「はい、オッケーです。ありがとうございました」

「ありがとうございましたぁ」

「では、次は書道部に行くので失礼しますね」

 私たちに笑顔で礼をして写真屋さんが美術室を出て行った。

 目の前の心動かされる風景を切り取るという意味では写真と絵は似ている。でも、今撮ってもらった写真はそういった芸術の類ではなく、記録用のもの。せっかく笑顔でピースしてあげたのに、真面目な写真も撮られた。

 どちらが使われるのか、どちらがふさわしいのか、私には分からない。

「来年は部員、増えるといいねぇ」

 一枚の絵をはさんで私の隣に立つ美術部顧問の侑里(ゆり)ちゃん先生がボソッと呟くように言った。私の答えなんてとっくに知っているのに以前からことあるごとに同じことを呟いている。

「絵は一人で描けますから。友達なら欲しいですけど、部員は別にいらないです」

「でも、部員がいっぱいいた方が、この描き方いいよねとか、もっとこうした方がいいとか言い合えて楽しくなるんじゃない?」

「私、他人の評価とか気にしないんです。私は自分が満足できる絵が描ければそれでいいです」

「この絵は他人が評価してくれたんじゃない? 嬉しくないの?」

「私の好みと審査する人の好みが偶然合っただけですから。そこまで嬉しくはないです。それに、部員が少ない方が先生も楽じゃないですか?」

「まあ、それはそうだけどねぇ。吹奏楽とかソフトテニスとか人数が多い部活の顧問の先生は大変そう。人が多いと揉め事も多いみたいだし」

「ほらやっぱり……じゃ、片付けますね」

「仕事が速くて助かるよぉ。さすがは部長さん」

 文化祭のこの日、美術室は私が描いた絵が飾られていてまるで個展のようになっていた。だが私は侑里ちゃん先生に美術室の番を任せ、文化祭で色めき立つ校舎内の様子をスケッチブックに描いていたのでどれほどの人が見に来てくれたかは分からない。多くの人が見に来てくれたのであれば、嬉しいことだ。


 評価はいらないが見て欲しい。

 批評し合う部員はいらないがくだらないことを話せる友達は欲しい。

 自分を大きく変えるつもりはないが受け入れてもらいたい。

 わがままで傲慢であることは理解している。

 それでも、色鮮やかな私の世界は変えたくない。