「僕は宿を取ってくるから、ヘカテーはルナと一緒に、うーん.......そうだな.......あそこに見える噴水のところで待っていてくれる?」

 「宿?」


 昨日みたいに野宿すれば良いのに。


 「そう。こういう大きいな都市だと野宿よりも安全な宿があるんだ。ヘカテーって夜の番をしてくれているから、今日ぐらい休んで欲しくて」


 そういえば、休んで欲しいなんて1度も言われたこと無かったわね.......。


 『姫様、こちらの仕事を』

 『姫様、こちらの案件どうしますか?』

 『姫様、お客様が』


 オスクリタにいた時なんてずっと仕事があったし私に来るのは全部重要なやつだったから、休むなんてできなかったんだのよね。

 .......町に散歩(仕事さぼり)はよくしたけど。


 「フフフ.......」


 ちょっと嬉しい。

 ここはオスクリタじゃなくて人間界なんだって改めて思っちゃった。

 ここでは私が王じゃなくてただの一般の民。

 一応護衛のモルモーはいるけど、誰も私のことを気にしないもの!

 仕事もないし!

 .......後者の方が強い気がするけど。


 「そんなにおかしかった?」

 「ううん、なんでもない。噴水で休んでいるから、行ってらっしゃい」

 「じゃあ、行ってくる」


 宿に向かったローランを見送って噴水に行った。


 「......きれい......」


 真っ白な石に空色の水。

 水って青色なのね。

 噴水の水って言ったら紫色だったけど、青色も良いわ。

 クゥン!

 水の音で起きちゃったのかしら?


 「おはよう、ルナ。見て!すごく綺麗でしょう?この水に魔力が入っているからなのかな?」


 クゥン?


 「魔法で生み出された水とか魔力が籠っている水はキラキラしているの」


 こんなものが人間界にあったなんて......。

 私の国にも青色を採用してみようかしら......!

 バシャンッ!

 え⁉

 何⁈


 「おい、空から落ちてきたぞ!」


 そ、空から⁈

 場所によってはもうやばいかも......。


 「直ぐに神殿へ連れて行かないとだよ......!」

 「でも、今は神殿に行けないわ!誰か治癒魔法を使える方は?」


 本当は目立ちたくないから、行きたくない。

 それに、弱い人間の体だからきっと死んでいる。

 生きてたとしてももうじきに限界が来る。

 だけど、

 『僕はね、生きているって信じている』

 『諦めたらきっと後で後悔する。後悔するぐらいだったら、今を全力で信じて進みたいんだ』

 まだ、実際には見ていないから生きているのかもしれない。

 いや、きっと生きているわ......!

 死んでいるなんて直ぐに希望を捨てるなんて、まだ早いわよね。


 「......見せて!私、治癒魔法を使えるから!」

 「おう、ほら、こっちだ!ペットさんも早く!」


 みんなが道を開けてくれたおかげで簡単に落ちた人の近くに行けた。

 噴水から直ぐに引っ張り出されたおかげで水関連で死んでは無さそうね。

 クゥンクゥン!


 「あ、ルナ。そんなに揺らしちゃ」

 「うぅ......」


 今、声したわよね?

 念のため、手を触ってみると生気と魔力を感じる。


 「良かった......!生きてて......!じゃあ、早速、治癒!」


 見た目何も無さそうな女の子に緑色の光が降ってくる。

 かけ終ったけど見た目が変わんないから、本当に効いたか分かんない。


 「おーい、大丈夫?」


 応答なし。


 「もしかして、効いてなかったのかしら?」


 クゥン?

 治癒を超える魔法となると死者蘇生か......。

 人間みたいな魂が壊れても再生しない体で死者蘇生をしたことがないから、上手くいくか不安。

 それに魔力がない者が大量の魔力を浴びたらどうなるのかも分からない。


 「○%×$☆♭#▲!※」

 「へ⁈」


 人体実験まがいなことは回避できたけど......

 全く言葉が分からない!


 「あ、いたいた!何かあった?」

 「えっとねー」


 かなり良いタイミングできたローランに情報提供。


 「ふむふむ。ヘカテー、その......言葉って何とかなる?」

 「......頑張れば」

 「ほんと⁈さすが、ヘカテ―!」


 頑張んなくても本当は出来るんだけどね。

 なんせ、ここと私の国で使う言語なんて違うんだから。

 いままで無意識にやっていたことを意識してやればいいだけ。

 この女の子の思念を解析して......あーね、この言葉とこの言葉が一緒なんだ......後は、こうして......。

 うん、大体分かった。


 「えっと、あなたの名前は?」

 「わ⁈言葉が分かる......!名前、だよね?伊邪和那美(いざわなみ)です。あなたは?」

 「ヘカティアよ」

 「え⁈言葉分かったの?それに、喋っているし......」


 あ、そっか。

 ローランは分からないもんね。

 イザワナミに言葉を翻訳する特殊魔法をかけとく。


 「光⁈この世界って魔法があるの?」

 「言葉が分かるようになった......。えっと......質問に答えないとだよね。この世界には魔法があって、ヘカテ―みたいな魔法使いがいるんだ。あ、僕は勇者のローラン。ヘカテーと一緒に旅をしている」

 「勇者......。魔法があって、魔法使いがいて、勇者がいて......。思っていたよりも凄い場所に来ちゃったよ......!」


 私にとっては普通だけど、イザワナミにとっては凄い場所みたいね。


 「イザワナミも濡れているし、他に聞きたいことがあるから、一旦ここから離れようか」

 「それなら、組合はどう?クエストの報酬もあるけど組合って冒険者の休憩所みたいなかんじだから」


 ローランの提案で私達は近くにあった組合に行くことになった。





 「すみませーん。クエスト達成したんですけど」


 ローランが代表として受付の人と話している後ろで、私とイザワナミ(とルナ)で喋っていた。


 「クエストって、人のお願いを解決するみたいなやつ?」

 「なんで知っているの?!」


 クエストなんて言葉、私こっちに来て初めて知ったんだけど。


 「本とかゲームのモチーフになってるからかな」

 「ゲームって?」

 「ゲームって、『ネット』とか本体とか『テレビ』とかにに繋げたりして遊んだり、カードだったりするんだけど、知らない?」

 「うん。それに、『ネット』と『テレビ』って?」


 想像がつかない。

 どんなものなんだろう?


 「もしかして、この世界にはない.......?」

 「私は聞いたことがないわね。でも、ローランなら知っているかも知れないかもよ」

 「ん?僕がどうした?」

 「あれ?話終わったの?」

 「いや。なんか、待っててって言われた。あっちで待ってよう?」


 ローランが指した方には、休憩所らしき場所があった。





 「それで、僕がどうしたの?」

 「えっと、イザワナミと話してたんだけど、ローランって『テレビ』と『ネット』って知ってる?」

 「『テレビ』と『ネット』?聞いたことないかな。イザワナミ、どういうものなの?」

 「あのさ、その前にお願いしたいことがあるんだけど良いかな?」

 「良いよ」


 何を訂正するんだろう?


 「あの伊邪和那美じゃなくて、那美って気軽に読んで」

 「どうして、ナミで切るの?」


 ザナミでも、良いと思うんだけど?


 「えっとね、伊邪和が名字っていう家系の名前で那美が名前なの。だから、那美って読んで」

 「家系名ね。分かったわ。他にあるかしら?」

 「あの、ヘカティアちゃん、もうちょっと口調を幼くできる?十歳くらいの美少女が大人っぽく喋っているのが気になちゃって......。あ、これは私の勝手な意見だから、そのままでも」

 「良いよ。ナミお姉ちゃん」

 「な、那美お姉ちゃん⁈」

 「うん。ヘカティアね、知ってるの!年上のね、人にはね、お姉ちゃんとかね、お兄ちゃんとかね、つけるんだよ」

 「ヘカテ―、もうちょっと年齢上げられる?これは幼すぎ。今、精神年齢が三歳くらいになっているから」


 もうちょっと上?

 いつものと今の中間で、子どもっぽく。

 難しい注文ね。


 「こんな感じかな、ローランお兄ちゃん?」

 「さっきよりはいい感じ。ナミはどう?」

 「さっきの幼さ丸出しのへカティアちゃんも可愛かったし、今のも可愛いし、大人口調のへカティアちゃんもギャップがあって可愛いし......」

 「へカテー的にはどれが楽?」

 「どれでも良いよ、ローランお兄ちゃん」

 「ならこれで」

 「他になにかある、ナミお姉ちゃん?」

 「ううん。あ、話が逸れたけど『テレビ』と『ネット』は映像を人に見せる物なんだ。『テレビ』は見るだけど、『ネット』はお話しできたり、自分のことを人に知らせたりできるの」


 通信玉のようなものね。

 あ、幼くしているからこっちの口調も変えとこう。

 やるからには徹底的にしないと。


 「通信玉みたいな感じか」


 私と一緒の物を思いついてる......。

 通信玉は人間界にもあるみたい。


 「通信玉って?」

 「連絡を取ったり、映像を残したり、その映像を映したりできる道具かな。かなり高いから、貴族とか組合とか神殿とかにしかないんだ。僕ら一般人は知識として知っているだけで実際には使わずに終わる人が多いよ」


 思考を繋げてみんなと話していたから、通信玉って映像保存用だけかと思ったけど他にも使えるの......んだ。

 でも、通信玉より思念伝達の方が速そう。

 実際には使えないかな。


 「失礼してもよろしいですか?勇者御一行様。確認ができましたので、こちらが報酬となります」


 そう言って、袋を渡して来た。


 「今回のクエスト達成は領主様並びに本部にも伝えられています。それでは、失礼いたします」


 事務的なことしか話さず、直ぐにどこか行っちゃった。


 「ねえ、この袋には何が入っているの?」

 「報酬のお金。ヘカテ―、収納できる?こんな大金持ち歩くのが怖いから」

 「良いよ、ローランお兄ちゃん!それで、どれくらいあったの?」

 「(五万テスカ)」

 「お、おぉ?」


 うーん、一テスカがどれくらいか分からないから、反応出来ない。

 でも、大金らしいから盗まれないように空間を開けて袋ごと入れとく。


 「外に行って、夜と朝のご飯の買い出しをしようか、ヘカテー、ナミ」

 「私も行っていいの?」

 「ナミお姉ちゃんは帰る場所がないんでしょ?それだったら、一緒に旅をした方がナミお姉ちゃんの帰る場所が見つかるんじゃない?」

 「でも、これはあくまで1つの選択だから、僕達に着いていかなくても良いんだよ?」

 「私は3人と一緒に旅をしたいけど、私、剣も使えないし魔法も使えないから足を引っ張っちゃうと思うけど.......」

 「え?ナミお姉ちゃんは魔法使えるよ?魔力があるもん」


 何が使えるかはまだ分からないけど、魔法の源となる魔力があるから魔法はできると思う。


 「そっか......。だけど、使い方が分からないから結局足引っ張っちゃうよね......」

 「僕達の負担は全く考えなくていいって言ったら、どっちが良い?」

 「ついて行きたい。一緒にたくさんのところを見て回りたい!だって旅なんて日本じゃできないんだもん!」

 「なら決定だね!それじゃあ、ナミが新たなパーティーメンバーになったことを記念して今日はどこかおいしいお店に行こうか」

 「賛成!ほら、早く行こう」


 クゥン!


 「ルナも食べたいみたいだね」

 「ルナって言うんだね。猫と熊を足して二で割ったような感じで可愛い~」


 クゥーン......

 ルナはナミお姉ちゃんの髪飾りが気になるのかずっと見ている。


 「これ、気になるの?」


 クゥン!

 ナミの髪飾りって......


 「このリボンはハンカチでおばあちゃんからもらったの。昔、おばあちゃんが怪我をしていた男の子を治したら、お礼に貰ったんだって」


 ナミが髪飾りを外して広げてくれた。


 「おそらく古代文字な気がするけど......。何が書いてあるのかさっぱり分からないな」



 何が書いてあるかは分かる。

 話言葉と違う文字......。

 これは、魔法陣?


 「しかもかなりの魔法......」

 「え?これが、魔法陣なの?」

 「うん......。今、見た感じから分かるのは保護魔法が入っているくらい......。いくつかの魔法が複雑に組み合わされているから、まだどんな魔法なのかどんな効果なのか分からない」


 一体誰がこんなものを......?

 並大抵な者じゃあ作れない強度で複雑な魔法陣。

 おそらく作ったのは、(私達)に近い上位の者。


 「もしかしたら、神殿に行けば分かるかもよ?神殿には神や精霊王に関することがたくさんある。魔道具の件も合わせて聞きに行こう」


 グゥゥゥゥゥ


 「お腹で返事したね、ナミお姉ちゃん」

 「だって、お腹が空いちゃったんだもん~」

 「僕もお腹が空いてきたし、ご飯食べに行こうか」





 「こちらが当店おすすめのトマトライスでございます。ごゆっくりどうぞ」

 「ぅわー!美味しそう!」

 「見た目はオムライスだけど......!」

 「二人とも食べて食べて」

 「じゃあ、早速」


 ん~!


 「美味しい~!」


 変人が持ってきたレシピで作ったオムライスに似ている。


 「トマトの味がしっかりしてる......。異世界に来てオムライスが食べられるなんて......。ローラン、ありがとう」

 「これぐらい大したことないんだけど、ナミって異世界から来たの?」

 「そうだよ。この世界には魔法があるけど私がいた世界にはなくて、魔法とは反対の科学が発達している世界。誰もが自由に科学を使える、そんな世界だったかな」


 誰もが自由に使える......。

 私の世界もそんな感じかな。

 誰もが自由に魔法を使えている世界。


 「誰もが自由に使えるなんてここと反対だね。魔法は一部の人しか使えない。夢物語みたいな世界だけど本当にあるんだ」

 「夢物語になっちゃうんだね......。みんなが平等に使えるなんて」

 「みんなが平等に使えるってそんなに夢物語なの?」

 「そうだよ。ここには厳格な身分制度がある。魔法が使えるのは貴族が多いんだ」

 「ここには貴族世界があるんだ。なら、ヘカテ―ちゃんは貴族出身?」


 国を作って統治しているから貴族といったら貴族だと思うけど、この世界のことをあまり知らないからきっとボロがでるよね。


 「貴族じゃないよ、ナミお姉ちゃん。人がいるところから離れた場所に住んでて、都市に行ったらローランお兄ちゃんに会ったの」

 「へぇー。中々運命的な感じだね。その時をもっと詳しく」

 「あの時はヘカテーが......」


 私とローランの初めて会った話は店が閉まるまで続いたのだった。

 そんなに話さなくても良い気がするけどね。