王城に着いて門兵にアーシャの指輪を見せると、最初はあたふたされたものの、案外とすんなり城内へと通された。どうやら本当にアーシャが話を通しておいてくれたらしい。指輪だけ取られて終わりか、最悪は賊の類と思われて捕えられる可能性も考慮していたので、まずはほっとする。
しかし、もちろん城内に入ったからと言って安心できるわけではない。アデルの様な怪しい身なりの冒険者が城内に入って訝しまれないわけがなく、奇異なものを見る瞳ですれ違う文官達は彼を見ていた。
城内の案内も、屈強な兵士達によって行われている。何か変な動きをしようものなら即座に捕らえられてしまうだろう。
ちなみに、大剣等の武器の他、一切の荷物も城の入り口で預かられている。丸腰の状態でこうも警戒されていては、何かをする気にもなれない。ここまでくる間にはうんざりしてきていて、もうアーシャと会ってこの指輪を返せれるならそれで良いか、という気持ちにすらなっていた。
(会ったとは言え、何を話せば良いんだろうな)
思ったよりすんなりと応接室まで案内されてしまってから、アデルは苦い笑みを浮かべた。
この半月の間に仲間も恋人も失ったので、アーシャの言葉だけを心の支えにこの城に辿り着いただけだ。彼にそれ以上の目的等なかった。
どうしてここに来たかと問われても、彼にはそれに対して返せる言葉を持っていなかった。
「まもなくアーシャ王女殿下が参られる。くれぐれも粗相のない様にせよ」
屈強な兵士がアデルを威圧する様に睨んでいる。
彼らからしても、国の宝とまで言われている〝ヴェイユの聖女〟が冒険者の男と会話を交わす事すら面白くないのだろう。彼らの気持ちも何となくわかるので、アデルは恭しく頭を下げるに留まった。
それから間もなくして、奥の扉が開いた。
侍女の後ろから姿を現したのは、白いドレスを身に纏った白銀髪の少女──いや、ヴェイユ王国の王女・アーシャ王女殿下その人だった。
アデルは口をぽかんと開けて、彼女を見つめていた。
その姿は、ただただ美しかった。
以前洞窟で会った時は幼い少女の様にも思っていたが、ここにいるアーシャは紛れもない王女だ。それだけの気品さを彼女から感じさせられた。
「え、あっ……」
挨拶をしなければならないのはわかっていた。
しかし、以前あれほど軽口を交わした仲なのに、アデルは軽口どころか言葉さえも出てこなかった。彼女の纏う神聖な空気に、言葉を詰まらせていたのだ。
「おい貴様、無礼だぞ!」
棒立ちをしているアデルに騎士達から厳しい言葉を投げかけられ、ハッとしたアデルは慌てて地に片膝を突いた。
そんなアデルを見て、王女は「よいのですよ」と上品に笑った。
「彼は私にとっては友人の様なものです。礼など不要な間柄なので」
気になさらないで下さいまし、とアーシャ王女。
「ご、ご友人!? この男が……」
しかし、アーシャの空気とは打って変わって、護衛の兵士達は一気に警戒状態となる。一斉に訝しんだ視線をアデルに送った後に、信じられない、という様な表情をして、もう一度王女を見た。
しかし王女は気にした様子もなく、アデルにソファーに腰掛ける様に指示をした。アデルは言われるがままにソファーに腰掛け、同じく腰掛ける彼女をただぽかんと眺めていた。
しかし、もちろん城内に入ったからと言って安心できるわけではない。アデルの様な怪しい身なりの冒険者が城内に入って訝しまれないわけがなく、奇異なものを見る瞳ですれ違う文官達は彼を見ていた。
城内の案内も、屈強な兵士達によって行われている。何か変な動きをしようものなら即座に捕らえられてしまうだろう。
ちなみに、大剣等の武器の他、一切の荷物も城の入り口で預かられている。丸腰の状態でこうも警戒されていては、何かをする気にもなれない。ここまでくる間にはうんざりしてきていて、もうアーシャと会ってこの指輪を返せれるならそれで良いか、という気持ちにすらなっていた。
(会ったとは言え、何を話せば良いんだろうな)
思ったよりすんなりと応接室まで案内されてしまってから、アデルは苦い笑みを浮かべた。
この半月の間に仲間も恋人も失ったので、アーシャの言葉だけを心の支えにこの城に辿り着いただけだ。彼にそれ以上の目的等なかった。
どうしてここに来たかと問われても、彼にはそれに対して返せる言葉を持っていなかった。
「まもなくアーシャ王女殿下が参られる。くれぐれも粗相のない様にせよ」
屈強な兵士がアデルを威圧する様に睨んでいる。
彼らからしても、国の宝とまで言われている〝ヴェイユの聖女〟が冒険者の男と会話を交わす事すら面白くないのだろう。彼らの気持ちも何となくわかるので、アデルは恭しく頭を下げるに留まった。
それから間もなくして、奥の扉が開いた。
侍女の後ろから姿を現したのは、白いドレスを身に纏った白銀髪の少女──いや、ヴェイユ王国の王女・アーシャ王女殿下その人だった。
アデルは口をぽかんと開けて、彼女を見つめていた。
その姿は、ただただ美しかった。
以前洞窟で会った時は幼い少女の様にも思っていたが、ここにいるアーシャは紛れもない王女だ。それだけの気品さを彼女から感じさせられた。
「え、あっ……」
挨拶をしなければならないのはわかっていた。
しかし、以前あれほど軽口を交わした仲なのに、アデルは軽口どころか言葉さえも出てこなかった。彼女の纏う神聖な空気に、言葉を詰まらせていたのだ。
「おい貴様、無礼だぞ!」
棒立ちをしているアデルに騎士達から厳しい言葉を投げかけられ、ハッとしたアデルは慌てて地に片膝を突いた。
そんなアデルを見て、王女は「よいのですよ」と上品に笑った。
「彼は私にとっては友人の様なものです。礼など不要な間柄なので」
気になさらないで下さいまし、とアーシャ王女。
「ご、ご友人!? この男が……」
しかし、アーシャの空気とは打って変わって、護衛の兵士達は一気に警戒状態となる。一斉に訝しんだ視線をアデルに送った後に、信じられない、という様な表情をして、もう一度王女を見た。
しかし王女は気にした様子もなく、アデルにソファーに腰掛ける様に指示をした。アデルは言われるがままにソファーに腰掛け、同じく腰掛ける彼女をただぽかんと眺めていた。