翌日──アデルは謁見の間で膝を突いていた。横にはアデルと同じく王宮兵団に入団する新人の二人が同じ様に膝を突いている。
目の前の中央玉座にはヴェイユ王国国王のロレンス=ヴェイユ、そして右手の玉座に王妃リーン=ヴェイユ、そして左手側の玉座に二人の一人娘にして〝ヴェイユの聖女〟ことアーシャ=ヴェイユの姿があった。
今は王の間でアデル達の入団式が行われていた。入団式といっても、王の話を聞いて自己紹介をする程度だ。
ここヴェイユ王国では、王宮兵団が国の治安を大きく担っている事もあって、国王が直々にこうして入団式を開いてくれるのだと言う。今は、ロレンス=ヴェイユ王の長い話が繰り広げられているところだった。
話の内容はヴェイユ王国の治安とは関係のない、彼の武勇伝だ。アデルは頭を下げて恭しく話を聞いているふりをしながら、早く話が終わらないかとばかり考え、そのうち絨毯の皺の数を数えて時間を潰していた。
「君からだぞ」
そうしていると、同じく王宮兵団に入隊する隣の弓戦士が小声でアデルにそう呼び掛けた。
「え、何が?」
「自己紹介だよ。陛下の話、聞いてなかったのかい?」
「え!?」
慌てて顔を上げると、絨毯の皺の数を数えている間に国王の話は終わっており、それぞれ簡易的な自己紹介をする時間を設けられていたようだった。
アデルがちらりとアーシャ王女の方を見ると、彼女は口元を隠してくすくす笑っていた。
「……ライトリー王国ランカールから来ました、アデル=クラインと申します。大陸ではSランクパーティーに所属し、銀等級の冒険者としてそれなりに経験を重ねて参りました。その力と経験をヴェイユの治安維持の為に使えたらと思っております」
そう言うと、周りの文官や居合わせた貴族達から「冒険者とな!」と驚きの声を上げ、一気にざわつく。
話声に耳を傾けている限り、アデルの評価は実益派と保守派で分かれている様だった。銀等級の冒険者であるならばすぐに国の役に立ってくれるであろうという実益派と、「冒険者などと柄の悪い」というよくわからない批判を向けてくる保守派だ。保守派は冒険者などという外国の無法者を入れては軍規が乱れると思っているらしい。
(確かに、そういう奴は冒険者には多そうだよな)
そうした小声に耳を傾けて、アデルはそう思うのだった。
しかし、ロレンス王は勿論実益派だ。だからこそこうして採用されているのである。
「ふむ、確か君は〝漆黒の魔剣士〟と呼ばれる名の通った冒険者だそうだな。たまたま王宮に居合わせた大陸の商人が君の名を知っていたぞ。確か、剣術の腕前では〝シノンの死神〟にも匹敵するという」
アデルの自己紹介を聞くと、国王が口角を上げて言った。
それはまるで、実力を推し量ろうとする戦士の目でもあった。
(なるほど、な)
ロレンス王のその言葉に、アデルは心の中で苦い笑みを漏らした。
これは、しっかりと調査したうえで採用しているぞ、という牽制である。そして、何よりも特徴的だったのは、王の挑戦的な瞳だった。
ロレンス王は国王というには些か若い。まだ初老の年齢で、長い金髪を背中で束ねていて見掛けも若々しい。また、その碧眼の眼光は王族のものというより戦士そのものだ。お前の実力は本物か、と訊いているのである。
彼はヴェイユ王国三代目国王と同時に、アンゼルム大陸六英雄の一人に数えられている。更にいうと、右手の玉座にいるリーン王妃もロレンスと同じくアンゼルム大陸六英雄の一人だ。彼らは約二十年前に大陸で起きた戦争で出会い、恋に落ちたのだそうだ。
目の前の中央玉座にはヴェイユ王国国王のロレンス=ヴェイユ、そして右手の玉座に王妃リーン=ヴェイユ、そして左手側の玉座に二人の一人娘にして〝ヴェイユの聖女〟ことアーシャ=ヴェイユの姿があった。
今は王の間でアデル達の入団式が行われていた。入団式といっても、王の話を聞いて自己紹介をする程度だ。
ここヴェイユ王国では、王宮兵団が国の治安を大きく担っている事もあって、国王が直々にこうして入団式を開いてくれるのだと言う。今は、ロレンス=ヴェイユ王の長い話が繰り広げられているところだった。
話の内容はヴェイユ王国の治安とは関係のない、彼の武勇伝だ。アデルは頭を下げて恭しく話を聞いているふりをしながら、早く話が終わらないかとばかり考え、そのうち絨毯の皺の数を数えて時間を潰していた。
「君からだぞ」
そうしていると、同じく王宮兵団に入隊する隣の弓戦士が小声でアデルにそう呼び掛けた。
「え、何が?」
「自己紹介だよ。陛下の話、聞いてなかったのかい?」
「え!?」
慌てて顔を上げると、絨毯の皺の数を数えている間に国王の話は終わっており、それぞれ簡易的な自己紹介をする時間を設けられていたようだった。
アデルがちらりとアーシャ王女の方を見ると、彼女は口元を隠してくすくす笑っていた。
「……ライトリー王国ランカールから来ました、アデル=クラインと申します。大陸ではSランクパーティーに所属し、銀等級の冒険者としてそれなりに経験を重ねて参りました。その力と経験をヴェイユの治安維持の為に使えたらと思っております」
そう言うと、周りの文官や居合わせた貴族達から「冒険者とな!」と驚きの声を上げ、一気にざわつく。
話声に耳を傾けている限り、アデルの評価は実益派と保守派で分かれている様だった。銀等級の冒険者であるならばすぐに国の役に立ってくれるであろうという実益派と、「冒険者などと柄の悪い」というよくわからない批判を向けてくる保守派だ。保守派は冒険者などという外国の無法者を入れては軍規が乱れると思っているらしい。
(確かに、そういう奴は冒険者には多そうだよな)
そうした小声に耳を傾けて、アデルはそう思うのだった。
しかし、ロレンス王は勿論実益派だ。だからこそこうして採用されているのである。
「ふむ、確か君は〝漆黒の魔剣士〟と呼ばれる名の通った冒険者だそうだな。たまたま王宮に居合わせた大陸の商人が君の名を知っていたぞ。確か、剣術の腕前では〝シノンの死神〟にも匹敵するという」
アデルの自己紹介を聞くと、国王が口角を上げて言った。
それはまるで、実力を推し量ろうとする戦士の目でもあった。
(なるほど、な)
ロレンス王のその言葉に、アデルは心の中で苦い笑みを漏らした。
これは、しっかりと調査したうえで採用しているぞ、という牽制である。そして、何よりも特徴的だったのは、王の挑戦的な瞳だった。
ロレンス王は国王というには些か若い。まだ初老の年齢で、長い金髪を背中で束ねていて見掛けも若々しい。また、その碧眼の眼光は王族のものというより戦士そのものだ。お前の実力は本物か、と訊いているのである。
彼はヴェイユ王国三代目国王と同時に、アンゼルム大陸六英雄の一人に数えられている。更にいうと、右手の玉座にいるリーン王妃もロレンスと同じくアンゼルム大陸六英雄の一人だ。彼らは約二十年前に大陸で起きた戦争で出会い、恋に落ちたのだそうだ。