そんな彼とこの会話をきっかけで他愛のない話をしながらお酒を嗜んだ。
愚痴まではいかないが、仕事のちょっとした話、私生活の話…。
お互い、詳しいことは話さずに少し雲をのかかった会話を楽しんだ。

「…こんな、誰かとゆっくり話をしながらお酒を飲むなんて久しぶりだなぁ…。」

いい感じに体が火照ってきた頃、つい思っていた本音が口から出る。

「そうなの?お姉さん、彼氏さんとかいないんだ。」

「居たらこんなとこで1人でお酒飲んでないでしょ。
見たらわかるくせに、彼氏持ちじゃない事ぐらい。」

痛いところを突かれてしまい、つい拗ねたような声が出てしまった。

「それは申し訳ないことを聞いちゃったな。
じゃあ…そのお礼に、また次もお姉さんの話聞かせてよ。仕事の愚痴でも、普段の何気ない話でも何でも。」

「え?」

思ってもみなかった提案に思わず聞き返す。

「来週の金曜日。またここで会わない?」

それは、またお酒を一緒に飲もう、という提案だった。

青年は、悪戯っぽい笑みを浮かべて私を誘っている。
この誘いに、乗ってもいいのだろうか。
彼には、なにか引き寄せられるものがある。
理由は分からない。ただ、本能として惹かれてしまう。
危険だから辞めておいた方がいい、という私も居たが、私はその自分の声に気付かないふりをして返事をした。

「わかった。じゃあ、また来週の金曜日。ここで会おっか。」

あぁ、言ってしまった。
何となく、危険と分かっていたのにも関わらず。
でも、刺激のない人生に刺激が欲しいと願ってしまった私の心も、また危険なのかもしれない。