「ペース早くない?大丈夫?」

「あ、大丈夫。今週お酒飲んでなかったから美味しくてついはやくなっちゃった。」

別に、嘘をついているわけではない。
実際今日のために家でお酒は飲まずにいた。そして、彼の言葉で落ち着かない心臓をなんとか通常運転に戻したくて飲むペースが狂う。

「そうなんだ。じゃあ今日はいっぱい飲めるね。」

そう言って彼もぐっとお酒を仰いだ。
彼がする仕草ひとつひとつが、妙に色っぽく見えた。
そんな姿を見ていたら、お酒でほんのりと熱を持っていく自分の頬に気持ちよくなりながら、ずっと思っていた本心が出始める。

「…本当に、綺麗だよね。」

「…どうしたの急に。もしかしてもう酔ってるの?」

彼は少し驚いたのかいったんグラスをくるくると回す手ぶりをやめて聞き返してきた。

「ううん、酔ってないよ。会ったときから、ずっと思ってたことだよ。サラサラの髪が綺麗な目に少しかかっているところとか、ほんとに綺麗だなって思ってた。」

「今日のお姉さんはずいぶんと積極的だね。僕、今口説かれちゃってる?」

「そうだね~、口説いちゃおうかな?君は…何て名前なの?ずっと聞きたかった。」

私の返事になぜか満足げな表情を浮かべてから答えた。

「名前か…。知りたいなら、当ててみてよ。」

「…教えてくれないの?」

「お姉さんには秘密主義でいこうかなって思って。出会い方も、なんだかロマンチックだったからね。」

そういった彼は優しい物言いではあったが、教えないということを目つきで諭された。