ピタッ。
「ひゃあ!」
 思わず声を出し、飛び上がってしまった。
 突然頬に触れた、冷たい感触によって。

「……痛そうですね?」
「え?」
「ちゃんと冷やさないとダメですよ。痕、残ったら大変ですから」
 そう言って差し出してきたのは、タオルのような物に包まれた冷たい感覚がする物が多数。保冷剤だろう。

「どれだけあるの?」
 思わず笑いが一つ溢れてしまう。
「節約……、ですから」

 私は、冷たいそれらを腫れた部位に当てていく。
 すると先程までの痛みは軽減し、気付けば「ありがとう」と呟いていた。
 
「……彼ですか?」
「後藤くんには関係ないことだから」
「泊めているのだから俺だって口出しする。そう言っているじゃないですか?」
「……え? あれ、そうゆう意味だったの?」
「他にどんな意味が?」
「あ、別に!」
 体全体が、また一気に火照り出す。
 何、勘違いしているの私は?

 パッと部屋は明るくなり、私は慌ててマスクを探す。
 こんな姿を見せるわけにはいかない。彼には。

 枕元に置いておいたマスクを手に取り、装着しようとしたけど。その両手首を掴んできた後藤くんは、私の顔を見て明らかに表情を変えた。

 やめて。苦しまないで。
 だから、隠してきたのに。
 力が抜けた彼の手をすり抜けさせ、マスクを装着する。
 あなたにだけは見て欲しくなかったの。この腫れ上がった顔を。

「先輩。はっきり言います。これは喧嘩の域を超えています。ただの暴力です。一刻も早く別れてください」
「違うよ、ただの喧嘩。私が彼を怒らせたから悪いの」
「じゃあ腕を見せてください。脚も」
「それは……」
 私は袖をグッと抑える。
 それは出来ない。これ以上、後藤くんを傷付けるわけには。

「とにかく冷やしてください」
 そう促され、頬、両腕、両脚の腫れた部位を冷やしていく。
 特に背中が痛くて上手く冷やせなかったけど、湿布をくれ痛みは軽減してくれた。
 傷付いた体はいつか癒えてくれる。だけど、私は。

「私ね。私。……妊娠しているかもしれないの」