アデルは行商人の馬車に乗せられ、だらだらと王都への街道を進んでいた。
初めて見る景色を楽しめたのは最初の数時間だけで、途中からほとんど森や草原ばかりですぐに飽きてしまった。以降、積み荷だらけの馬車の中で寝て過ごす事が多い。
グドレアンの港町でアデルが目をつけたのは、行商人だった。狙いはその中でも、特に金がなさそうな行商人。彼らに、王都までの護衛を自ら買って出たのだ。
無論、普段町では見ない顔で、大きな剣など背負っている者から護衛を買って出ると言われても、警戒される。そんな時に役立つのが、冒険者の証だった。
冒険者にはパーティーランクとは別に、個人で仕事を請け負う際の等級分けが行われている。アデルは銀等級の冒険者で、上から三番目の等級所持者だ。冒険者としての信用度も高く、銀等級の証を見せれば大体の者は協力的になる。
冒険者ギルドのないヴェイユ王国で冒険者証が通用するのか自疑問だったが、幸運にも大陸出身の行商人がいて、アデルの護衛を受け入れてもらえた。護衛が一人もいないと賊から狙われやすいので、金のない行商人は移動も肝を冷やすのだという。
ただ、護衛すら雇えない貧乏な行商人である。銀等級の冒険者を雇えるだけの金がないと言われたが、報酬は馬車に乗せて王都まで運んで貰うだけで良いと伝えると、承諾してもらえた。
そうしてアデルは、ただ馬車に揺られて過ごすだけだった。
ここヴェイユ王国は、大陸に比べてならず者が非常に少ないそうだ。実際にこの行商人もこれまで一人で商いをしてきたが、強盗や賊に襲われた経験はないのだと言う。
しかし、運が悪いと賊に狙われる事もあって、被害に遭う場合もある。護衛を雇うのは保険掛けの様なものだそうだ。
「兄ちゃんは何でこんな田舎に来たんだ? 銀等級の冒険者なら、大陸に居た方が稼げるだろうに」
ある晩、焚火を囲んで夕飯を食っていると、初老の行商人にそう尋ねられた。
「命を削る仕事に、そろそろ疲れたんだ。平和そうなヴェイユでのんびり働ける仕事を探そうかと思ってね」
アデルは肩を竦めてそう答えるしかなかった。それに、嘘は言っていない。
この行商人は商いを営んでいた村が紛争に巻き込まれて燃えてしまい、そこから流れる様に新天地を求めてヴェイユ王国に流れ着いたのだという。
新興国という事もあって、流れ者にはそこそこ緩いのがこの国らしい。今この国で野盗崩れを行っている連中は、殆どが大陸からの流れ者なのだそうだ。
初めて見る景色を楽しめたのは最初の数時間だけで、途中からほとんど森や草原ばかりですぐに飽きてしまった。以降、積み荷だらけの馬車の中で寝て過ごす事が多い。
グドレアンの港町でアデルが目をつけたのは、行商人だった。狙いはその中でも、特に金がなさそうな行商人。彼らに、王都までの護衛を自ら買って出たのだ。
無論、普段町では見ない顔で、大きな剣など背負っている者から護衛を買って出ると言われても、警戒される。そんな時に役立つのが、冒険者の証だった。
冒険者にはパーティーランクとは別に、個人で仕事を請け負う際の等級分けが行われている。アデルは銀等級の冒険者で、上から三番目の等級所持者だ。冒険者としての信用度も高く、銀等級の証を見せれば大体の者は協力的になる。
冒険者ギルドのないヴェイユ王国で冒険者証が通用するのか自疑問だったが、幸運にも大陸出身の行商人がいて、アデルの護衛を受け入れてもらえた。護衛が一人もいないと賊から狙われやすいので、金のない行商人は移動も肝を冷やすのだという。
ただ、護衛すら雇えない貧乏な行商人である。銀等級の冒険者を雇えるだけの金がないと言われたが、報酬は馬車に乗せて王都まで運んで貰うだけで良いと伝えると、承諾してもらえた。
そうしてアデルは、ただ馬車に揺られて過ごすだけだった。
ここヴェイユ王国は、大陸に比べてならず者が非常に少ないそうだ。実際にこの行商人もこれまで一人で商いをしてきたが、強盗や賊に襲われた経験はないのだと言う。
しかし、運が悪いと賊に狙われる事もあって、被害に遭う場合もある。護衛を雇うのは保険掛けの様なものだそうだ。
「兄ちゃんは何でこんな田舎に来たんだ? 銀等級の冒険者なら、大陸に居た方が稼げるだろうに」
ある晩、焚火を囲んで夕飯を食っていると、初老の行商人にそう尋ねられた。
「命を削る仕事に、そろそろ疲れたんだ。平和そうなヴェイユでのんびり働ける仕事を探そうかと思ってね」
アデルは肩を竦めてそう答えるしかなかった。それに、嘘は言っていない。
この行商人は商いを営んでいた村が紛争に巻き込まれて燃えてしまい、そこから流れる様に新天地を求めてヴェイユ王国に流れ着いたのだという。
新興国という事もあって、流れ者にはそこそこ緩いのがこの国らしい。今この国で野盗崩れを行っている連中は、殆どが大陸からの流れ者なのだそうだ。