芽衣子ちゃんは、浮気をしている。
正確に言えば、最初から海斗くんは本命じゃなかった。
「……えっ。何年付き合ってるの?」
『六年』
「六年も付き合ってて、ずっと他に男がいるの!?」
『そういうこと〜。いつかは俺のことだけ見てくれる、って思ってたんだけどさ。最近さすがにしんどくなってきた』
私は芽夢ちゃんへの怒りを必死で堪えて、震える声で訊ねた。
「……海斗くん、最初から知ってて付き合ったの?」
まさか、と海斗くんは否定した。
最初は知らなかった、と。
疑い始めたのは四年前。
やたらと女子会に出かける、とか。
男物の香水の匂いがする、とか。
あげた覚えのない少し高めのアクセサリー。
バイトの後に知らないシャンプーの香りがしたこと。
全てが嘘だと思いたかった、と海斗くんは呟いた。
『一回、問い詰めたんだよね。そしたらあっさり白状して。俺と付き合う前から、付き合ったり別れたりを繰り返してる相手がいる、って』
そんなのはあまりにひどすぎる。
悔しくて涙が出そうになって、チューハイと一緒に飲み込んだ。
「…………別れようって思わなかったの?」
少しだけ声が震えてしまったのは、『それ』を選んで欲しいと思ってしまっているからだ。
私なら、浮気なんてしない。
私なら、海斗くんだけをずっと好きでいる。
私なら、こんな風に海斗くんに悲しそうな声を出させたりしない。
でも、私だから、海斗くんは選んでくれない。
悲しい現実から逃げるために、二本目のチューハイを開けた。
『そいつとは別れるって約束してくれたからさぁ……。信じたいって、思うじゃん』
こんなに誰かを好きになったの、初めてだし。
続いた言葉が私を傷つけていることに、海斗くんは気づかない。
「今日の女子会も……浮気ってこと?」
『ん。そういうこと〜』
「止めないの?」
『止めようって何回も思ったよ。でも問い詰めたら、別れるって言われそうでこわくて』
情けねえよなぁ、と海斗くんは言うけれど、きっと私が海斗くんの立場でも言えないと思う。
自分が本命じゃなくて二番目だと分かっているなら、なおさら。
チューハイをぐいっと飲んで、心の中で芽夢ちゃんに文句を言う。
芽夢ちゃんは海斗くんの運命の人なんでしょ?
だったらちゃんと海斗くんのことを大事にしてよ。
浮気なんかで海斗くんを傷つけないでよ。
『咲子って浮気されたことある?』
「ないよ。他に好きな人ができたってフラれたことはあるけど」
『へぇ。良心的な彼氏だ』
あなたのことですよ、とは言ってあげない。
海斗くんは気づかずに話を続ける。
『…………正直に言っていい?』
「んー、いいよ」
『芽夢ちゃんが今他の男に抱かれてるって思うと吐き気がする』
それなのに好きなの?
海斗くんは、一途だよね。
そんなところも好きだけど、私は海斗くんがしんどい思いをしているのは耐えられなかった。
「それならさ、しちゃおうよ、海斗くんも私と」
『なにを?』
「ワンナイト」
電話口で、すごい音がした。
たぶん、口に含んでいたお酒をぶちまけた音だと思う。
それからゲホゲホと呼吸ができているのか心配なくらい咳き込むから、私は大丈夫? と訊ねた。
『びっくりしたぁ! 冗談やめろよ!』
「冗談じゃないよ?」
私の言葉に、今度はごくん、と唾を飲み込むような音がした。
正確に言えば、最初から海斗くんは本命じゃなかった。
「……えっ。何年付き合ってるの?」
『六年』
「六年も付き合ってて、ずっと他に男がいるの!?」
『そういうこと〜。いつかは俺のことだけ見てくれる、って思ってたんだけどさ。最近さすがにしんどくなってきた』
私は芽夢ちゃんへの怒りを必死で堪えて、震える声で訊ねた。
「……海斗くん、最初から知ってて付き合ったの?」
まさか、と海斗くんは否定した。
最初は知らなかった、と。
疑い始めたのは四年前。
やたらと女子会に出かける、とか。
男物の香水の匂いがする、とか。
あげた覚えのない少し高めのアクセサリー。
バイトの後に知らないシャンプーの香りがしたこと。
全てが嘘だと思いたかった、と海斗くんは呟いた。
『一回、問い詰めたんだよね。そしたらあっさり白状して。俺と付き合う前から、付き合ったり別れたりを繰り返してる相手がいる、って』
そんなのはあまりにひどすぎる。
悔しくて涙が出そうになって、チューハイと一緒に飲み込んだ。
「…………別れようって思わなかったの?」
少しだけ声が震えてしまったのは、『それ』を選んで欲しいと思ってしまっているからだ。
私なら、浮気なんてしない。
私なら、海斗くんだけをずっと好きでいる。
私なら、こんな風に海斗くんに悲しそうな声を出させたりしない。
でも、私だから、海斗くんは選んでくれない。
悲しい現実から逃げるために、二本目のチューハイを開けた。
『そいつとは別れるって約束してくれたからさぁ……。信じたいって、思うじゃん』
こんなに誰かを好きになったの、初めてだし。
続いた言葉が私を傷つけていることに、海斗くんは気づかない。
「今日の女子会も……浮気ってこと?」
『ん。そういうこと〜』
「止めないの?」
『止めようって何回も思ったよ。でも問い詰めたら、別れるって言われそうでこわくて』
情けねえよなぁ、と海斗くんは言うけれど、きっと私が海斗くんの立場でも言えないと思う。
自分が本命じゃなくて二番目だと分かっているなら、なおさら。
チューハイをぐいっと飲んで、心の中で芽夢ちゃんに文句を言う。
芽夢ちゃんは海斗くんの運命の人なんでしょ?
だったらちゃんと海斗くんのことを大事にしてよ。
浮気なんかで海斗くんを傷つけないでよ。
『咲子って浮気されたことある?』
「ないよ。他に好きな人ができたってフラれたことはあるけど」
『へぇ。良心的な彼氏だ』
あなたのことですよ、とは言ってあげない。
海斗くんは気づかずに話を続ける。
『…………正直に言っていい?』
「んー、いいよ」
『芽夢ちゃんが今他の男に抱かれてるって思うと吐き気がする』
それなのに好きなの?
海斗くんは、一途だよね。
そんなところも好きだけど、私は海斗くんがしんどい思いをしているのは耐えられなかった。
「それならさ、しちゃおうよ、海斗くんも私と」
『なにを?』
「ワンナイト」
電話口で、すごい音がした。
たぶん、口に含んでいたお酒をぶちまけた音だと思う。
それからゲホゲホと呼吸ができているのか心配なくらい咳き込むから、私は大丈夫? と訊ねた。
『びっくりしたぁ! 冗談やめろよ!』
「冗談じゃないよ?」
私の言葉に、今度はごくん、と唾を飲み込むような音がした。