月日は流れ、僕は老犬になっていたワン。それは二〇〇二年三月十四日優太君の十七回目の誕生日だったワン。この日香子ちゃんは優太君に誕生日プレゼントを渡しに来たワン。
「優太ったら、本当にずるい! ホワイトデーが誕生日なんて! 本当は私がバレンタインデーのお返しをもらう日なのよ!」
香子ちゃんは不満そうに言ったワン。
「そんなこと言ったって、香子だって誕生日が二月十四日バレンタインデーじゃないか!」
優太君も不満そうに答えたワン。
「優太は知らないのよ! 基本的にバレンタインデーに女の子が男の子にチョコレートを渡すのは、日本独自の文化よ! 他の国じゃ男性が女性にバレンタインデーにプレゼントしたりするのよ!」
「何だよ、それ! それじゃあ俺が一方的にプレゼントを香子にしないといけないってこと!」
「日本じゃなければね」
「うん。そうすると、ホワイトデーも日本独自の文化じゃないの?」
二人の白熱した議論を横目に、僕は瞼を閉じたワン。

それはこの年の一月末のある日のことだったワン。優太君はそわそわしていたワン。バレンタインデーに、香子ちゃんに誕生日プレゼントする代わりに、今年は本命のチョコレートをもらえないかなと思っていたようだったワン。優太君は毎年香子ちゃんからは義理チョコはもらっていたが、香子ちゃんの誕生日プレゼントの返礼品として、ついでに渡されていたものだったようだったからだワン。僕は勇気の出せない優太君に飽き飽きしていたワン。だから香子ちゃんがうちに来て、優太君が席を外している時、僕は香子ちゃんに頼み込んだワン。
「香子ちゃん。僕のお願いを聞いてほしいワン」
「どうしたの、チャーリー?」
「香子ちゃんも分かる通り、僕はもう年老いた犬ワン。だから僕が元気なうちに、優太君と香子ちゃんに付き合ってほしいワン。だってこんなに二人とも一緒にいるのに、どうして付き合わないワン?」
「優太は私には興味ないと思っているの。毎年チョコレート渡しているのに、優太は私の好意に気づかないし」
「てっきりそれは義理チョコだと、僕も優太君も勘違いしていたワン」
「それに優太って意気地なし。もう私どうしたらいいの?」
「今度のバレンタインデーの優太君へのチョコレート、本命って言って気づかせてほしいワン。優太君はそういう女心に鈍感で、奥手だから。でも一度好きになった人を優太君は裏切ったりしないワン! 僕の嗅覚と犬の直感ワン!」
「そっか。チャーリーがそこまで言うなら、私やってみる! ありがとうチャーリー!」

 香子ちゃんには本当にお世話になりっぱなしワン。香子ちゃんは、僕の言う通りに本命のチョコだと分かるように、優太君に贈ったようだったワン。末永く二人ともお幸せにワン。