「あっという間に着いたわね」
「そ、そうだね......」
目的地まで歩くと思いきや、ルナの背中に乗って来た。
いやー、歩かなくて良かった。
「ありがとね、ルナ」
クゥゥゥン
「ルナ......ゆ...揺らさないで......」
「真っ青だけど大丈夫?」
「大丈......夫......」
「じゃないね」
治癒魔法をかけると血色が良いいつも通りのローランに戻った。
「治った......?さっきまで、ゆらゆらしてたのに」
「治癒を使ったからもの。体調はどう?」
「治ったけど......。治癒魔法も使えたの?」
「使えるけど、そんなに上手くないわ。せいぜい死者蘇生ができるぐらいだし」
治癒魔法とかって相性が悪くて上手く使えないのよね。
元素魔法も大きな魔法だったら、失敗しちゃうし。
闇魔法なら何でも使えるんだけど。
「せいぜい死者蘇生?」
「そう。光魔法って治癒だけじゃないのよ。でも、私、治癒系しかできないから」
光の頂点、アポロンは魔法を反射させたりヤバそうなものをとんでもない速さで降らせたりできるもの。
「......魔法って奥が深くて大変だね」
「そこまで大変じゃないわよ。それで、あの......集落ってここ?」
今、目の前には壊れかけて半分開いている門がある。
人が住んでいる気配はするけど、かなり廃れているし荒れている。
「おそらく。都市から離れれば離れるほどこうなるんだ。でも、こんなに発展していないのは珍しい。話を聞きに行こうか」
「そうね。ルナ、小さくなれる?」
クゥン
小さくなったルナを抱えて先に進んだローランの後を続くようにして中に入った。
「すみませーん、クエストでやってきた勇者ローランと魔法使いヘカティアとペットのルナでーす!」
......
「誰も来ないわ」
「もう、少し声を掛けてみよう!聞き取りは大事だからね」
「人がいる気配がするから、もう、家に入っちゃえば?」
「それは最終手段だよ」
「あの、すみません、この村の村長をしています。勇者様と魔法使い様とペット様はクエストでこちらにいらっしゃったのですか?」
「ペット様......フフッ」
ペットに様付けをする方を初めて見た。
面白くて笑っちゃう。
「あの魔法使い様、大丈夫ですか?」
「ほっといて大丈夫です。あの村長さん、単刀直入でこの村では何が起きているんですか?」
「実はー」
今からはるか昔の時から、この村には魔物の巣があった。
魔物には理性、そして、知識があり、村人の良き隣人となった。
「魔物が良き隣人、ですか?」
「言い伝えでは。おそらく魔物というよりも魔族だったのかもしれません」
「でも、どうして人を襲うようになったんでしょうかね?」
何かあったとしか考えられない。
昔の魔物のままだったら、クエストなんかにならない可能性が大きい。
「それはー」
しかし、いつの日か分からぬが、急に魔物が姿を消した。
しばらくすると再び魔物が現れたが、まるで心が入れ替わったようで、村人に襲いかかるようになった。
困った村人は魔物を抑えるために若い女を差し出すようになった。
「生贄、か」
行方不明者が生贄だったら、生きていないかもしれない。
生きていると信じているローランが普段は絶対に見せないような難しい顔をしている。
「はい。差し出した数年は魔物に襲われなかったようです」
「生贄って女の子1人?」
「はい。そのように伝わっています」
たった一人の若い女だけで、数年間も持つの?
「魔物の巣の向こう側に村とか町とかありますか?」
「すみません。魔物の巣の中に入ったことはないので......」
「気にしないでください。数年を一人の人間だけで生きることができたのが不思議だったので」
「不思議?」
「だって、小さかったり弱かったらおそらく当時の村人で倒せるでしょ?。でも、昔からいるのに未だに倒されていない魔物だからきっと、大きくて強いのかなって」
「確かに大きい魔物だったら、絶対に足りない.......。やっぱり、向こう側には集落?でも、ここ以外に魔物の討伐依頼がないし.......」
集落があるか確認してみよっか。
いつも魔力探知は無意識に発動しているけど、ちゃんと意識して.......。
「ローラン、魔物の巣の周辺にこの村以外人は住んでいない」
「なら、どうやって.......?」
「あの、勇者様、魔法使い様、考えているところ悪いのですが、実は女の人を差し出すのは、今はやっていないのです」
「「え?」」
ローランと声がハモった。
「私の祖父のことでー」
今から50年ほど前、私の祖父が魔物に差し出すのをやめた。
その当時、村には生贄を差し出しすぎてもう女がいなくなったので、止めるのもしょうがなかった。
村人達は差し出すの止めて魔物に襲われると日々怖がっていた。
しかし、魔物はこの村には現れなかった。
ほんの最近まではー。
「たった50年ぐらいは、何も食べずに過ごせたのね.......」
「50年って結構長いよ?」
「そ、そうだね」
危なかった。
今、ローランと村長さんから変な目で見られた。
人間にとって、50年は長いのね。
ちゃんと覚えとこ。
「ということは、行方不明が出たのは最近か.......。情報ありがとうございます、村長。これから、早速魔物の巣に行ってみようと思います」
「そうですか.......。このクエストは何人ものAランクの冒険者たちが行方不明となっていますので、生きてここに帰ってきてください.......」
「ありがとうございます。ほら、ローラン行くよ。場所は昨日のうちに調べといたから」
「仕事が早いね。それでは」
村長と別れて私たちは昨日のうちに調べといた目的地に向かった。
村から巣まではかなり近かったので、歩いて行くことになった。
「.......疲れた.......」
道が全く整備されていない森の中を歩く乗って、疲れる.......。
朝みたいにルナに乗れたら楽なんだけど、肝心のルナは私の腕の中で熟睡。
今、痛覚無効も体の再生を切っているけど、もう耐えられない。
付けちゃおっかな。
「.......ヘカテーなんか元気になった?」
「そんなことないわ」
疲れた風の演技をしておいた方が良さそうね。
「ねえ、ヘカテー」
「ん?どうしたの?」
「......10年くらい行方不明の人って生きていると思う?」
10年か......。
「かなり短いから生きているんじゃない?」
「そう、だよね」
「でも、今回の行方不明って10年だったかしら?」
「これは個人的で聞いてみたかったから、気にしないで。それよりも、クエスト頑張ろ!」
個人的でそんなこと聞くのかしら?
まあいっか。
「そうね。頑張ろう!」
でも、その時私は分からなかった。
まさかこの質問があんなことに繋がるなんて。
「ここなんだけど.......」
「見つかったみたいね」
巣に着いたのは良かったけど、すぐに魔物に見つかった。
あ、4本足だから魔獣か。
「ミナイカオダナ」
「しゃ、喋った?!」
私の声でようやくルナが起きて、元の大きい姿になって威嚇した。
ガルルルルルルルルゥゥゥゥ
「ヘカテー、ルナ、落ち着いて!上位の魔物になると理性を持ったり、魔法が使えたりするから」
「ホウ......ナカナカレイセイナヨウダナ。ムカシキタオンナニモミセタイナ」
「ねえ、最近この辺にいる人を食べたりした?」
「イヤ。サイゴ二タベタノハゴジュウネンマエノオト......」
「それ以上はいい。ヘカテー、ルナ、倒すよ。これ以上犠牲者が出ないように」
「そうね」
生贄として差し出されたのは全員女。
それなのに男が出てくるのはおかしいし、こいつは血まみれ。
奥の巣には赤く染まった服の切れ端が見える。
手加減なんていらないよね。
「幽鬼」
私が魔力で作り出した幽霊が魔物を攻撃する。
ガルゥ!
ルナが魔物に飛び乗る。
「行くよ!」
ローランが切る。
実質初めての連携攻撃にしては上出来なんだけど......
「ドウヤラカナリツヨイミタイダナ」
「まだ、生きているなんて......。これはAランク越えの魔物......」
「そんなに悲観的になっちゃだめよ!それに大丈夫よ、ローラン。全く効いていないわけでもないから、頑張って攻撃を続けよう!」
ガルゥ!
「そうだね。持久戦だけど、できるところまでやってみよう!不味くなったら逃げれば良いしね」
「そうそう」
「バカナ......。コノジョウキョウをミテモ、マダヤリツヅケルトハ......。マホウツカイモアレホドノマホウヲツカッテモウマリョクガナク、ケンシハゲンジツヲシッタノニ......」
「確かに現実を知った。だけど、そんな現実でもやらないといけないんだ!これ以上、村の人が消えないように......いつも通りの毎日が消えないように......」
ザシュッ
ローランが切ったところから、体が崩れていき、現れたのは綺麗な石だった。
「この石は魔石って言って、魔物を倒すと出てくるもので魔法の源になるんだ。これだけ大きくて綺麗なものは初めて見たかな」
初めて魔物を倒した時に出てきた石って魔石だったんだ。
「この巣の主っぽい方は倒したし、中に入ってみようか」
巣の中に足を入れると光が遮断されて真っ暗な世界が広がる。
オスクリタに似ているけど、こんなに暗くはない。
私は魔力探知で特に視界は問題ないけど、ローランとルナは全く見えていないよね?
手の平に炎を出して明かり代わりにしてみた。
「これで、良く見える?」
「ありがとう。思ったより、巣は小さいね」
巣の中はいくつかの布が散らばっているだけで、何もないんだけど
「かすかに光?いや、精霊の気配がするわ」
それも天使とか普通の精霊じゃない。
同僚兼友達の気配がする。
「精霊ってことは神殿に行ったら分かるかもしれないね」
神殿って、確か精霊がいっぱいいるところだったわよね。
みんながおすすめしてたし行ってみようかな。
「クエストは終わったことだし、次は神殿に行こうか」
「行く前に村に行って、ギルドにも寄るけどね」
今来た道を戻って、村長が待っている村に足を進めた。
途中でルナが寝たので、行きと同じようにルナを抱きながら歩いていると崩れかけた門が見えてきた。
時刻はまだ夕方なんだけど......
「誰もいないわね」
「本日二回目の、すみませーん、クエストが終わったのでやって来た勇者ローランと魔法使いヘカティアとペットのルナでーす!」
「おお......勇者様に魔法使い様にペット様。ご無事で何よりです。あの、クエストが終わったということは」
「はい。魔物は倒したので安心してください」
「そうですか......。何とお礼をすればいいのか......」
「それなら、お礼に魔物の巣について教えて欲しいです」
こんな村になんであんな気配、いや妖気があるのか知りたい。
「村長、私に一つ心あたりがあるわ」
家から出て来て現れたのは若い女の人。
「おとぎ話なんだけどね、」
この世界を作った神様たちは人間に光輝く宝物をお与えになりました。
宝物はどれも違う形、色でしたが、宝物を身に着けるとその者は神による祝福で特別な力が使えるようになりました。
やがて宝物は神殿に大切に保管されるようになりましたが、ある時盗まれてしまいました。
盗まれた宝物は今も分かっていません......。
「それで、その盗まれた宝物は魔物の巣にあったそうなの」
人間に与えたのはやった覚えがないから、きっと他の神たちね。
特別な力=魔法
だとすると
宝物=魔道具
な気がする。
「かなり興味深い話だね」
「教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。これぐらい」
「ヘカテー、それじゃあ行こうか」
「ええ」
門の外に出ると、中では村長と教えてくれた女の人以外にもたくさんの人が見送ってくれるのが見えた。
「確かここからアルノーさんがいるところまでかなり遠かったわよね?」
行先は不明だけど、歩いているから門からはどんどん離れて小さくなっていく。
「そうだね。自由都市よりもテオドールの方が近いかも」
「テオドール?」
アルノ―さんがいたところとは別の場所かな?
うぅぅ......パン食べたかった......。
「テオドールはね、この国で一番神殿が大きい場所で神聖な地なんだけど、組合もあるし結構大きな都市なんだ」
「神聖な地か......」
私と相性が悪そうな気がする。
「お、興味持ったみたいだね!」
「え⁉まあ、一応。でも、どうやって行くの?」
妖気を消しているから、魔法とか耐性とかしぐさとかに気を付ければたぶんいける......!
......光属性で満ちていたらいつもより何重に結界張っとこ......。
「馬車に乗るのが手っ取り早いんだけど......通らないから歩ー」
「なら、空飛んでいくのはどう?」
歩くなんて無理。
「重力操作!」
「え⁉体が浮かんで⁈」
「ほら、行くよ!道案内はよろしくね」
「か、体が勝手に......!」
うーん!
風が気持ち良い。
ルナに乗ってローランが酔っていたからスピードはかなり落としているけど、それでも歩くよりは早いし疲れない。
クゥン⁈
「起きた?今ね空を飛んでいるの!気持ち良いでしょ?」
「寝起きに空を飛んでいてルナも驚いたみたいだね。これも魔法だよね?」
「正解。重力を操作して空を飛んでいるの。馴染みはなかった?」
「空を飛ぶなんて、鳥とか魔族とかしかできないからね。今空を飛んでいるのが奇跡みたいだよ......!」
「それは良かった。でも、テオドールの少し前ぐらいに降りた方が良いわね」
「確かに。空を飛んでいたら、みんなヘカテーによって来ちゃうもんね。あ、見えてきたよ!あの大きな建物が神殿」
神殿って、私のお城と同じ真っ白な建物なのね。
「......そろそろ歩くか......」
「ここから直ぐだから、頑張ろ!」
「......うん」
足が地面に着くと、真っ白い神殿を目指して歩いた。
もうちょっと、飛んで良かった気がする......。
人間界に来て過去一歩いた後、ようやくテオドールに着いた。
「たくさんの人が並んでいるね。私達も並んどこうか」
これだけ並んでいたら、流石に分かる。
「それなんだけど、僕達は並ばなくて大丈夫だよ。ほら、着いてきて」
列の横を歩くと、もう一つの門が見えてきた。
村で見たような廃れた門じゃなくて、装飾されているこれまた真っ白い門。
人間って真っ白が好きなのね。
「これは、勇者様。お久しぶりです。さあ、中へどうぞ」
「ありがとう、ほら、ヘカテ―、ルナ行くよ」
もふもふの小さくて可愛いルナと一緒に私の唯一の弱点属性で満ちている聖なる地に足を踏み込んだ。
「そ、そうだね......」
目的地まで歩くと思いきや、ルナの背中に乗って来た。
いやー、歩かなくて良かった。
「ありがとね、ルナ」
クゥゥゥン
「ルナ......ゆ...揺らさないで......」
「真っ青だけど大丈夫?」
「大丈......夫......」
「じゃないね」
治癒魔法をかけると血色が良いいつも通りのローランに戻った。
「治った......?さっきまで、ゆらゆらしてたのに」
「治癒を使ったからもの。体調はどう?」
「治ったけど......。治癒魔法も使えたの?」
「使えるけど、そんなに上手くないわ。せいぜい死者蘇生ができるぐらいだし」
治癒魔法とかって相性が悪くて上手く使えないのよね。
元素魔法も大きな魔法だったら、失敗しちゃうし。
闇魔法なら何でも使えるんだけど。
「せいぜい死者蘇生?」
「そう。光魔法って治癒だけじゃないのよ。でも、私、治癒系しかできないから」
光の頂点、アポロンは魔法を反射させたりヤバそうなものをとんでもない速さで降らせたりできるもの。
「......魔法って奥が深くて大変だね」
「そこまで大変じゃないわよ。それで、あの......集落ってここ?」
今、目の前には壊れかけて半分開いている門がある。
人が住んでいる気配はするけど、かなり廃れているし荒れている。
「おそらく。都市から離れれば離れるほどこうなるんだ。でも、こんなに発展していないのは珍しい。話を聞きに行こうか」
「そうね。ルナ、小さくなれる?」
クゥン
小さくなったルナを抱えて先に進んだローランの後を続くようにして中に入った。
「すみませーん、クエストでやってきた勇者ローランと魔法使いヘカティアとペットのルナでーす!」
......
「誰も来ないわ」
「もう、少し声を掛けてみよう!聞き取りは大事だからね」
「人がいる気配がするから、もう、家に入っちゃえば?」
「それは最終手段だよ」
「あの、すみません、この村の村長をしています。勇者様と魔法使い様とペット様はクエストでこちらにいらっしゃったのですか?」
「ペット様......フフッ」
ペットに様付けをする方を初めて見た。
面白くて笑っちゃう。
「あの魔法使い様、大丈夫ですか?」
「ほっといて大丈夫です。あの村長さん、単刀直入でこの村では何が起きているんですか?」
「実はー」
今からはるか昔の時から、この村には魔物の巣があった。
魔物には理性、そして、知識があり、村人の良き隣人となった。
「魔物が良き隣人、ですか?」
「言い伝えでは。おそらく魔物というよりも魔族だったのかもしれません」
「でも、どうして人を襲うようになったんでしょうかね?」
何かあったとしか考えられない。
昔の魔物のままだったら、クエストなんかにならない可能性が大きい。
「それはー」
しかし、いつの日か分からぬが、急に魔物が姿を消した。
しばらくすると再び魔物が現れたが、まるで心が入れ替わったようで、村人に襲いかかるようになった。
困った村人は魔物を抑えるために若い女を差し出すようになった。
「生贄、か」
行方不明者が生贄だったら、生きていないかもしれない。
生きていると信じているローランが普段は絶対に見せないような難しい顔をしている。
「はい。差し出した数年は魔物に襲われなかったようです」
「生贄って女の子1人?」
「はい。そのように伝わっています」
たった一人の若い女だけで、数年間も持つの?
「魔物の巣の向こう側に村とか町とかありますか?」
「すみません。魔物の巣の中に入ったことはないので......」
「気にしないでください。数年を一人の人間だけで生きることができたのが不思議だったので」
「不思議?」
「だって、小さかったり弱かったらおそらく当時の村人で倒せるでしょ?。でも、昔からいるのに未だに倒されていない魔物だからきっと、大きくて強いのかなって」
「確かに大きい魔物だったら、絶対に足りない.......。やっぱり、向こう側には集落?でも、ここ以外に魔物の討伐依頼がないし.......」
集落があるか確認してみよっか。
いつも魔力探知は無意識に発動しているけど、ちゃんと意識して.......。
「ローラン、魔物の巣の周辺にこの村以外人は住んでいない」
「なら、どうやって.......?」
「あの、勇者様、魔法使い様、考えているところ悪いのですが、実は女の人を差し出すのは、今はやっていないのです」
「「え?」」
ローランと声がハモった。
「私の祖父のことでー」
今から50年ほど前、私の祖父が魔物に差し出すのをやめた。
その当時、村には生贄を差し出しすぎてもう女がいなくなったので、止めるのもしょうがなかった。
村人達は差し出すの止めて魔物に襲われると日々怖がっていた。
しかし、魔物はこの村には現れなかった。
ほんの最近まではー。
「たった50年ぐらいは、何も食べずに過ごせたのね.......」
「50年って結構長いよ?」
「そ、そうだね」
危なかった。
今、ローランと村長さんから変な目で見られた。
人間にとって、50年は長いのね。
ちゃんと覚えとこ。
「ということは、行方不明が出たのは最近か.......。情報ありがとうございます、村長。これから、早速魔物の巣に行ってみようと思います」
「そうですか.......。このクエストは何人ものAランクの冒険者たちが行方不明となっていますので、生きてここに帰ってきてください.......」
「ありがとうございます。ほら、ローラン行くよ。場所は昨日のうちに調べといたから」
「仕事が早いね。それでは」
村長と別れて私たちは昨日のうちに調べといた目的地に向かった。
村から巣まではかなり近かったので、歩いて行くことになった。
「.......疲れた.......」
道が全く整備されていない森の中を歩く乗って、疲れる.......。
朝みたいにルナに乗れたら楽なんだけど、肝心のルナは私の腕の中で熟睡。
今、痛覚無効も体の再生を切っているけど、もう耐えられない。
付けちゃおっかな。
「.......ヘカテーなんか元気になった?」
「そんなことないわ」
疲れた風の演技をしておいた方が良さそうね。
「ねえ、ヘカテー」
「ん?どうしたの?」
「......10年くらい行方不明の人って生きていると思う?」
10年か......。
「かなり短いから生きているんじゃない?」
「そう、だよね」
「でも、今回の行方不明って10年だったかしら?」
「これは個人的で聞いてみたかったから、気にしないで。それよりも、クエスト頑張ろ!」
個人的でそんなこと聞くのかしら?
まあいっか。
「そうね。頑張ろう!」
でも、その時私は分からなかった。
まさかこの質問があんなことに繋がるなんて。
「ここなんだけど.......」
「見つかったみたいね」
巣に着いたのは良かったけど、すぐに魔物に見つかった。
あ、4本足だから魔獣か。
「ミナイカオダナ」
「しゃ、喋った?!」
私の声でようやくルナが起きて、元の大きい姿になって威嚇した。
ガルルルルルルルルゥゥゥゥ
「ヘカテー、ルナ、落ち着いて!上位の魔物になると理性を持ったり、魔法が使えたりするから」
「ホウ......ナカナカレイセイナヨウダナ。ムカシキタオンナニモミセタイナ」
「ねえ、最近この辺にいる人を食べたりした?」
「イヤ。サイゴ二タベタノハゴジュウネンマエノオト......」
「それ以上はいい。ヘカテー、ルナ、倒すよ。これ以上犠牲者が出ないように」
「そうね」
生贄として差し出されたのは全員女。
それなのに男が出てくるのはおかしいし、こいつは血まみれ。
奥の巣には赤く染まった服の切れ端が見える。
手加減なんていらないよね。
「幽鬼」
私が魔力で作り出した幽霊が魔物を攻撃する。
ガルゥ!
ルナが魔物に飛び乗る。
「行くよ!」
ローランが切る。
実質初めての連携攻撃にしては上出来なんだけど......
「ドウヤラカナリツヨイミタイダナ」
「まだ、生きているなんて......。これはAランク越えの魔物......」
「そんなに悲観的になっちゃだめよ!それに大丈夫よ、ローラン。全く効いていないわけでもないから、頑張って攻撃を続けよう!」
ガルゥ!
「そうだね。持久戦だけど、できるところまでやってみよう!不味くなったら逃げれば良いしね」
「そうそう」
「バカナ......。コノジョウキョウをミテモ、マダヤリツヅケルトハ......。マホウツカイモアレホドノマホウヲツカッテモウマリョクガナク、ケンシハゲンジツヲシッタノニ......」
「確かに現実を知った。だけど、そんな現実でもやらないといけないんだ!これ以上、村の人が消えないように......いつも通りの毎日が消えないように......」
ザシュッ
ローランが切ったところから、体が崩れていき、現れたのは綺麗な石だった。
「この石は魔石って言って、魔物を倒すと出てくるもので魔法の源になるんだ。これだけ大きくて綺麗なものは初めて見たかな」
初めて魔物を倒した時に出てきた石って魔石だったんだ。
「この巣の主っぽい方は倒したし、中に入ってみようか」
巣の中に足を入れると光が遮断されて真っ暗な世界が広がる。
オスクリタに似ているけど、こんなに暗くはない。
私は魔力探知で特に視界は問題ないけど、ローランとルナは全く見えていないよね?
手の平に炎を出して明かり代わりにしてみた。
「これで、良く見える?」
「ありがとう。思ったより、巣は小さいね」
巣の中はいくつかの布が散らばっているだけで、何もないんだけど
「かすかに光?いや、精霊の気配がするわ」
それも天使とか普通の精霊じゃない。
同僚兼友達の気配がする。
「精霊ってことは神殿に行ったら分かるかもしれないね」
神殿って、確か精霊がいっぱいいるところだったわよね。
みんながおすすめしてたし行ってみようかな。
「クエストは終わったことだし、次は神殿に行こうか」
「行く前に村に行って、ギルドにも寄るけどね」
今来た道を戻って、村長が待っている村に足を進めた。
途中でルナが寝たので、行きと同じようにルナを抱きながら歩いていると崩れかけた門が見えてきた。
時刻はまだ夕方なんだけど......
「誰もいないわね」
「本日二回目の、すみませーん、クエストが終わったのでやって来た勇者ローランと魔法使いヘカティアとペットのルナでーす!」
「おお......勇者様に魔法使い様にペット様。ご無事で何よりです。あの、クエストが終わったということは」
「はい。魔物は倒したので安心してください」
「そうですか......。何とお礼をすればいいのか......」
「それなら、お礼に魔物の巣について教えて欲しいです」
こんな村になんであんな気配、いや妖気があるのか知りたい。
「村長、私に一つ心あたりがあるわ」
家から出て来て現れたのは若い女の人。
「おとぎ話なんだけどね、」
この世界を作った神様たちは人間に光輝く宝物をお与えになりました。
宝物はどれも違う形、色でしたが、宝物を身に着けるとその者は神による祝福で特別な力が使えるようになりました。
やがて宝物は神殿に大切に保管されるようになりましたが、ある時盗まれてしまいました。
盗まれた宝物は今も分かっていません......。
「それで、その盗まれた宝物は魔物の巣にあったそうなの」
人間に与えたのはやった覚えがないから、きっと他の神たちね。
特別な力=魔法
だとすると
宝物=魔道具
な気がする。
「かなり興味深い話だね」
「教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。これぐらい」
「ヘカテー、それじゃあ行こうか」
「ええ」
門の外に出ると、中では村長と教えてくれた女の人以外にもたくさんの人が見送ってくれるのが見えた。
「確かここからアルノーさんがいるところまでかなり遠かったわよね?」
行先は不明だけど、歩いているから門からはどんどん離れて小さくなっていく。
「そうだね。自由都市よりもテオドールの方が近いかも」
「テオドール?」
アルノ―さんがいたところとは別の場所かな?
うぅぅ......パン食べたかった......。
「テオドールはね、この国で一番神殿が大きい場所で神聖な地なんだけど、組合もあるし結構大きな都市なんだ」
「神聖な地か......」
私と相性が悪そうな気がする。
「お、興味持ったみたいだね!」
「え⁉まあ、一応。でも、どうやって行くの?」
妖気を消しているから、魔法とか耐性とかしぐさとかに気を付ければたぶんいける......!
......光属性で満ちていたらいつもより何重に結界張っとこ......。
「馬車に乗るのが手っ取り早いんだけど......通らないから歩ー」
「なら、空飛んでいくのはどう?」
歩くなんて無理。
「重力操作!」
「え⁉体が浮かんで⁈」
「ほら、行くよ!道案内はよろしくね」
「か、体が勝手に......!」
うーん!
風が気持ち良い。
ルナに乗ってローランが酔っていたからスピードはかなり落としているけど、それでも歩くよりは早いし疲れない。
クゥン⁈
「起きた?今ね空を飛んでいるの!気持ち良いでしょ?」
「寝起きに空を飛んでいてルナも驚いたみたいだね。これも魔法だよね?」
「正解。重力を操作して空を飛んでいるの。馴染みはなかった?」
「空を飛ぶなんて、鳥とか魔族とかしかできないからね。今空を飛んでいるのが奇跡みたいだよ......!」
「それは良かった。でも、テオドールの少し前ぐらいに降りた方が良いわね」
「確かに。空を飛んでいたら、みんなヘカテーによって来ちゃうもんね。あ、見えてきたよ!あの大きな建物が神殿」
神殿って、私のお城と同じ真っ白な建物なのね。
「......そろそろ歩くか......」
「ここから直ぐだから、頑張ろ!」
「......うん」
足が地面に着くと、真っ白い神殿を目指して歩いた。
もうちょっと、飛んで良かった気がする......。
人間界に来て過去一歩いた後、ようやくテオドールに着いた。
「たくさんの人が並んでいるね。私達も並んどこうか」
これだけ並んでいたら、流石に分かる。
「それなんだけど、僕達は並ばなくて大丈夫だよ。ほら、着いてきて」
列の横を歩くと、もう一つの門が見えてきた。
村で見たような廃れた門じゃなくて、装飾されているこれまた真っ白い門。
人間って真っ白が好きなのね。
「これは、勇者様。お久しぶりです。さあ、中へどうぞ」
「ありがとう、ほら、ヘカテ―、ルナ行くよ」
もふもふの小さくて可愛いルナと一緒に私の唯一の弱点属性で満ちている聖なる地に足を踏み込んだ。