あの後、2人で彼の頼んだカクテルを飲み、お店が閉まるころ、お酒を飲み干してゆっくりと眠れる場所を探した。
私は熱い頬を冷ますように風を浴びながら夜道を歩いた。
その間2人の間に会話はなく、ビル街を抜けて繁華街の方へ足を向けていった。

けれどその足取りは、しっかりとしたものだった。



その後、2人で眠れる場所でゆっくりと、濃い時間を過ごした。


朝起きると、彼の姿はなかった。
ゆっくりと体を起こしていたら、ベットのわきに置いてあるメモに目が留まった。
そこには、

アクダクト
スクリュードライバー
グランドスラム

と丁寧な字で書いてあった。
寝起きの私には一瞬訳が分からなかったが、すぐに彼が私と会ってからあのバーで飲んでいたお酒の名前だと分かった。
そして、急いでこの3つのカクテル言葉を調べた。

アクダクト       時の流れに身をまかして
スクリュードライバー  あなたに心を奪われた
グランドスラム     2人だけの秘密

全て、見透かされていた。
私が彼に惹かれることも、惹かれたうえで、どんな結果になるのかも全部ばれていたのだ。
そして、彼の罠に引っ掛かった。
最後、2人だけの秘密というカクテルを飲んで私の前から跡形もなく消えていなくなったということは、きっともう彼はあのバーに来ない。

なんとなく危うい関係だと、妖艶だからこそ危険な人だと分かっていたけれど、心は寂しいと感じていた。
なぜ、彼は何も言わずにいなくなったのだろう。
彼のことを何も知らない私には、まったくわからない。
そんな中、ふと私がいつも飲むカルーアミルクのカクテル言葉が気になった。
調べるとそこには、こう書かれていた。

カルーアミルク    臆病 いたずら好き

自分で調べて、自分のことを笑ってしまった。
まさに私のことではないか。普段は臆病で独り孤独に生きているというのに、初めて会った夜は、私から興味本位でいたずらに彼に声をかけた。
つまり、この関係を始めたのは私。

そう気づいた私は、少しすっきりとした気持ちだった。
自分から招いた、一夜の恋。でもそれはもう2度と会うことはなく、2人の心の中に留める秘密の恋。

普通で平凡な人生を送っていた私にとってはとても刺激的な経験だったが、これも悪くないと思えた。

この1週間の出来事と、彼への気持ちは、きっと一生忘れることもないのだろうけれど。