「え?」
 そう告げると、彼は目を見開いて私を呆然と見つめてくる。
 まるで当事者のような反応に、凝視出来なかった私は慌ててその目から視線を逸らした。
「あ、別に確定したわけじゃないし。ちょっと遅れているかなって、元々不順気味だし。今回も、きっとそうだから」
 カラ元気は続かず、私の口角はどんどん下がっていく。
 あ、ダメだ。

「……一カ月前にそうゆうことあって。もう二週間遅れてて。なんかさ、微熱とか、気持ち悪さとかあって。それを彼に言ったら……喧嘩になって。どうしよう。本当に妊娠していたら。私、私……」
 その瞬間、張り詰めていたものが溢れてきて、ポロポロと落ちてきてしまう。
 助けて。お願い。こんなこと、一人で抱えるには重すぎるよ。

 後藤くんはそんな私にハンカチを渡してくれ、泣き止むまでずっと側に居てくれた。
「大丈夫。きっと大丈夫」とずっと言ってくれて。

 しばらくして、少し冷静になった私が一言ごめんと謝ると。
「確かめましょう。えっと、えっと……」
 次は後藤くんが取り乱した。

「持ってるの。それ」
 ポケットに押し込んでいたビニール袋を取り出すと、箱は私の体重でぺちゃんこになっていたけど。中身はしっかり保護されていて、一枚の紙と一本の棒状で個装された物が出てきた。
 妊娠検査薬。
 彼氏に握らされた千円札で買ったものだ。

 中身を開けてそっと取り出すと、そこには生々しい現実があり、私の心臓はドクリと音を鳴らしてきた。
 判定時間五分。たったそれだけで、私の人生が決まってしまう。こんな小さな物によって、この先の人生を告げられてしまう。

「……怖い。逃げられない現実が……」
 身勝手過ぎる言葉を口にした私は、最低だと分かっている。
 そうなるぐらいなら、どうしてあの時に拒否しなかったの?
 戻れない過去と自分の愚かさに、胃がムカムカとしてくる。