「まあ、目的がないぶらぶらする旅もいいわよね」
「そうだね。とは言っても、最初だからクエストをこなそっか」
「クエスト?」
また新たな言語が出てきた。
人間界っていっぱい言葉がある。
これは勉強のし甲斐がありそう。
「クエストは~してほしいみたいな要求で僕たちに依頼しているんだ。クエストの難易度でもらえる報酬金が違うんだよ」
「パン食べたいから、一番報酬金が高い物で」
「パンだったらどのクエストを選んでも買えるけど......そうだね。難しい方がわくわくするもんね。じゃあ早速、アルノー、僕達はあのクエストを受けるよ」
ちょうど傍にきたアルノーさんにローランは声を掛けたけど、なんかアルノーさんが困っている?
「え、あれですか⁈」
「そうだよ」
「わ、分かりました。ではお気をつけて」
「よし、今度こそ行こうか!」
「ええ」
組合を出て私の冒険は始まった。
「ねえ、どこに向かっているの?」
私達は一番最初に来た森の中にいた。
「えっとね、高ランクの魔物がいる巣かな。最近、そこの近くで人が行方不明になっているんだ」
行方不明、ね。
それで、
「魔物って?」
「ヘカテーって魔獣は知ってる?」
「魔獣は分かる」
「魔族は人と仲が良いんだけど、魔物とか魔獣はその反対。強さによってランク付けされていてAランクが一番強くて徐々に弱くなっていく。人を襲ったりするから見つけたら早急に倒さないといけないんだ。それで、魔物と魔獣の違いは魔物が二足歩行で魔獣が四足歩行かな」
「つまり、魔獣と魔物は一緒ってこと?」
「そういうこと」
魔物と魔獣を全て悪いやつと括っているのは改善したいけど、私の国にいた一部の魔獣の評価は一緒みたいね。
私と今覚えたての人間界の知識をくっつけると行方不明の人は
「行方不明の人ってたぶん殺されているよ」
「......どうして?」
「全部が全部ってわけじゃないけど魔物って人を食べるの。行方不明の人はもう食べられている」
「確かにそうかもしれない。でもね、ヘカテー。僕はね、生きているって信じてる」
「何で?」
魔物の巣の近くで私の子はともかく、弱い人間が無事だなんて思えない。
「だって、まだ実際に見ていないからね。それに、諦めたらきっと後で後悔する。後悔するぐらいだったら、今を全力で信じて進みたいんだ」
この、ローランって人は底抜けに明るくて前向き。
明るさで周りを変える。
生きていることを諦めた私を生きているって信じさせるくらい。
確かに人間界に来たばかりの私が見ていないのに判断なんてできない。
「ふふふ、あははは」
「どうしたんだい?そんなに笑って?」
「......内緒」
人間界に行って良かった。
これからどうなるのか分からないけど、きっと大丈夫。
どうしてそう思うか分からないけどそんな気がする。
「もう夜だし、ここで野宿するか」
「野宿?」
「ここで、お泊りだよ。今からご飯作るから待ってて、ってヘカテーはご飯必要?」
「食べなくても生きていられるけど、食べたい」
基本私の国にいる住民は食事が不要な体をしている。
成熟していない吸血鬼は血液が必要だけど。
その結果、食事が娯楽になってもの凄く美味しい。
人間の世界の食事......。
楽しみね。
「ローラン、私も手伝う」
「なら、火起こせる?」
「分かった」
ローランが集めた枝の上にそっと火を翳すと直ぐに火が付いた。
「まさかの無詠唱......」
ローランが固まっているけどまた、何かあった?
この近くには魔獣もいないけど?
まあ、いっか。
「私、この食材を使って何か作るね」
「え......あ、うん。それじゃあ、よろしくね」
ローランの許可も取ったことだし、何作ろう?
変人が昔持ってきた野菜と同じだから味で失敗はしなさそう。
これでできるのは、あれね。
まず、オレンジ色の細い野菜と緑の葉っぱと透明まる型の野菜を切る。
次にお鍋で野菜を焼く。
「ヘカテーって料理できるんだね」
「趣味よ。よく変人がいろいろ持って来るせいでね。料理する者がしないから私がするようになったせいでできるようになった」
私宛に野菜が来るせいで誰も手を付けられないから、私が使うしかないのよね。
城にいる料理人宛で届いて欲しい。
野菜を鑑定するの結構大変なんだから。
「変人?」
変人に興味出たの?
「いろんなところに行くのが趣味で私の言葉で一喜一憂して精神が弱い」
なんせ普通に言っただけでめっちゃ落ち込む。
悪魔は感情であまり左右されないのに、何で?
「名前は?」
「えっとね、エンプーサ」
「ヘカテーの知り合いって名前が凄いね......。えっと、ヘカテーって何作っているの?」
「スープ」
「まだ水入っていないよ?」
話している間に火が通ったみたい。
「今から入れるの。ほら」
手から水を出して鍋に入れる。
「ローランも水いる?」
「じゃあ、ここに入れてくれる?」
ローランが出して来た器にたっぷりと水を入れといた。
「楽しみにしているからね、スープ」
「そっちも」
さて期待に応えられるように頑張らないと。
「塩とか胡椒とか香辛料って持ってる?」
「塩は持っているけど、香辛料って?」
香辛料が分からない=香辛料がない
文化が発展していないことは今日過ごしてきて分かったけど、まさかここまでなんて......。
流石に塩だけだと味が物足りない......。
調味料を持って来ておいて良かった。
空間の中から塩と胡椒と他にもろもろだして鍋に入れる。
香辛料を見つけたら採取しよう。
食事に味が無くなる。
香辛料は今後どうにかするとして、完成。
「ヘカテー、できた?」
「ええ」
「じゃあ、食べよっか」
ローランが作ったのは、見たことない物。
白くてふわふわしてる。
「これは?」
「これは僕が生まれ育った町の料理だよ」
まずは、一口。
「美味しい~」
ほのかに甘くてふわふわ。
中に何か餡をいれても良いかも。
甘いものやしょっぱいもの、両方合いそう。
「⁈ヘカテーのスープって一体何入れたの⁈こんなに美味しいスープ初めて!」
そっちは私のスープを最初に飲んだみたい。
「そのスープには塩と香辛料を入れたから。あ、香辛料っていうのは匂いを出したり、臭みを消したり、素材の美味しさも引き出したりするもの」
「流石、吸血鬼......。ヘカテーって若いっていうか幼いからあんまり分からないけど、やっぱり長く生きているだけあって詳しいね」
「姿とかは結構簡単に変えられるのよ?」
この姿になったことはないから、もし知り合いに合っても大丈夫っていうだけで特に意味はない。
視線が低くなって何もかも大きく見えるけど、魔力探知で大体分かるから支障はない。
だけど、体が小さい分魔力の絶対値が小さい。
「大人のヘカテーも良いと思うけど、見慣れたこっちの方が僕は良いな」
「......そう?いつか、大人の姿になって見せるよ」
本当はそんな日は来て欲しくない。
だって、私が元の姿になるのはきっと何かあった時だから。
「そろそろ寝よっか。でも、本当に良いの?一晩中見張りをするって」
夕飯を食べ終わったら、すぐにお寝んねの時間らしい。
灯りがなくて睡眠が必要なこの世界ならではの時間。
「大丈夫。ほら、私、夜型だから」
「そっか。吸血鬼だもんね。じゃあ、お休み」
副業の吸血鬼なのは置いといて、私の本業は闇の神。闇を統べる者。
太陽が出ている昼間よりも月が出ている夜の方が圧倒的に強くなれるし、魔力の最大値が上がって魔力が増えているのを感じる。
昼間は出すことが出来ない強力な結界を保険としてローランを中心に張っとく。
「うん、また明日」
「......」
返事がない。
え⁉もう寝てる......。
これなら、
「ねえ、何しているの?」
私の呼びかけと共に黒い煙が現れて、中から出てきたのは妖艶な美女。
「......ッ⁈いつからお気づきに......?」
「いつからって、ここに来た瞬間から。それで、モルモー、何でここにいるの?あなたは今日休みのはずでしょう?」
モルモーはギュンダー同様吸血鬼。
昼間は大丈夫だったのかはおいといて、何でお休みの日に人間界にいるの?
もしかして、あいつの影響?
「実は......ギュンダー様が動ける幹部を集めて姫様の護衛について話しました。最初は幹部、兵を抜いて決めようとなったのですが......」
「あーうん。ありがとう。大体分かった」
変人の影響は受けてなくて良かった。
住民が護衛
↓
私が危ない
↓
強いやつを付けよう
↓
幹部になった
こんな感じか。
「ところで、みんなちゃんとやっている?」
「......。そういえば、本日は久しぶりのお茶会の日ですね」
忘れていたけど、最初の間は何?
みんなちゃんとやっていないの?
「モルモー、一応分身体は置いとくけどローランを守って。朝までには帰って来るから。後、みんなに役割を全うしてって言っといて。私がいなくなったぐらいで国が傾くような子はいないと思うんだけど?」
こう言っておけば、きっとみんなちゃんとやるはず。
「......!承知いたしました」
分身体を出そうとするけど出ない。
そういえば、私魔力ほとんどなかったんだった。
意識を私の世界ーオスクリターにいる分身体に移して、置いといた魔力と他もろもろをこっちに持って行くと、今までスッカスカだったのが満たされる感じがする。
魔力はこれ以上増やせないけど、さっきよりはまし。
ほんの少し漏れ出ていた妖気を一瞬で抑えて、約一日ぶりの転移をした。
真っ白な世界。
そこにあるのはお茶とお菓子と神のみ。
「お、ヘカティアにしては、ぎりぎりだな」
来て早々光神アポロンと話しかけられた。
「人間界に行っていたらお茶会のこと忘れてたの」
「珍しいわね。ヘカティアちゃんが忘れるなんて。それに、何、その姿⁈めっちゃかわいい~」
既に席についている水神ネレウスも会話に参加して来た。
「うーす。あれ、また、俺、最後?」
相変わらず遅刻寸前の風神アネモイ。
「ほら、早くしろ」
「やっぱり、呼び出す者が必要じゃのう」
炎神ウルカヌスが注意をして、土神ガイアがニコニコしている。
「え、ちょっとひどくない?」
「まあまあ。ほら、アネモイちゃん、早く座って。始めるわよ」
これがいつも通りの流れ。
このお茶会はお互いの近況報告とか話すけど、近況報告は建前で基本は雑談。
「じゃあ、今日は幼くなったヘカティアから~」
私?
アネモイが急に話を振っていたけど、何を話そう?
一応近況報告だし......。
「久しぶりに人間界に行ってみたんだけど、人間の世界ってあんまり文明が発展していない気がする」
「あんまり手を入れていないからな」
「ヘカティアが人間界......。よく行けたな」
「行く前に結構頑張ったのよ。それで、ウルヌカスが言う通り、私達は作っただけで放置していた。だけどね、何故か私達の名前、しかも属性まで知っていたの!まあ、でも、性別とか、何だったらネレウスとアネモイとウルカヌスとガイアは神じゃなくて精霊王になっているけど」
「つまり、ヘカティアと僕以外は精霊王と」
「そういうこと」
「精霊王とは......」
まずい。
ウルカヌスの怒りが爆発する。
ウルカヌスって炎の神だからか一番冷静に見えて沸点低いのよね。
前に爆発した時は世界が崩壊しかけたっけ。
懐かしい。
「確かに私達の配下は精霊だけど......」
「そち達は何と呼ばれていたのじゃ?」
「普通に神様って呼ばれているんだけど、アポロンの方が......」
その後のことは言わなくていいよね。
「ヘカティア、その後は~?」
「アネモイは気遣いっていうものを学んだ方が良いと思う」
アポロン、そんなこと言われるとこっちにも流れ弾が飛ぶ。
濁せたのに、言う雰囲気になったじゃない!
「たぶん私よりもご利益あると思ってる。同じ冒険者の人から、アポロンって名前を付ける人は多いけど、ヘカティアは珍しいって」
「「「あー」」」
「あーって?」
全く分からない。
「だって、へカティアちゃん闇とか夜だもん」
「へカティアって知らない者から見たら、恐怖の象徴だよ」
「まあ、そなたの性格を知らない者という条件付きだがのう」
「どちらかというと恐怖の象徴ってウルカヌスだよね〜」
それは納得。
本当に炎の神なのか?というくらい冷酷無慈悲。
「おい。それはどういうことか?」
「え?!いや......」
「後で、ゆっくり話そっか」
怖い......。
アネモイ、おつかれさま......。
君のことはいつまでも忘れないでおくよ。
「へカティア、何その目線。見てないで、助けてよ〜」
「アネモイのせいでしょ。ちゃんと話してきなよ」
「アポロンの言う通りじゃ」
「まあ、頑張ってね、アネモイちゃん」
当事者達以外考えは一緒。
アネモイが悪いし、ウルカヌスとみんな喧嘩したくないからね。
「え......」
「だそうだ。へカティアの話が終わったらやろっか」
「ひぇぇ〜」
「それで、アポロンちゃんのことは置いといて、へカティアちゃんってこれから何するの?」
「何するんだろうね?私にも分からない」
クエストをしてからは特にすることはない。
「いや、こっちに言われても知らないんだが」
「今は取り敢えず、お金稼ぐために魔物を倒すことになった。でも、その後のことは分からないの」
「なら、一度神殿に行ったら?」
「神殿?」
「そち達は行っていないが、妾達の下僕である精霊達が多くいる。きっと、へカティアの役に立つぞ?」
「勝手に精霊と関係持って大丈夫なの?」
精霊はアネモイにウルカヌスにネレウスにガイアが生み出してる。
私の管轄じゃないから、一応許可を取っといた方がいい。
何か起こったら、めんどくさい。
「俺はい~よ〜」
「私も」
「好きにしたら良い」
「なら、僕の天使達も良いよ」
「なら、今しているやつが終わったら神殿に行ってみる」
「行ってらしゃ〜い」
「そういえば、へカティアって人間界に行ってるよね?」
「?そうだけど?」
「時間大丈夫なのか」
「あ......」
一応、時間はゆっくり流れるようにしているけど、ローランが起きていたらまずい。
「ちょっと、先帰るね」
「また次回ね」
「うむ、元気でな」
「ではまた」
「ばいばーい」
みんなに見送られながら、転移してここから出て、ローランの元に向かった。
ー私がいなくなった後ー
「まさかみんな精霊ちゃんたち行かせるわけないわよね?」
「もちのろん!せっかくへカティアが人間界に言ったことだし、俺も行こっかな〜」
「神殿からならそこまで不審にもならないだろう」
「そうじゃな」
「僕も行きたいけど......」
「天使でガンバ!」
「う、うん......天使だと目立っちゃうから、あの時の子とあいつを......」
まさか、私がいないところでそんな話があったとは1ミリを知らなかった。
「おかえりなさいませ、姫様」
「留守番ありがとう、モルモー」
まだ、夜は空けてないみたいね。
良かった。
「姫様、魔力はどうするのですか?」
「このままでいっかな。一日だけだったけど、魔法がほとんど使えなくて大変だったからね。無効とか耐性は切っているから安心して。正体が分かるようなことはしないから」
今も魔力を持っているけど、微塵も感じさせないぐらい消しているから、多分大丈夫。
それに私、今、一応吸血鬼ということになっているから、妖気が出てもそんなに問題ない。
現に、目の前のモルモーからは僅かに妖気が漏れてる。
「承知いたしました。では、私は影にいますので、失礼いたします」
モルモーが影の中に入り込む。
夜が明けるまで何してよう?
暇、暇、暇
魔力探知も魔力が増えたおかげかかなり広大になってる。
クエストの魔物の巣を探しとこうかな。
範囲がでかすぎて色んなところで反応している......。
高ランクの魔物だって言っていたし、妖気が多いところから探そう。
被害が出ているから、集落の近くにあって......。
......見つけた。
「ん......」
「あれ、ローラン、起きたの?」
物音で起こしちゃった?
「......起きてる......」
「寝てるね」
布団の中に入っているし、目は瞑っているし。
「どうしたの......?こんな時間に......?」
「えーっと......」
お茶会に出てましたなんて言えないし......。
うーん。
ん?
「魔力探知が反応した」
「どこ?」
さっきまでの半お眠モードはどこに行ったの......?
しかも、まぬけ顔が良い感じになっている......。
「なんか、雰囲気変わった?」
「僕は勇者だからね。それで、場所は?」
「......すぐそば」
ガルルゥゥゥ
「ほんとだね。ヘカテーは魔獣の気を引いてくれる?その間に僕が倒すから」
そう言いながら、ローランは腰に付けてある剣を抜いてるし、私もやるか。
「分かった」
目の前には魔獣が1匹。
魔力はそんなに考えなくて良くなったから、それなりに大きな魔法を出すこともできるけど、気を引かせるだけだから......。
それにローランに当たらないようにしないとだし......。
「魅惑」
魅惑は指定した者を魅了して操る魔法。
特に操っていないんだけど、魔獣はすぐに大人しくなった。
クゥゥゥン
凶暴な姿はどっかにいって、今はペット化している。
「ローラン、この子、本当に倒すの?」
可愛すぎて倒せない。
人間界で魔獣に魅惑をかけるとこうなるのね。
「ヘカテーは倒したい?」
「魔獣は倒さないといけないけど......。ねえ、小さくなったりできる?」
クゥン!
でかい体があっという間にペットサイズ。
もふもふで可愛い。
この姿なら、魔獣だなんて絶対に分からない。
「連れてっちゃ、ダメ?」
「僕は良いけど......。ねえ、君は僕たちとついて行きたい?」
クゥン!
「良いって。なら、早速名前を付けないと。ローラン、いい名前浮かばない?」
「え?!僕がつけるの?!うーん、そうだな......。ルナはどう?ほら、今、夜だし」
「もう明けそうだけど?」
少しずつ空が明るくなっている。
「まだ、太陽が出ていないから、セーフ」
「......何も言わないでおくよ」
こう言うのは、言わない方が良い。
その辺は分かる。
空気を読めない自由奔放の知り合いとは違う。
「ローランが寝ている間にクエストについてちょっと調べといたよ」
「ほんと?!なら、早速行こっか!ヘカテー、道案内よろしく」
「任せて」
新たなメンバー(ペット)も加わって、私たちは目的の集落を目指す。
......結構離れていたけど。
「そうだね。とは言っても、最初だからクエストをこなそっか」
「クエスト?」
また新たな言語が出てきた。
人間界っていっぱい言葉がある。
これは勉強のし甲斐がありそう。
「クエストは~してほしいみたいな要求で僕たちに依頼しているんだ。クエストの難易度でもらえる報酬金が違うんだよ」
「パン食べたいから、一番報酬金が高い物で」
「パンだったらどのクエストを選んでも買えるけど......そうだね。難しい方がわくわくするもんね。じゃあ早速、アルノー、僕達はあのクエストを受けるよ」
ちょうど傍にきたアルノーさんにローランは声を掛けたけど、なんかアルノーさんが困っている?
「え、あれですか⁈」
「そうだよ」
「わ、分かりました。ではお気をつけて」
「よし、今度こそ行こうか!」
「ええ」
組合を出て私の冒険は始まった。
「ねえ、どこに向かっているの?」
私達は一番最初に来た森の中にいた。
「えっとね、高ランクの魔物がいる巣かな。最近、そこの近くで人が行方不明になっているんだ」
行方不明、ね。
それで、
「魔物って?」
「ヘカテーって魔獣は知ってる?」
「魔獣は分かる」
「魔族は人と仲が良いんだけど、魔物とか魔獣はその反対。強さによってランク付けされていてAランクが一番強くて徐々に弱くなっていく。人を襲ったりするから見つけたら早急に倒さないといけないんだ。それで、魔物と魔獣の違いは魔物が二足歩行で魔獣が四足歩行かな」
「つまり、魔獣と魔物は一緒ってこと?」
「そういうこと」
魔物と魔獣を全て悪いやつと括っているのは改善したいけど、私の国にいた一部の魔獣の評価は一緒みたいね。
私と今覚えたての人間界の知識をくっつけると行方不明の人は
「行方不明の人ってたぶん殺されているよ」
「......どうして?」
「全部が全部ってわけじゃないけど魔物って人を食べるの。行方不明の人はもう食べられている」
「確かにそうかもしれない。でもね、ヘカテー。僕はね、生きているって信じてる」
「何で?」
魔物の巣の近くで私の子はともかく、弱い人間が無事だなんて思えない。
「だって、まだ実際に見ていないからね。それに、諦めたらきっと後で後悔する。後悔するぐらいだったら、今を全力で信じて進みたいんだ」
この、ローランって人は底抜けに明るくて前向き。
明るさで周りを変える。
生きていることを諦めた私を生きているって信じさせるくらい。
確かに人間界に来たばかりの私が見ていないのに判断なんてできない。
「ふふふ、あははは」
「どうしたんだい?そんなに笑って?」
「......内緒」
人間界に行って良かった。
これからどうなるのか分からないけど、きっと大丈夫。
どうしてそう思うか分からないけどそんな気がする。
「もう夜だし、ここで野宿するか」
「野宿?」
「ここで、お泊りだよ。今からご飯作るから待ってて、ってヘカテーはご飯必要?」
「食べなくても生きていられるけど、食べたい」
基本私の国にいる住民は食事が不要な体をしている。
成熟していない吸血鬼は血液が必要だけど。
その結果、食事が娯楽になってもの凄く美味しい。
人間の世界の食事......。
楽しみね。
「ローラン、私も手伝う」
「なら、火起こせる?」
「分かった」
ローランが集めた枝の上にそっと火を翳すと直ぐに火が付いた。
「まさかの無詠唱......」
ローランが固まっているけどまた、何かあった?
この近くには魔獣もいないけど?
まあ、いっか。
「私、この食材を使って何か作るね」
「え......あ、うん。それじゃあ、よろしくね」
ローランの許可も取ったことだし、何作ろう?
変人が昔持ってきた野菜と同じだから味で失敗はしなさそう。
これでできるのは、あれね。
まず、オレンジ色の細い野菜と緑の葉っぱと透明まる型の野菜を切る。
次にお鍋で野菜を焼く。
「ヘカテーって料理できるんだね」
「趣味よ。よく変人がいろいろ持って来るせいでね。料理する者がしないから私がするようになったせいでできるようになった」
私宛に野菜が来るせいで誰も手を付けられないから、私が使うしかないのよね。
城にいる料理人宛で届いて欲しい。
野菜を鑑定するの結構大変なんだから。
「変人?」
変人に興味出たの?
「いろんなところに行くのが趣味で私の言葉で一喜一憂して精神が弱い」
なんせ普通に言っただけでめっちゃ落ち込む。
悪魔は感情であまり左右されないのに、何で?
「名前は?」
「えっとね、エンプーサ」
「ヘカテーの知り合いって名前が凄いね......。えっと、ヘカテーって何作っているの?」
「スープ」
「まだ水入っていないよ?」
話している間に火が通ったみたい。
「今から入れるの。ほら」
手から水を出して鍋に入れる。
「ローランも水いる?」
「じゃあ、ここに入れてくれる?」
ローランが出して来た器にたっぷりと水を入れといた。
「楽しみにしているからね、スープ」
「そっちも」
さて期待に応えられるように頑張らないと。
「塩とか胡椒とか香辛料って持ってる?」
「塩は持っているけど、香辛料って?」
香辛料が分からない=香辛料がない
文化が発展していないことは今日過ごしてきて分かったけど、まさかここまでなんて......。
流石に塩だけだと味が物足りない......。
調味料を持って来ておいて良かった。
空間の中から塩と胡椒と他にもろもろだして鍋に入れる。
香辛料を見つけたら採取しよう。
食事に味が無くなる。
香辛料は今後どうにかするとして、完成。
「ヘカテー、できた?」
「ええ」
「じゃあ、食べよっか」
ローランが作ったのは、見たことない物。
白くてふわふわしてる。
「これは?」
「これは僕が生まれ育った町の料理だよ」
まずは、一口。
「美味しい~」
ほのかに甘くてふわふわ。
中に何か餡をいれても良いかも。
甘いものやしょっぱいもの、両方合いそう。
「⁈ヘカテーのスープって一体何入れたの⁈こんなに美味しいスープ初めて!」
そっちは私のスープを最初に飲んだみたい。
「そのスープには塩と香辛料を入れたから。あ、香辛料っていうのは匂いを出したり、臭みを消したり、素材の美味しさも引き出したりするもの」
「流石、吸血鬼......。ヘカテーって若いっていうか幼いからあんまり分からないけど、やっぱり長く生きているだけあって詳しいね」
「姿とかは結構簡単に変えられるのよ?」
この姿になったことはないから、もし知り合いに合っても大丈夫っていうだけで特に意味はない。
視線が低くなって何もかも大きく見えるけど、魔力探知で大体分かるから支障はない。
だけど、体が小さい分魔力の絶対値が小さい。
「大人のヘカテーも良いと思うけど、見慣れたこっちの方が僕は良いな」
「......そう?いつか、大人の姿になって見せるよ」
本当はそんな日は来て欲しくない。
だって、私が元の姿になるのはきっと何かあった時だから。
「そろそろ寝よっか。でも、本当に良いの?一晩中見張りをするって」
夕飯を食べ終わったら、すぐにお寝んねの時間らしい。
灯りがなくて睡眠が必要なこの世界ならではの時間。
「大丈夫。ほら、私、夜型だから」
「そっか。吸血鬼だもんね。じゃあ、お休み」
副業の吸血鬼なのは置いといて、私の本業は闇の神。闇を統べる者。
太陽が出ている昼間よりも月が出ている夜の方が圧倒的に強くなれるし、魔力の最大値が上がって魔力が増えているのを感じる。
昼間は出すことが出来ない強力な結界を保険としてローランを中心に張っとく。
「うん、また明日」
「......」
返事がない。
え⁉もう寝てる......。
これなら、
「ねえ、何しているの?」
私の呼びかけと共に黒い煙が現れて、中から出てきたのは妖艶な美女。
「......ッ⁈いつからお気づきに......?」
「いつからって、ここに来た瞬間から。それで、モルモー、何でここにいるの?あなたは今日休みのはずでしょう?」
モルモーはギュンダー同様吸血鬼。
昼間は大丈夫だったのかはおいといて、何でお休みの日に人間界にいるの?
もしかして、あいつの影響?
「実は......ギュンダー様が動ける幹部を集めて姫様の護衛について話しました。最初は幹部、兵を抜いて決めようとなったのですが......」
「あーうん。ありがとう。大体分かった」
変人の影響は受けてなくて良かった。
住民が護衛
↓
私が危ない
↓
強いやつを付けよう
↓
幹部になった
こんな感じか。
「ところで、みんなちゃんとやっている?」
「......。そういえば、本日は久しぶりのお茶会の日ですね」
忘れていたけど、最初の間は何?
みんなちゃんとやっていないの?
「モルモー、一応分身体は置いとくけどローランを守って。朝までには帰って来るから。後、みんなに役割を全うしてって言っといて。私がいなくなったぐらいで国が傾くような子はいないと思うんだけど?」
こう言っておけば、きっとみんなちゃんとやるはず。
「......!承知いたしました」
分身体を出そうとするけど出ない。
そういえば、私魔力ほとんどなかったんだった。
意識を私の世界ーオスクリターにいる分身体に移して、置いといた魔力と他もろもろをこっちに持って行くと、今までスッカスカだったのが満たされる感じがする。
魔力はこれ以上増やせないけど、さっきよりはまし。
ほんの少し漏れ出ていた妖気を一瞬で抑えて、約一日ぶりの転移をした。
真っ白な世界。
そこにあるのはお茶とお菓子と神のみ。
「お、ヘカティアにしては、ぎりぎりだな」
来て早々光神アポロンと話しかけられた。
「人間界に行っていたらお茶会のこと忘れてたの」
「珍しいわね。ヘカティアちゃんが忘れるなんて。それに、何、その姿⁈めっちゃかわいい~」
既に席についている水神ネレウスも会話に参加して来た。
「うーす。あれ、また、俺、最後?」
相変わらず遅刻寸前の風神アネモイ。
「ほら、早くしろ」
「やっぱり、呼び出す者が必要じゃのう」
炎神ウルカヌスが注意をして、土神ガイアがニコニコしている。
「え、ちょっとひどくない?」
「まあまあ。ほら、アネモイちゃん、早く座って。始めるわよ」
これがいつも通りの流れ。
このお茶会はお互いの近況報告とか話すけど、近況報告は建前で基本は雑談。
「じゃあ、今日は幼くなったヘカティアから~」
私?
アネモイが急に話を振っていたけど、何を話そう?
一応近況報告だし......。
「久しぶりに人間界に行ってみたんだけど、人間の世界ってあんまり文明が発展していない気がする」
「あんまり手を入れていないからな」
「ヘカティアが人間界......。よく行けたな」
「行く前に結構頑張ったのよ。それで、ウルヌカスが言う通り、私達は作っただけで放置していた。だけどね、何故か私達の名前、しかも属性まで知っていたの!まあ、でも、性別とか、何だったらネレウスとアネモイとウルカヌスとガイアは神じゃなくて精霊王になっているけど」
「つまり、ヘカティアと僕以外は精霊王と」
「そういうこと」
「精霊王とは......」
まずい。
ウルカヌスの怒りが爆発する。
ウルカヌスって炎の神だからか一番冷静に見えて沸点低いのよね。
前に爆発した時は世界が崩壊しかけたっけ。
懐かしい。
「確かに私達の配下は精霊だけど......」
「そち達は何と呼ばれていたのじゃ?」
「普通に神様って呼ばれているんだけど、アポロンの方が......」
その後のことは言わなくていいよね。
「ヘカティア、その後は~?」
「アネモイは気遣いっていうものを学んだ方が良いと思う」
アポロン、そんなこと言われるとこっちにも流れ弾が飛ぶ。
濁せたのに、言う雰囲気になったじゃない!
「たぶん私よりもご利益あると思ってる。同じ冒険者の人から、アポロンって名前を付ける人は多いけど、ヘカティアは珍しいって」
「「「あー」」」
「あーって?」
全く分からない。
「だって、へカティアちゃん闇とか夜だもん」
「へカティアって知らない者から見たら、恐怖の象徴だよ」
「まあ、そなたの性格を知らない者という条件付きだがのう」
「どちらかというと恐怖の象徴ってウルカヌスだよね〜」
それは納得。
本当に炎の神なのか?というくらい冷酷無慈悲。
「おい。それはどういうことか?」
「え?!いや......」
「後で、ゆっくり話そっか」
怖い......。
アネモイ、おつかれさま......。
君のことはいつまでも忘れないでおくよ。
「へカティア、何その目線。見てないで、助けてよ〜」
「アネモイのせいでしょ。ちゃんと話してきなよ」
「アポロンの言う通りじゃ」
「まあ、頑張ってね、アネモイちゃん」
当事者達以外考えは一緒。
アネモイが悪いし、ウルカヌスとみんな喧嘩したくないからね。
「え......」
「だそうだ。へカティアの話が終わったらやろっか」
「ひぇぇ〜」
「それで、アポロンちゃんのことは置いといて、へカティアちゃんってこれから何するの?」
「何するんだろうね?私にも分からない」
クエストをしてからは特にすることはない。
「いや、こっちに言われても知らないんだが」
「今は取り敢えず、お金稼ぐために魔物を倒すことになった。でも、その後のことは分からないの」
「なら、一度神殿に行ったら?」
「神殿?」
「そち達は行っていないが、妾達の下僕である精霊達が多くいる。きっと、へカティアの役に立つぞ?」
「勝手に精霊と関係持って大丈夫なの?」
精霊はアネモイにウルカヌスにネレウスにガイアが生み出してる。
私の管轄じゃないから、一応許可を取っといた方がいい。
何か起こったら、めんどくさい。
「俺はい~よ〜」
「私も」
「好きにしたら良い」
「なら、僕の天使達も良いよ」
「なら、今しているやつが終わったら神殿に行ってみる」
「行ってらしゃ〜い」
「そういえば、へカティアって人間界に行ってるよね?」
「?そうだけど?」
「時間大丈夫なのか」
「あ......」
一応、時間はゆっくり流れるようにしているけど、ローランが起きていたらまずい。
「ちょっと、先帰るね」
「また次回ね」
「うむ、元気でな」
「ではまた」
「ばいばーい」
みんなに見送られながら、転移してここから出て、ローランの元に向かった。
ー私がいなくなった後ー
「まさかみんな精霊ちゃんたち行かせるわけないわよね?」
「もちのろん!せっかくへカティアが人間界に言ったことだし、俺も行こっかな〜」
「神殿からならそこまで不審にもならないだろう」
「そうじゃな」
「僕も行きたいけど......」
「天使でガンバ!」
「う、うん......天使だと目立っちゃうから、あの時の子とあいつを......」
まさか、私がいないところでそんな話があったとは1ミリを知らなかった。
「おかえりなさいませ、姫様」
「留守番ありがとう、モルモー」
まだ、夜は空けてないみたいね。
良かった。
「姫様、魔力はどうするのですか?」
「このままでいっかな。一日だけだったけど、魔法がほとんど使えなくて大変だったからね。無効とか耐性は切っているから安心して。正体が分かるようなことはしないから」
今も魔力を持っているけど、微塵も感じさせないぐらい消しているから、多分大丈夫。
それに私、今、一応吸血鬼ということになっているから、妖気が出てもそんなに問題ない。
現に、目の前のモルモーからは僅かに妖気が漏れてる。
「承知いたしました。では、私は影にいますので、失礼いたします」
モルモーが影の中に入り込む。
夜が明けるまで何してよう?
暇、暇、暇
魔力探知も魔力が増えたおかげかかなり広大になってる。
クエストの魔物の巣を探しとこうかな。
範囲がでかすぎて色んなところで反応している......。
高ランクの魔物だって言っていたし、妖気が多いところから探そう。
被害が出ているから、集落の近くにあって......。
......見つけた。
「ん......」
「あれ、ローラン、起きたの?」
物音で起こしちゃった?
「......起きてる......」
「寝てるね」
布団の中に入っているし、目は瞑っているし。
「どうしたの......?こんな時間に......?」
「えーっと......」
お茶会に出てましたなんて言えないし......。
うーん。
ん?
「魔力探知が反応した」
「どこ?」
さっきまでの半お眠モードはどこに行ったの......?
しかも、まぬけ顔が良い感じになっている......。
「なんか、雰囲気変わった?」
「僕は勇者だからね。それで、場所は?」
「......すぐそば」
ガルルゥゥゥ
「ほんとだね。ヘカテーは魔獣の気を引いてくれる?その間に僕が倒すから」
そう言いながら、ローランは腰に付けてある剣を抜いてるし、私もやるか。
「分かった」
目の前には魔獣が1匹。
魔力はそんなに考えなくて良くなったから、それなりに大きな魔法を出すこともできるけど、気を引かせるだけだから......。
それにローランに当たらないようにしないとだし......。
「魅惑」
魅惑は指定した者を魅了して操る魔法。
特に操っていないんだけど、魔獣はすぐに大人しくなった。
クゥゥゥン
凶暴な姿はどっかにいって、今はペット化している。
「ローラン、この子、本当に倒すの?」
可愛すぎて倒せない。
人間界で魔獣に魅惑をかけるとこうなるのね。
「ヘカテーは倒したい?」
「魔獣は倒さないといけないけど......。ねえ、小さくなったりできる?」
クゥン!
でかい体があっという間にペットサイズ。
もふもふで可愛い。
この姿なら、魔獣だなんて絶対に分からない。
「連れてっちゃ、ダメ?」
「僕は良いけど......。ねえ、君は僕たちとついて行きたい?」
クゥン!
「良いって。なら、早速名前を付けないと。ローラン、いい名前浮かばない?」
「え?!僕がつけるの?!うーん、そうだな......。ルナはどう?ほら、今、夜だし」
「もう明けそうだけど?」
少しずつ空が明るくなっている。
「まだ、太陽が出ていないから、セーフ」
「......何も言わないでおくよ」
こう言うのは、言わない方が良い。
その辺は分かる。
空気を読めない自由奔放の知り合いとは違う。
「ローランが寝ている間にクエストについてちょっと調べといたよ」
「ほんと?!なら、早速行こっか!ヘカテー、道案内よろしく」
「任せて」
新たなメンバー(ペット)も加わって、私たちは目的の集落を目指す。
......結構離れていたけど。