「暑くないですか? また冷やしておいたので」
 シャワーから出てきた私にそう言い、また出してくる保冷剤。
 それが火照った体を冷やしてくれ、頭をも醒ましてくれる。

 帰らないと。
 さすがにこれ以上は。
「私、そろそろ……」
「俺もシャワー浴びてきます。だから……」
 ドクン。
 私を見つめる目に、逸らそうとすると。

「先輩はベッドで、先に寝ていてください」
「……え? うん」
 そのまま洗面所に行く姿に、私はポカーンとなってしまう。
 え? 寝て良いの? いや、ベッドで? それって良いの?
 思考がぐちゃぐちゃになっていた私は、スマホを取り出そうとポケットに手を突っ込んでいた。
 しかし出てきたのは同じ四角形でも柔らかい物で、それは私に容赦なく現実を突き付けてくる。
 そうだ。スマホは自分のアパートに忘れてきたのだった。
 良かった。今、私は何にも縛られない。
 彼からの呪縛にも。

 そう思うと体の硬直は解け、体を伸ばしてベッドで横になれた。
 こんなふうに体を伸ばして横になるのは、いつ振りだろうか。
 しばらくゴロゴロとして、ようやく気付く。この部屋にはソファなどの簡易な寝床などない。
 後藤くんはどこで寝るのだろうか?
 そう思った私の体は、また硬直してしまう。
 まさか一緒に?
 いや、それはさすがにマズイでしょう?

 慌てて玄関に向かって行った私は、ドアノブに手を掛ける。
 でも今帰ったら……。
 すると、また体はカチコチに硬直してしまい、私は。