お互いに思っていたことを吐露し、安心しきった顔でお酒を楽しく飲む。互いの仕事の話を主に話し、愚痴を聞きあって笑いあった。


 終電まで、あと20分___。


 「あ、ごめん。もうこんな時間か。終電無くなっちゃうし、もうそろそろお開きにしよっか。」

  弘樹はふと腕時計を確認し、そういった。

 え、帰っちゃうの…?せっかく、またこうやって会えたのに。こんなに楽しく話し合ったのに。もっと、まだ、話していたい。もっと一緒に居たい。

 そんなことを思い、緊張しながらある言葉を口にする。

「…終電無くなっても、タクシーで帰れるから大丈夫だよ。」

「え…?いや、でも、いくらタクシーだっていっても女の子一人で帰るのは危ないよ。俺も送っていけないし…。」

送って、いけないの…?そういった場所に行かなかったとしても、家に送ってくれると思っていた私は少しだけ傷ついてしまった。
そんなことを考えてぼーっとしていると、彼は鞄からあるものを取り出していた。

指輪。

鞄から取り出したソレを、彼は左手の薬指にはめた。

思考が、止まった。
 え…?今、指輪を…左手の薬指に…。

「え、あ…。もしかして、それって…。」

指輪、結婚。その単語は言えなかった。動揺が隠しきれず視線が定まらない。

「あ、これ?んー、実は去年、大学で一緒だった子と結婚してさ。指輪は仕事中少し邪魔だから外してるんだよ。今日は急いでたから、同窓会までにつける時間なくて…。」

そういって、彼は幸せそうに笑っていた。私は、うまく笑えなかった。

「そっか。じゃあ、奥さんが心配するから帰らないとね。」

 言いたくない単語だった。「奥さん。」そんな言葉、彼に言いたくなかったし、いうならばせめて笑って言いたかった。