そんなある日のことだったワン。何気なく僕は大好きな徹兄さんにこう言ったワン。
「僕は弟の優太君とも仲良くしたいワン!」
すると徹兄さんは言ったワン。
「僕だって同じだよ!」
何気ない会話だったが、会話が成立したワン。僕には不思議に思えたワン。今まで、健太パパや志保ママ、優太君とは自分の犬言葉で、会話が成り立ったことがなかったから。どうやら徹兄さんには、犬言葉が分かるようだったワン。だがその代償で、周りの家族とは会話が成立せず、いつも兄さんはイライラしているのが僕には分かるワン。しかし優太君や健太パパ、志保ママには、楽しそうに笑っているようにしか見えなかったようだったワン。徹兄さんが笑う時は、いつも楽しいわけではないことを僕は知っているワン。むしろその真逆で、イライラしている時や困っている時も笑っているようだったワン。だから皆徹兄さんの苦しみなんてないようにしか見えてないようだったワン。それが徹兄さんを困らせることに、いつもなるのだったようだワン。人は表面だけ見て物事を判断する修正があるワン。でも僕は嗅覚や犬の直感で分かるのだワン。徹兄さんは、皆が思うほど、嬉しくも楽しくもないワン。むしろいつもその真逆ワン。どうして人間は表面だけでしか物事を判断できないのかワン? 僕が徹兄さんを守ってやるワン! 心にそう誓ったワン。

 さっきの光景を遠くから眺めていた優太君は、物珍しそうに近づいてきたワン。
「兄貴、今チャーリーと話していたよね? なんて話していたの?」
徹兄さんはいつものように笑顔を返したワン。
「チャーリーはかわいい」
兄さんはそう言ったワン。
「嘘だ! そうじゃないだろ、兄貴! 他に何て話していたの?」
優太君はむきになって、なおも兄さんを問いただそうとしているようだったワン。
「何バカなこと言っている! 人間が犬と話せるわけがないだろ! ましてや徹が!」
健太パパが隣の部屋で新聞を読み終え、テレビのスイッチをつけようとしていたところだったようだワン。
「でも父さん、さっき俺見たよ! 兄貴とチャーリーが話しているところ」
優太君はムカッとした風に言ったワン。
「ほう。じゃあ何て言って会話していたのかな?」
健太パパは上から目線で優太君に問いただしたワン。
「そ、それは、兄貴に聞かなきゃ分からない」
優太君は困ったように答えたワン。
「それが答えだ。徹に聞いても分かるはずがない」
優太君は顔を真っ赤にしたワン。不服そうだったワン。