「……考えておく」
「それだけ……ですか?」
「俺たち神にとって、審神者というのは自分の半身も同然だ。そう下手な人間を選ぶわけにはいかない。選ぶとしたら、もう少し見極めてからだ。駄目というわけではないっ!」

 照れ隠しのつもりなのか、後半は声がうわずっていた。もしかしたら素直に言うのが恥ずかしいだけなのかもしれない。これから審神者になるのなら、主人にして自分の友人でもある神の――蓬の心の機微も悟れるようになる必要があるだろう。蓬の言葉の裏に隠れている本心をいつも理解していたセイのように。
 慣れるまではさぞかし――前途多難なことに違いない。

「はいはい。見極めてからですね。結果を楽しみにしています」
「楽しみにしなくていいっ……!」

 莉亜が微笑みを浮かべていると、いつの間にかハルがおにぎりの隣にいた。黒い鼻を近づけて匂いを嗅いでいたかと思うと、次の瞬間にはその内の一つのおにぎり――おそらく蓬とセイのレシピを組み合わせて作ったであろうおにぎり、を食べ始めたのだった。

「こら、ハルっ!」
「ハル、駄目だよ。これは人間用の食べ物なんだから。猫には毒、なんだからね!」

 幼子に言い聞かせるように莉亜が優しく諭している間に蓬が竹皮の包みごとおにぎりを取り上げるが、ハルは負けじと竹紐に手を伸ばして掴もうとする。そんなハルから身を翻した蓬が手早く竹紐で包みを結ぶと、帰り支度を始めたのだった。

「そろそろ帰るか。あまり遅いと開店に間に合わなくなる」
「そういえば、この前大学帰りに金魚さんが働くおにぎり屋に寄った時に教えてもらったんですけれども、蓬さんのお店がかくりよの地方紙に載っていたそうですよ。読者投稿のコーナーに蓬さんのお店のことを書いた読者さんがいたそうで、その地方紙の料理欄担当の記者さんがお店のことを調べて記事にしてくれたそうです」
「その地方紙は、この間常連客から貰った気がするな。その記者らしきあやかしも店に来ていたような……」
「そうなんですか! 全然知らなかったです……」
「お前がいない時だったからな。地方紙は貰ったまま放置している。帰ったら読んでみるか……。人の世に暮らしている金魚も知っているのなら、かくりよに限らず広範囲に配布されているのかもしれない。セイも目を通しているかもな」
「私もどんな記事か気になります!」

 二人が話しながら去って行く後ろ姿をセイの墓の前から見つめる者がいた。古風な黒い学生服に身を包んだ、蓬と雰囲気の良く似た若い青年――セイ本人であった。