「今日は、一通りのお仕事を見てもらおうと思うけど、奏空ちゃん、案内お願いできる?」

 朝食の後、テーブルの上を片付けると、場所を移動することもなくそのままの流れでその日の打ち合わせになっているようで、凪紗が今日の渚珠のスケジュールを考えてくれていた。

「それはいいけど、一応定期のシャトル便の時はお出迎えした方がいいよね」

「うーん、そうね。弥咲でも構わないけど……。どうせだから、一緒に対応してくれる? 今日の宿泊のお客さまの予定は? 訓練の予定も今日は入ってないわ」

「今日の宿泊は無し。いつもどおりお昼や夜の食事の時間帯は当日の臨時でいくつか入るかもしれないけど」

 二人の間の短い会話を聞いていても、こののほほんとした空気の中でも、ちゃんと仕事場という雰囲気が感じられる。

「それでは、今日の持ち場です。あたしは管制、弥咲はドックでOK?」

「いつもの持ち場で待機してるわよ。エンジンのオーバーホールも受けてるしね」

 弥咲が応える。

「奏空ちゃんがフロントとサービスで持ち回り。渚珠ちゃんは奏空ちゃんにいろいろ案内してもらってください」

「うん」

 二人が頷いて、朝のミーティングが終わった。

「凪紗ちゃんって凄いねぇ」

「なにが?」

 それぞれの職場に散った二人を見送り、食堂の片付けと掃除を分担しながら渚珠はつぶやいた。

「だって、ちゃんと仕事してる~って感じなんだもん」

「ははは、凪紗ちゃんもずいぶん緊張していたなぁ。いつもはもっと簡単でね、食べながらの会話でやっちゃうよ。それに、あれも今日までだよ?」

「へぇ?」

 ぽかんとしている渚珠に、奏空は続けた。

「だって、明日からは渚珠ちゃんのお仕事だからね? 凪紗ちゃんだってあんまり堅苦しくやりたくないからってずっと言ってるんだし。渚珠ちゃんが変えたかったら変えればいいと思うんだ」

「ほへ~~~。わたしに出来るかなぁ?」

 考えてみれば、まだ見習い期間とは言っても渚珠の肩書きはここの管理者だ。奏空の言うこともそのとおりで、自分がやらなければならない。

 アルテミスでの訓練期間中、実技実習は他の訓練生たちと同じだったけれど、管理業務についての座学などが追加されていたことを思い出す。

 インターンは事実上の就職先の確定でもある。それがアクアリアの宇宙港というだけでも数年に一人出るかというレベルの大抜擢だ。

 とりわけ成績が優秀でもない自分が何故なのだろうと不思議に思っていたのと同じことを、先に来ていた三人も感じていたのだという。

 まだ弱冠15歳の自分たちが、歴史の教科書に載っているような施設でそれぞれのポジションになぜ就いていられるのか……。

「大丈夫。みんな助けてくれるし、誰かが見ているわけじゃない。ここの中なんだから。片付けが終わったら、一通り案内するからね」

「うん……」

 なんだか、これから毎日が大変そうだと思う渚珠の心の内の不安の色とは裏腹に、窓から見上げた景色は漆黒の故郷とは全く違う青色が広がっていた。