金曜日を待ちわびながら仕事をする今週はとても長く感じた。
でも、金曜日になったら…。なんて、金曜日を糧にして仕事をするなんて今までなかったのに、金曜日のためだけに仕事をこなしている自分に自分でも驚いていた。

本当に、一晩でわたしの人生が変わったような気がした。
名前も知らない相手だというのに、ただお酒を飲みながら話しているだけなのに、今までに味わったことのない快感を得たような気がしていた。

名前…金曜日に絶対聞こう。
もう「彼」や「青年」と心の中で呼ぶのは終わりにしたいし、抽象的な声掛けで話をするのではなく名前を呼びあって話がしたい。
彼は私のことを「お姉さん」呼ぶ。それは私も名前を明かしていないから。
今はまだお互いに名前を知らない。けれど、次こそはお互いに名前を呼び合いたい。

そんなことを考えながら、仕事をしていた。
毎日、毎日。
彼とどんなことを話そう。どんな話がいいのかな。仕事の愚痴ばかり聞いてたらきっといやだよね。次は私中心の話じゃなくて、彼のことももっと教えてほしいな。
どんな小さいことだっていい。何の仕事をしていて、普段どんな日々を送っているんだろう。
彼に関することだったらどんなことだって知りたいと思った。

私の脳内は彼のことでいっぱいだった。
仕事中も、家に帰ってからも。ずっと。

そんな集中力の欠片もない日常を送っていけば、待ちに待っていた金曜日になった。
今日の仕事終わりを考えるだけで胸が躍る。

今週の仕事は苦ではなかった。
もちろん、相変わらず私の担当ではない仕事が回ってきたり、残業が多かったりなど今までの嫌な出来事の目白押しだったが。
でも、それも今日仕事が終われば解放される。
彼に、あの人に会える。

その一心で、仕事に打ち込み残業なんかしないで急いでバーへと足を向けた。