その日は至って普通だったと思う。





 日本の首都から電車で一時間ののどかな場所。

 周りは畑に囲まれた場所で私は十五年間過ごして来た。

 お父さんとお母さんは忙しいくて、おじいちゃんとおばあちゃんと住んでいる。

 核家族が当たり前となった今では珍しい三世帯家族!

 (この町では普通なんだけどね)




 高校が午前下校で早帰りのある日、


 「那美(なみ)、困っている人には手を差し伸べて、何事にも感謝をして、人との縁を大切にして過ごすのが大事なんだよ」


 昔から聞いているおばあちゃんの口癖。

 おばあちゃんが言うことは大体当たるし役に立つことが多いから、おばあちゃんが言ったことは忘れないようにしている。


 「分かってるよ、おばあちゃん」


 だけど、この言葉だけは一番長く聞いているのに役に立ったって感じがない。

 ......それでもいつか役に立つと思っているから、助けることと感謝と縁は大切にしている。


 「そうかい。それじゃあ、今日はおじいちゃんもいないことだし、おばあちゃんの昔話を教えてあげようかね?」


 おじいちゃんは町内会議でいないけど、おじいちゃんに話せない内容なのかな?


 「おじいちゃんには内緒なの?」

 「内緒だよ?おじいちゃんがきっとへそを曲げちゃうからね」





 これはまだ私が那美より小さかった頃のお話。

 大きな戦争が終わったばかりで、大きな都市は焼野原になってみんなが貧しかった時代。

 おばあちゃんの家は田舎で農家だけどそれなりに財があったから、生活には困らなかったの。

 でもね、食べ物がない人が着物や道具を持って来るから、余るほどではなかったけどね。

 毎日のように人が来て、おばあちゃんはね、いつも外にいたの。

 あの時もそうだった。

 理由?

 子どもの私がいると邪魔になっちゃうからね。

 外に行くとね、たくさんの食べ物があるからいつも取ってきていたの。

 余裕があるとは言っても、今よりもずっとおかずの量は少ないし数もなかったからね。

 少しでもおかずを増やしたかったのさ。

 いつも通り食べ物を拾って田んぼに囲まれた道を歩いているとね、急に空から人が落ちてきたんだよ。





 「空から人が?」


 木登りしている人が落ちたんじゃないの?


 「本当さ。それでー」





 おばあちゃんはたまげた、たまげた。

 でもね、人が落ちて来たことよりもその見た目の方が驚いたんだよ。

 キラキラ光っている金髪に青い目の、しかもおばあちゃんと同じくらいの男の子!

 そんな子見たことなかったから、しばらく見ていたんだけど、その子の白い膝から血が出ていたんだよ。


 『君、大丈夫⁈怪我しているよ......!』

 『ん?......ほんとだ。でも、これくらい直ぐに治るから、ほっといていいよ』

 『ほっといちゃだめだよ。そこから悪い物が入って死んじゃったりするから』


 おばあちゃんのお祖父ちゃん、那美からみるとひいひいお祖父ちゃんがお医者様でね、おばあちゃんにも薬草とか簡単な医学を教えてくれたんだよ。

 だからね、おばあちゃんは近くにあったよもぎの葉で男の子の怪我に葉の汁を塗ったのさ。


 『一応塗っといたけど、帰ったら水で洗ってね』

 『......ねえ、どうして君は見ず知らずな僕を診てくれたの?』

 『え?だって怪我してるから。困っている人には手を差し伸べる、それが我が家の家訓』

 『困っている人には手を差し伸べる、か......。そうだな。診てくれたお礼にこれあげるよ』

 『こんなのもらえないよ、って、え?』


 貰った物を返そうとしたんだけど、男の子はどこにもいなかった。





 「男の子ってどこに行ったの?」

 「分からないんだよ。でもね、その子からもらった物はね、今もあるんだよ。ほら」


 おばあちゃんが取り出したのは真っ白い布。

 縁に書かれた模様が角度によって見え方が違う。


 「きれい......」

 「気に入ったかい?」

 「うん。この模様変な感じがする」


 模様というより文字みたい。

 ......全く読めないけど。

 まさか異世界の文字だったりして。


 「そうかい。なら、それあげるよ」

 「え⁈良いの?」


 「私よりも那美の方が似合っているよ。ほら、貸して。着けてあげるから」


 おばあちゃんは布を私の髪に結んでくれた。


 「うんうん。似合っているよ、那美」

 「ありがとう」


 窓を鏡代わりにして見ると、結構似合っている!

 布をリボンみたいにして結んでくれたみたいだけど、あれ?


 「こんなに小さかったっけ?」

 「ほんとねぇ。こんなに小さかったかしらね?」


 いや、『かしらね?』じゃなくて、大きさ変わるってヤバくない?!


 「まあ、でも可愛いしいっか」

 「いや、良くないよ!」

 「ほら、那美落ち着いて。.......あ」

 「どうした?」

 「.......おばあちゃんうっかりしてて、お砂糖買ってくるの忘れちゃった。おやつに何か作ろうと思ったんだけどねぇ。無いから今日はおせんべいかな」


 おばあちゃんが作るお菓子は美味しいの!

 おせんべいも好きなんだけど、おばあちゃんのおやつが無いんなんて.......。

 あ、そうだ!


 「私がお砂糖買ってくるよ」

 「それなら、お菓子を作れそうだねぇ。お金は足りるかい?後で教えてさ」

 「うぃ」


 エコバックとスマホとお金、他もろもろを持って玄関に行くと、おばあちゃんも見送りしに来てくれた。


 「気をつけて行ってくるんだよ。車には気をつけて、よその人について行かないで、寄り道は」

 「分かってる。急いで行ってくるね!」


 最後まで聞かずに外に飛び出したんだけど、見えたのは松がある庭.......じゃなくて、空だった。


 「え?」


 足元には何もない。


 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 当然人間である私は重力に従って落ちていった。





 「......%△#......」

 「○%×$☆♭#▲!※」


 何か聞こえる......。

 ゆっくり目を開くと......


 「超絶美少女が目の前に⁈」


 青色とも紺色ともいえない夕方と夜の間の色をした髪に紫色の瞳を持つ神話に出てくる人が着てそうな服に黒いローブを被った少女。


 おばあちゃん、ありがとう。

 日頃の行いって大事だね......。

 ......もうちょっと頑張っていたら、翻訳できたのかな。

 全く言葉が分からないし、冷静になったら今が何処なのかも分からないことに気づいちゃった......。

 それにいつの間にか美少女の隣には私と同い年くらいのイケメン。

 若葉みたいな優しい緑色の髪に黄色の瞳。

 これまた何言っているのか分からない。

 これから、どうしよ......?