「ねぇねぇ、りあおねえちゃん」
それから少しして他の客の対応をしていると。おにぎりを食べていた雨降り小僧たちに声を掛けられる。
「どうしたの?」
「きょうのおみそしる、へんなあじがするの」
「味噌汁?」
雨降り小僧から味噌汁のお椀を見せてもらうが、特におかしなところは無かった。匂いにも違和感はなく、腐っている様子はない。具材の豆腐と油揚げにも異常は無さそうだった。
「なんだろう……。蓬さんに聞いてくるね」
「おい、なんだ! この味噌汁は!? とても食えたものじゃないぞっ!」
店内を満たような怒号に莉亜は顔を上げる。カウンター席では初めて来店したと思しき鼠の姿をした年配の男性が蓬に詰め寄っていた。
「変というのは?」
「あんこ餅のように甘ったるくてとても食べられたもんじゃない! 食ってみろ!」
「あ、ああ……」
緊張しているのか委縮したように蓬はぎこちない動きで味噌汁を小皿によそうと、言われた通りに味を確かめる。すぐに何か言うだろうと莉亜も様子を見ていたが、蓬は小皿から口を離しても、青白い顔を強張らせたまま無言で固まっていたのだった。
(蓬さん……?)
その間も男性は勝ち誇った顔と共に「どうだ? おかしいだろう!」と蓬に詰め寄り、味噌汁を飲んだ他の客も「本当だ」、「味がおかしいわ……」と小波のように騒ぎ出したのだった。
「蓬さん!」
この状況に居ても立っても居られず、カウンターに戻った莉亜は小声で声を掛ける。放心していて莉亜の声に気付かなかったのか、蓬は少し経ってから「あ、ああ……」と力ない返事をしたのだった。
「雨降り小僧ちゃんたちも言っていました。今日の味噌汁は味がおかしいって」
「そうか……」
いつもの蓬とは違って、言葉尻が弱く、今にも項垂れそうな様子に莉亜の焦りはますます募ってくる。
今日の蓬はどこか変だ。このままにしてはいけない。そう考えた時には声を掛けていた。
「私も味見してもいいですか?」
「頼む……」
弱弱しい蓬に変わって、味噌汁を小皿によそって口にする。口に入れてすぐその原因に気付き、危うく吹き出しそうになったのだった。
「な、なにこれっ!? あまっ! お汁粉みたい!」
砂糖を入れ過ぎたような菓子のように甘ったるい味噌汁に莉亜も口を押さえてしまう。そんな莉亜の様子に、鼠も満足そうに鼻を鳴らしたのだった。
「ほら見ろ。そこのお嬢ちゃんの言った通りだろう!! こんなに甘ったるい味噌汁なんて食べられるか! 美味い店だと噂に聞いて来たが無駄足だった!」
男性は吐き捨てるように言って乱暴に代金をカウンターに置くと、息も荒く、店を出て行ってしまう。その後、店内は水を打ったように静まり返っていたが、やがて他の客も徐々に帰り支度を始める。その中には常連客もいたので、莉亜は代わりのものを用意すると引き止めるが、今日は蓬の体調が良くないようだからと、丁重に断られてしまったのだった。
莉亜が会計をしている間も、蓬は顔面蒼白のまま直立不動でいた。いつの間にか店内に戻ってきたハルが慰めるように足元をうろつき、切り火たちが社から顔を出しているものの、蓬は気づいていないようだった。そんな蓬を心配しつつも、莉亜は客の相手や後片付けを続けたのだった。
それから少しして他の客の対応をしていると。おにぎりを食べていた雨降り小僧たちに声を掛けられる。
「どうしたの?」
「きょうのおみそしる、へんなあじがするの」
「味噌汁?」
雨降り小僧から味噌汁のお椀を見せてもらうが、特におかしなところは無かった。匂いにも違和感はなく、腐っている様子はない。具材の豆腐と油揚げにも異常は無さそうだった。
「なんだろう……。蓬さんに聞いてくるね」
「おい、なんだ! この味噌汁は!? とても食えたものじゃないぞっ!」
店内を満たような怒号に莉亜は顔を上げる。カウンター席では初めて来店したと思しき鼠の姿をした年配の男性が蓬に詰め寄っていた。
「変というのは?」
「あんこ餅のように甘ったるくてとても食べられたもんじゃない! 食ってみろ!」
「あ、ああ……」
緊張しているのか委縮したように蓬はぎこちない動きで味噌汁を小皿によそうと、言われた通りに味を確かめる。すぐに何か言うだろうと莉亜も様子を見ていたが、蓬は小皿から口を離しても、青白い顔を強張らせたまま無言で固まっていたのだった。
(蓬さん……?)
その間も男性は勝ち誇った顔と共に「どうだ? おかしいだろう!」と蓬に詰め寄り、味噌汁を飲んだ他の客も「本当だ」、「味がおかしいわ……」と小波のように騒ぎ出したのだった。
「蓬さん!」
この状況に居ても立っても居られず、カウンターに戻った莉亜は小声で声を掛ける。放心していて莉亜の声に気付かなかったのか、蓬は少し経ってから「あ、ああ……」と力ない返事をしたのだった。
「雨降り小僧ちゃんたちも言っていました。今日の味噌汁は味がおかしいって」
「そうか……」
いつもの蓬とは違って、言葉尻が弱く、今にも項垂れそうな様子に莉亜の焦りはますます募ってくる。
今日の蓬はどこか変だ。このままにしてはいけない。そう考えた時には声を掛けていた。
「私も味見してもいいですか?」
「頼む……」
弱弱しい蓬に変わって、味噌汁を小皿によそって口にする。口に入れてすぐその原因に気付き、危うく吹き出しそうになったのだった。
「な、なにこれっ!? あまっ! お汁粉みたい!」
砂糖を入れ過ぎたような菓子のように甘ったるい味噌汁に莉亜も口を押さえてしまう。そんな莉亜の様子に、鼠も満足そうに鼻を鳴らしたのだった。
「ほら見ろ。そこのお嬢ちゃんの言った通りだろう!! こんなに甘ったるい味噌汁なんて食べられるか! 美味い店だと噂に聞いて来たが無駄足だった!」
男性は吐き捨てるように言って乱暴に代金をカウンターに置くと、息も荒く、店を出て行ってしまう。その後、店内は水を打ったように静まり返っていたが、やがて他の客も徐々に帰り支度を始める。その中には常連客もいたので、莉亜は代わりのものを用意すると引き止めるが、今日は蓬の体調が良くないようだからと、丁重に断られてしまったのだった。
莉亜が会計をしている間も、蓬は顔面蒼白のまま直立不動でいた。いつの間にか店内に戻ってきたハルが慰めるように足元をうろつき、切り火たちが社から顔を出しているものの、蓬は気づいていないようだった。そんな蓬を心配しつつも、莉亜は客の相手や後片付けを続けたのだった。