グドレアンの港町を出て一〇日後、アデルは遂に王都ヴィルジュに着いた。
グドレアンから馬車に乗せてくれた行商人に別れを告げ、その足で大衆浴場へと向かう。王女殿下に会うのに不潔な身なりでは失礼だと思ったからだ。
着いたのが朝だったからか、大衆浴場も綺麗で使い心地が良かった。サウナにも入って、ここ数日の移動の疲れと汚れを一気に落ちた気になるほどすっきりとした。
風呂を上がってからは、王都ヴィルジュをぶらりと歩いて回る事にした。
アーシャ王女との面会が叶うのかどうか、叶ったところでそれからどういった流れになるかはわからない。いずれにせよ、暫くはヴェイユ島に滞在しなければならない事は確実だ。ヴェイユ王国の王都がどんな場所かは知っておく必要があった。
王都ヴィルジュをぶらぶらと歩いていてわかった事は、とにかく治安が良くて町も綺麗だという事だ。大陸の町にあるようなギスギスとした雰囲気もなく、殺伐さもない。
この町は皆が明るく、そして活き活きと生活をしている。
(良い国だなぁ)
アデルは改めてそう思うのだった。
ロレンス王が優れた為政者である事には疑いようがない。そしてアーシャは、そんな王の愛を一身に受けた娘だからこそ、あれだけ出来た人間なのだろう。
(この国で生まれていれば、俺の人生も違ったかな)
町中を歩いていても、喧嘩をしていたり、路地裏で浮浪者が死んだ様に生きていたりする事もなかった。アデルがこれまで生きてきて、当たり前の様にあった殺す殺されるという概念がない町であった。
では、そういった熱気や狂気、怒りや鬱憤が全くないのかと言えば、そうではない。そして、非暴力的な人間だけで一つの町が構成されているわけでもなかった。
(……この町には闘技場まであるのか)
大きな建物があったので、なんだろうと思って近づいてみれば、それは闘技場だった。
その闘技場は闘士達が自推で参加できる仕組みになっていた。腕っぷしや暴力でしか生きれない人間でも生きられる場所を、しっかりと用意しているのだ。
また、捕えられた罪人を闘士として戦わせているようでもあった。捕えられた罪人は、自推で参戦した闘士と不利な状況で戦わせる。町人達はそれを見て熱狂し、日ごろの鬱憤を晴らしているのだ。
見ていると、町人同士が闘士として戦っている試合もあった。その際は鉄製の武器は禁止されているようで、闘技場内にある木製の武器、或いは素手でのみ戦いが行われていた。加えて、大怪我をしないうちにしっかりと審判が戦いを止めている。
可能な限り死人が出ない様に──罪人を除いて──ルールも設けられている闘技場なのである。ちなみに、一般人が罪人の相手になる時は鉄製の武器や防具の使用が認められている様だ。
(全く……本当によく出来た国だよ、ここは)
アデルは感心して大きく息を吐いた。
人の中には暴力的なものがある事をわかった上で、町が設計してあるのだ。綺麗ごとだけでは統治などできないという事を知っているが、人間の持つ暴力性を町中では出させたくない──だからこその闘技場だ。鬱憤をぶつける場所をしっかりと作っているのである。
そして、国がそこまで徹底しているにも関わらず、ルールを破って罪人にでもなれば、闘技場で鬱憤を晴らされる側の駒となってしまうのだ。
罪人の憐れな姿を見ていれば、民衆達も罪を犯そうとは思わない。この闘技場は、民の鬱憤晴らしの役割を担うと共に、犯罪抑止の役割も担っているのである。
(さて、と……町の見学はもういいか。そろそろ本命に挑もうか)
アデルは首に掛けた指輪を握り締めて、王都の中心に聳え立つ王城を見上げた。
グドレアンから馬車に乗せてくれた行商人に別れを告げ、その足で大衆浴場へと向かう。王女殿下に会うのに不潔な身なりでは失礼だと思ったからだ。
着いたのが朝だったからか、大衆浴場も綺麗で使い心地が良かった。サウナにも入って、ここ数日の移動の疲れと汚れを一気に落ちた気になるほどすっきりとした。
風呂を上がってからは、王都ヴィルジュをぶらりと歩いて回る事にした。
アーシャ王女との面会が叶うのかどうか、叶ったところでそれからどういった流れになるかはわからない。いずれにせよ、暫くはヴェイユ島に滞在しなければならない事は確実だ。ヴェイユ王国の王都がどんな場所かは知っておく必要があった。
王都ヴィルジュをぶらぶらと歩いていてわかった事は、とにかく治安が良くて町も綺麗だという事だ。大陸の町にあるようなギスギスとした雰囲気もなく、殺伐さもない。
この町は皆が明るく、そして活き活きと生活をしている。
(良い国だなぁ)
アデルは改めてそう思うのだった。
ロレンス王が優れた為政者である事には疑いようがない。そしてアーシャは、そんな王の愛を一身に受けた娘だからこそ、あれだけ出来た人間なのだろう。
(この国で生まれていれば、俺の人生も違ったかな)
町中を歩いていても、喧嘩をしていたり、路地裏で浮浪者が死んだ様に生きていたりする事もなかった。アデルがこれまで生きてきて、当たり前の様にあった殺す殺されるという概念がない町であった。
では、そういった熱気や狂気、怒りや鬱憤が全くないのかと言えば、そうではない。そして、非暴力的な人間だけで一つの町が構成されているわけでもなかった。
(……この町には闘技場まであるのか)
大きな建物があったので、なんだろうと思って近づいてみれば、それは闘技場だった。
その闘技場は闘士達が自推で参加できる仕組みになっていた。腕っぷしや暴力でしか生きれない人間でも生きられる場所を、しっかりと用意しているのだ。
また、捕えられた罪人を闘士として戦わせているようでもあった。捕えられた罪人は、自推で参戦した闘士と不利な状況で戦わせる。町人達はそれを見て熱狂し、日ごろの鬱憤を晴らしているのだ。
見ていると、町人同士が闘士として戦っている試合もあった。その際は鉄製の武器は禁止されているようで、闘技場内にある木製の武器、或いは素手でのみ戦いが行われていた。加えて、大怪我をしないうちにしっかりと審判が戦いを止めている。
可能な限り死人が出ない様に──罪人を除いて──ルールも設けられている闘技場なのである。ちなみに、一般人が罪人の相手になる時は鉄製の武器や防具の使用が認められている様だ。
(全く……本当によく出来た国だよ、ここは)
アデルは感心して大きく息を吐いた。
人の中には暴力的なものがある事をわかった上で、町が設計してあるのだ。綺麗ごとだけでは統治などできないという事を知っているが、人間の持つ暴力性を町中では出させたくない──だからこその闘技場だ。鬱憤をぶつける場所をしっかりと作っているのである。
そして、国がそこまで徹底しているにも関わらず、ルールを破って罪人にでもなれば、闘技場で鬱憤を晴らされる側の駒となってしまうのだ。
罪人の憐れな姿を見ていれば、民衆達も罪を犯そうとは思わない。この闘技場は、民の鬱憤晴らしの役割を担うと共に、犯罪抑止の役割も担っているのである。
(さて、と……町の見学はもういいか。そろそろ本命に挑もうか)
アデルは首に掛けた指輪を握り締めて、王都の中心に聳え立つ王城を見上げた。