広瀬桜子(ひろせさくらこ)。十二歳、中学一年生。性別は女。
 私は女子にモテていた。
 長身なうえにショートカット。極め付きに、シュッとした切れ長の瞳。多分、そこらへんの男子よりもモテていたと思う。物心ついた時にはすでに『かわいいね』より『カッコいいね』と言われていたくらいだ。
 そんな私には、ある趣味があった。お菓子作りだ。
嫌なことがあったとき、悔しいことがあったとき、私はお菓子を作る。いやな気持ちをお菓子に込めて作る。出来上がったお菓子は皮肉なくらいおいしくて、食べるとなんだか気が抜ける。それで、明日も頑張ろうって思える。
お菓子作りなんて、『男っぽい』と言われる私には似合わない。似合わないけど、でもそれだけは、どうしてもやめられなかった。
 お菓子を作っている時だけは、『女の子』になれる気もした。