どうしよう。
一年半振りの帰省は、波乱の幕開けだった。
お盆に戻ると両親に伝えていた私は、約束通り実家に帰ってきたが締め出しを食らってしまった。
理由はシンプルで、約束の日を一日間違えてしまったから。
上京する時に、母より渡されていた鍵を持って来ず。両親は明日まで、母方の実家に帰省していて留守の予定。
つまり私は、完全にやらかしてしまっていた。
「はぁ……」
開かずの玄関前で、へにゃへにゃとしゃがみ込む。
なんで私は社会人になってまで、こんなに鈍臭いのだろう。
子供の頃からそう。
そんな時に、いつも助けてくれた私のお兄ちゃん。
血の繋がりはないけど、本当の兄みたいだった。
「美香のことは俺が守る」といつも言ってくれていた。
……だけど今は無理だから、私一人でなんとかしないといけない。
えっと、こうゆう時は。
冷静に考えれば宿の手配なのだが、一つの失敗に囚われてしまった私の頭はフリーズしてしまう。
そんな私に、真っ昼間の太陽は容赦なく照りつけてくる。
暑い。暑い。もう嫌だ。
この熱さで、私をも溶かして欲しい。
何もかも上手くいかない私は、溶けた氷のように蒸発して消えてしまいたかった。
「美香?」
そんな私を呼んでくれる、やわらかな声。
六年振りに鼓膜を響かせてくれるその振動は心地よく、その瞬間に鳴り響く心臓の音が、この気持ちはまだ吹っ切れていないのだと知らせてくる。
「健ちゃん」
「やっぱり美香か! 久しぶりだね!」
ふわふわな黒髪に、目尻を下げてやわらかに笑う男性。
私に近付いてくるその人は、知っている人だけど少し違う。
健ちゃんはヒョロとしていたけど、今は半袖から見える腕はガッシリしていて、それだけの月日が経っていたのだと胸に沁み渡った。
だけど笑った表情も声も変わっていなくて、それが余計に私の心を掻き乱してくる。
「どうしたの? 帰って来たんだよね?」
「う、うん。まあ……」
私は、その無邪気な瞳から逸らしてしまう。
こんなバカみたいなこと、またしているなんて思われたくなくて。
「……もしかして家に入れなくて、困ってるんじゃないの?」
「あ、えっと……」
気付けば私は、悪いことを知られた子供のように目をキョロキョロさせていた。
「そっか。分かった」
全てを悟ったような表情をした健ちゃんは、私ににっこり笑いかけてくれた。