私には恋人がいない。
寂しくないと言えば嘘になるが、別に恋人を欲しているというわけではない。

ただ、今日みたいに大変なことがあったり、悲しいことがあったときに話を聞いてくれる相手がいないことは少し悲しいようなむなしい気持ちになる。

恋人はおろか、友人も少ない私は話を聞いてもらい慰めてもらったり、愚痴を聞いてもらう友人もいない。
だから、そんな気持ちを埋める相手としてお酒で慰めてもらっている。
ここだけを聞いたらなんとも悲しい女なんだろう。
もうすぐ30代になるような女の慰める相手が酒だなんて。

そんなことを考えながらグラスに閉じ込められている美しく氷と共に輝くお酒を眺めながらちびちびと飲んでいると、カランコロンッと店のドアが開く音がした。

この時間に誰かが入ってくるなんて珍しい。
いつもここへ来るときは大体私が最後で、ドアの音を聞くのは客が帰る時だけだ。

聞きなれない音でドアの方を見れば、そこには初めて見る青年が立っていた。
とても幼い見た目で、やっとお酒を飲めるようになった20代前半の青年、という印象だった。
少し伏目がちで入ってきたその青年は、とても綺麗な瞳をしていた。
そして、なにか引き寄せられるような瞳だと思った。

そんな彼はなぜか、私の席から1つ席を開けて右側の席へ腰かけた。
特に広い店内というわけではなかったが、青年が私の近くに座ったことについ驚いてしまった。
だがその席はバーテンダーの目の前の席だったため、ただ動きを間近で見たかったからなのかもしれない。