「寝なくて大丈夫ですか?」
「うん。まあ……」
 後藤くんは変わらずの長袖長ズボンのルームウェアで、私のせいでこんな暑い格好をしているのだと、思わず目を逸らしてしまう。
 
「後藤くんはどこで寝るの?」
「俺? 適当に寝るので問題ないです」
「え? さすがにそれは……。私が下で寝るし」
「女性を下に寝かせることなんて出来ませんよ」
 当たり前のように出てきた言葉。

 何それ? そんな優しい言葉を投げかけてくれるなんて。いつ振りだろうか?
 そう思った私は。
「だったら一緒に寝ない?」
 そう呟いていた。

 その瞬間にカァっと熱くなる全身。
 ポーカーフェイスの後藤くんも、目を丸くし口を開けてしまっている。
 ヤバっ。完全にやらかしてしまった。
 そう思った私は、思わず玄関に向かって足を動かしていた。

「痛っ!」
 突然の痛みに驚き振り向くと、そこには私の手首を掴んでくる後藤くん。
「あ、すみません!」
 パッと離しこちらを真っ直ぐ見てくるその瞳を、私は凝視出来なかった。

「帰らないでください」
 あまりにもストレート過ぎる言葉。
 だけど、それを間に受けてはいけない。
 彼は私に、好意を持っているわけじゃない。
 分かり切っていること、だけど。
「……うん」
 そう、答えていた。

 私の部屋には彼氏が待っている。
 あれから二時間以上は過ぎていて、今更帰ることなんて出来ない。
 だから。

「狭くないですか?」
「うん。平気」
 後藤くんと一つのベッドで眠ることになった。
 いつも彼氏とシングルベッドで眠っているから、この狭さは全然余裕。
 ……嘘。そんなわけはない。
 ただのバイト仲間とこうなるなんて、余裕なわけあるはずがない。
 後藤くんが電気のリモコンを押すと部屋は暗くなり、ただ時計の鳴る音だけが響いていた。

 カチカチカチカチ。
 どうしよう。これじゃあまるで、私が誘ってるみたいじゃない?
 寝てしまおう。寝てしまったら、この夜は終わる。
 そう思い硬く目を閉じるけど、意識すればするほど体全体がジンジンと痛みだし、眠りに落ちるのを阻んでくる。
 この痛みが、忘れさせてくれない。
 アパートを飛び出す前にあったことも、今私の体に起きているかもしれない大きな異変も。

 どうしよう。私はどうしたいの?
 唯一痛くない場所を無意識に触れると、腕に違和感を覚えた。
 何かが触れてきている?
 だけど私の手は腹部にあり、彼は当然ながら居ない。
 だから、この手は後藤くん?
 分かり切っていることなのに、私の思考が追いつかない。