え。怖い、どうしよう。
そう思っても何か出来るわけでなく、目をギュッと閉じて終わるのを待つしかなかった。
すると、その瞬間に感じるベッドの軋み。
彼が、体を起こしたと分かった。
次に触れられたのは頬だった。大きな手で包み込んできて、指でトントンと触ってくる。
それがあまりにも執拗で、唇に触れそうで、閉じていた目を開けて、その手の先を見ようと振り返る。
すると暗闇でも合う視線。
彼もそれに気付いたようだったけどその手を止めず、私の頬に手を添えたままだった。
やめて。
その言葉が出なかった。
私はいつも強気で、後藤くんの言うことは跳ね除けて遠ざけていた。
だから今も同じく、そう言えば良いじゃない?
だけど言えなかった。
暗くても分かる、私を見つめるその視線が怖くて。
「泊めているのだから、俺だって」
そう言って、顔を近付けてくる彼。
あ、そっか。彼も結局、そっち目的か。
私を泊めてくれたのも。
後藤くんとは一緒に働いて三年。
バイトに入ってきた時に仕事内容を教えていたけど、ただ返事をするだけで世間話などは一切しない。
良く言えばクール、悪く言えば無愛想な人だった。
だけど仕事に対して真面目で、ビール瓶を運ぶとかの重たい仕事をさりげなく変わってくれて、酔ったお客さんに絡まれている時も毅然と対応してくれ助けてくれた。
そんな彼が最近話しかけてくれるのは、私を心配してくれているからだと信じていた。
だけど違った。私、どこまでバカなんだろう?
せめて、同じ過ちは繰り返さないようにしないと。
後藤くん。ちゃんと持って……。
……あ。いや、もういいんだ。
今更。もう。
どうしてあの時、そう言えなかったのだろう?
そしたら今、こんなに苦しむ必要なんてなかったのに。
私バカだよね?
情けないよ、本当に。
全てを受け入れようと目を閉じると、彼がスッと離れて行く気配。
遠くで何かを開け閉めする音がするけど、だからと言ってこの状態がなんとかなるわけじゃない。
逃げる? ……帰る家も、守ってくれる人もいないのに?
私なんか、誰も気に留めてもくれていないのに?
ほら、足音が近付いてきた。
もういいや。なんでも。