帝都に戻り、ミツハを祀る神社の門前町に来た。チコと鯉黒に土産を買って帰ろうという話になり、土産物屋を見てまわる。ふと、新菜に声を掛ける人が居た。

「おや、この前のお嬢さん。水ようかんは口に合ったかい?」

声の主を見ると、水ようかん屋の主人だった。にこにこと人の好い笑みを浮かべている。

「はい、おかげさまで、みんなで美味しくいただきました」

「そいつぁ良かった。その言葉を、きっと天雨神さまも喜んでくださるだろうな。しかし、お嬢さんも隅に置けないねえ。お連れがこの前と違うじゃないか」

主人の言葉に、ミツハがピクリと反応する。

「新菜……。私と違う連れというのは……」

心なしか、声も低い。新菜は慌てて弁明した。

「あ、あの……、アマサトさまにこちらに降ろして頂いたときにこのお店を訪れたのですが、ナキサワさまが偶然いらして……」

ナキサワ、の言葉に、ミツハは再度ピクピクっと反応した。ミツハとナキサワは同じ水の神族であるが、ナキサワがミツハに敬意を抱いているのとは逆に、ミツハはナキサワのことを好いていないように見受けられる。不穏な空気を漂わせるミツハに、これ以上どう言えばいいのか迷っていると、ミツハは新菜の肩を抱くようにして、店主に言った。

「主人。彼女は私の妻であり、恩人だ。彼女の評判を傷付けるような言葉は、厳に慎んで頂きたい」

ミツハの言葉に、店主も気づいたように笑った。

「おや、すまなかったねえ。じゃあお前さんがお嬢さんの旦那かい? この前してなかったお嬢さんの左手の指輪は、旦那からの贈り物ってことか。いいねえ、新婚さんかい。大事にしな。お嬢さん、間違ってもこの前の色男に振り向いたりするんじゃないよ。あの御仁は行き交う人を色々たぶらかしてそうな顔をしてたからねえ」

カラカラと笑って店主が言う。新菜は肩を抱かれて動揺していたが、これだけは伝えることが出来た。

「はい。私には、ミツハさましか見えませんので」

しっかりとした声で言えば、ミツハが瞠目して新菜を見る。新菜はミツハを振り仰ぎ、

「ですので、ご心配は要りません」

と微笑むことが出来た。