その青年は迷わずあるカクテルを頼んでいた。
私はなぜか、彼がどんなお酒を頼んだのかが気になってしまい、お酒が青年の元へ届くと同時につい声をかけてしまった。

「ねぇ、今頼んでたカクテルって、どんな味なの?」

「…アクダクト。僕の好きなカクテルの一つです。」

彼は少しだけ間を置いて、少し笑みを浮かべて答えた。

数ミリ目にかかったサラサラの前髪が、言葉を紡ぐ仕草と同時に揺れてその妖艶さについ目を奪われてしまった。

「そうなんだ。好きなうちの1つってことは、お酒が好きなんだね。」

私は彼の瞳に見とれてしまったのを隠すようにそう会話を続けた。

「はい。カクテルが、好きなんです。お姉さんは?」

「私もお酒、好きだよ。自分だけの時間、自分だけの世界に浸れるからね。」

「お姉さん、なにか悩んでたりするの?」

「え?」

思わぬ図星を突かれて変な声で聞き返してしまった。

「だって、お姉さん、自分だけの時間、世界って言ったから。普段の自分だけじゃない日常に不満でもあるのかなって。」

そういって、青年はクスッと笑いながら私の目をじっと見つめた。
なにか、見透かされているような気がした。