「王子たすけてぇ! 虫!」
「もーう、また? はい、とれた。もう大丈夫」
「王子ありがとぉぉ」
――あだ名は『王子』。桜子の読み方を変えたらオウジになるから、らしい。自分でも似合うあだ名だな、と思う。百六十五センチの長身かつベリーショートの髪だし、小学校のロミオとジュリエットの劇でもロミオ役だった。
「ほんと王子かっこいいよね~」
「え~? ないない」
「いーや。このクラスの一番のイケメンは王子だわ」
「いやホントそれな~‼」
「あはは、ありがと」
――私はいつも『かっこいい』と言われた。自分でもそれを目指してきたつもりだった。
「王子頼りになるわ~」
「王子何でもできるよね」
「でしょ~? これからも、なにかあったら私に言ってね! いつでも助けるから!」
――私はみんなから頼りにされる存在だった。強くて、何でもできて。そうありたいと願っていたし、そうじゃなきゃダメだとも思っていた。
あの頃の私は、自分が強いと信じていた。