特に音沙汰はなかった。彼女が裏で説明をしているのか、或いはそれすらどうでも良いと思えるほどロレンス王が実益主義なのか、そこまではアデルにもわからなかった。
アデルに続いて、横の弓戦士と見習い騎士も自己紹介をした。
弓戦士はもともと猟師をやっていた人物だと言い、名はルーカスという。もう一方のカロンは地方の貴族の末っ子だそうで、少しでも国に貢献する為にわざわざ身分の下がる王宮兵団に自ら入団するという変わり者だった。
自己紹介が終わった段階で、入団式は終わった。しかし、入団式の終わりに、早速アデル達三人にのみ国王から直々任務が与えられた。
ルグミアンの大橋に、山賊が現れたのだと言う。その山賊の討伐を早速アデル達三人で行って欲しいのだそうだ。
(なる、ほど……)
アデルは心の中で溜め息を吐いた。
要するに、これが実質的な入団試験という事だ。山賊程度三人で仕留めてもらわねば、王宮兵団の教えは務まらないという事だろう。
早速アデル達新人王宮兵団は、山賊の討伐を行うべく、ルグミアンの大橋に向かう準備を行うのだった。
そして、アーシャはそんな大陸六英雄二人の血を引いている事になる。血統としては凄まじい。彼女が〝ヴェイユの聖女〟として崇め立て祀られるのもわからないでもなかった。
「それは詩人達が勝手に言っているだけの事。剣には自信がありますが、〝シノンの死神〟には及ばないでしょう」
アデルは恭しく頭を下げて答えた。
〝シノンの死神〟とは、大陸で有名な剣士だ。傭兵稼業を生業としており、ふらっとどこかに現れては小さな紛争に参加し、屍を積み重ねて金だけ取るとふらりと消えてしまうのだと言う。もはや伝説の剣士として、冒険者の中でも語り草になる者だ。
アデルも剣技ではそれなりに著名だったので、よく〝シノンの死神〟と比べられる事があった。無論、会った事も見た事もない者と比べられて、優劣がつけられるはずがない。
「ですがこの剣はもはやヴェイユのもの。我が大剣で──」
「国王! 本当に冒険者等を王宮兵団に加えるおつもりですか?」
アデルの言葉を遮って国王に異議を唱えたのは、グスタフ宰相だ。脂肪分に包まれた、如何にも私服を肥やした貴族、というのが伝わってくる容姿をしていた。
「グスタフよ。王宮兵団の人数が足りなくなってきているところに、銀等級の冒険者が加わるのだ。国の治安維持にはもはや我が国の兵士だけでは回らぬ。これからは彼の様な人材も必要になってくるとあれほど言ったであろう?」
「むぅ……」
ロレンス王の言葉に、グスタフが黙り込む。
グスタフという人物は、どうやらアデルが気に入らないようだ。強者が自国に来るというのに、何か不都合があるのだろうか。
「アデル=クラインよ。ここを第二の祖国と思ってくれて構わない。王宮兵団の仕事は大変だろうが、君ならばすぐに慣れるだろうと思っている。どうか、その力を存分に使って欲しい」
「はっ!」
アデルはロレンス王の言葉に、敬礼を以て答える。
アーシャの推薦による件をちくちくと訊かれるかと思ったが、特に音沙汰はなかった。彼女が裏で説明をしているのか、或いはそれすらどうでも良いと思えるほどロレンス王が実益主義なのか、そこまではアデルにもわからなかった。
アデルに続いて、横の弓戦士と見習い騎士も自己紹介をした。
弓戦士はもともと猟師をやっていた人物だと言い、名はルーカスという。もう一方のカロンは地方の貴族の末っ子だそうで、少しでも国に貢献する為にわざわざ身分の下がる王宮兵団に自ら入団するという変わり者だった。
自己紹介が終わった段階で、入団式は終わった。しかし、入団式の終わりに、早速アデル達三人にのみ国王から直々任務が与えられた。
ルグミアンの大橋に、山賊が現れたのだと言う。その山賊の討伐を早速アデル達三人で行って欲しいのだそうだ。
(なる、ほど……)
アデルは心の中で溜め息を吐いた。
要するに、これが実質的な入団試験という事だ。山賊程度三人で仕留めてもらわねば、王宮兵団の教えは務まらないという事だろう。
早速アデル達新人王宮兵団は、山賊の討伐を行うべく、ルグミアンの大橋に向かう準備を行うのだった。