「ん......」

 「エテル、起きた?」

 「......お、兄ちゃん?」


 光が収まって目が覚めたエテルは髪色と同じ薄い緑の瞳だった。

 ネックレスの操りから解かれたみたい。

 良かった......!


 「エテルちゃんって可愛い......」

 「ナミ様って面食いですね」

 「え⁉だって、こんなに可愛い子がいるんだよ⁉愛でないと......!ヘカティアちゃんは可愛い系の美少女だけど、エテルちゃんは儚い系美少女って感じで......。いやー、可愛い女の子が二人もいるなんて最高......!」

 「ナミ、落ち着けって。えっと、エテル、自分が何をしたか覚えてる?」


 エテルはすまなそうにして首を横に振る。

 まあ、当然だよね。

 そこら辺にある魔道具とは影響力が違うから。


 「君がネックレスの持ち主?」

 「「「⁈」」」

 「アポロン⁉」


 急に天使の扉が開いて、アポロンがやって来た。

 行くとは聞いてたけど、もっと後だと思っていたから突然の登場に驚いたけど......。

 みんなは言葉が出ないくらい驚いてるね。


 「君がそのネックレスの持ち主で合ってる?」

 「ひゃ、ひゃい!」

 「本当に申し訳なかった」

 「どうして、謝るんですか⁈」


 ルナが声を荒げている。

 急に自分の主が謝りだしたら、何が起こったのか動揺するよね。


 「このネックレスは欲を満たす魔道具。そのせいで君自身の欲が満たされて、たくさんの人の生気を奪ってしまった」

 「嘘、でしょ......」

 「嘘じゃない。だてにこの村は朽ちて廃れてしまっている。君から生気を取られてね」

 「ローランの村は......エテルちゃんが......?」

 「そうなるね」


 さっきまでの嬉しい空気は一瞬で冷たくなってしまった。

 自覚がないとはいえ、大勢の生気を奪ってしまった。日常を奪ってしまった。家族を奪ってしまった。

 その小さい体には抱えきれないほどの十字架を担いでいるよね......。

 数多の生き物から吸い取った生気はエテルの寿命となる。

 もう人間の寿命じゃなくなっている。

 きっと私達に限りなく近い、永遠ともいえる年月を手に入れてしまった。命を代償に。


 「私、これからどうしたらいいですか......?ただ、生きていたいって願っただけで、無意識に、たくさんの人を......生き物を......殺してしまった私は......どうすれば罪を償えますか......?」

 「罪、ですか......」

 「やったことは事実だけど、無意識となるとね......」

 「やってしまった過去は変えられない。元に戻せないんだよ。どんな魔法を使っても。罪と向き合って、過去を見るのは大切。でも、私は、未来を見て欲しいんだよね」

 「未来ってどういうこと、ヘカテー?」

 「変わることのない過去にしがみ付いたって何も変わらないじゃん。エテルは生気を吸い取ったから、この先何年も何十年も何百年も何千年も生きてられるんだよ。永遠に近い時の中で誰かのために何かした方が良いんじゃないかな?」

 「どう...して......そんなこと言うんですか......?」


 だって、


 「君には未来があるからだ」



 アポロンに言われちゃった......。


 「未来、ですか......」

 「ねえ、エテル。重い荷物を持って下を向くよりも上を浮かないと分からないことがたくさんあるんだよ」

 「抱え込み過ぎると耐えきれずに壊れてしまいますよ?」

 「私、たくさんの人を救い、たいです......!たくさんの人を元気にして、奪ってしまった命の長さ以上生きていけるようにします。それが私ができる贖罪ですので」

 「そっか。少し君のネックレスを借りるぞ」


 魔石が外れたネックレスを手に取って魔法陣を描いていた。


 「アポロン、何するの?」


 強力な魔法陣を付与させる気?


 「ひッ!ヘカテー、呼び捨ては不味いって」

 「別に問題はないよ、呼び捨てでも。ネックレスには解析魔法と保護魔法だけ付けて、後は全部消しといたから」

 「......本当に大丈夫なんですか?」

 「大丈夫!このネックレスは君のための物。きっと役に立つよ」

 「ありがとうございます」


 エテルの胸は優しい光を放つ緑色の魔石が付いたネックレスがあった。

 きれい......!

 (ヘカティアも欲しいの?)

 そんなことないし!


 「ね、ねえ、せっかくだしここを元の緑に包まれた生気溢れる森にしない?」


 (話反らしたね、ヘカティア。続きは後日で)


 「良い考えだね。でも僕はしないといけないことがあるから。じゃあまた」


 光の粒子となって消えていく。

 話しの続きなんかしなくていいのに......。

 そんなことは置いといて、言い出した私が説明しないと、頭の中がお花畑って認識されちゃう。

 だって、生気を失った森を元に戻すなんて魔法なんてないから。


 「この森ってエテルの魔法でこうなったんだよね?」

 「おそらく。私がやったと思います」


 それなら、ナミお姉ちゃんにお願いしようかな。

 私よりもナミお姉ちゃんの方がこの森の状態を変えるのに適しているからね。


 「ねえ、ナミお姉ちゃん。魔法って使えたりする?」

 「まだできると思うけど。もしかして私がするの?」

 「そのもしかして、だよ!」


 ルナ、ナミお姉ちゃんの魔法に強化できる?

 (何をするか全く分かりませんができますよ!)

 ルナの協力も手に入れたことだし、


 「魔法で一番大切なのは?」

 「イメージ、だったよね、ヘカテー?」

 「正解だよ、ローランお兄ちゃん。この森は死んでいるっていう結果がある。もし、その結果がなくてこの森が元気だったら」

 「元気いっぱい......」


 薄い色で魔法陣が描かれていく。


 「もっと鮮明にイメージしてください!」

 「元気いっぱいになるイメージ......!」


 純白な魔法陣が完成されて淡い光で満ちている。


 「今だよ、ルナ!」

 「はい!強化魔法」


 魔獣から人っぽい姿に変身して現れる魔法。

 強化魔法で、ナミお姉ちゃんの小さな魔法陣は拡大されていく。

 ちょうどこの森一体が範囲に入った時、魔法陣から同じ色の光が地上へと降り注がれる。

 灰色で枯れてしまった木々が生き返るように色づいていく。


 「こんな魔法、初めて見ました......!」

 「まさかこんな風になるなんて、想像してなかったよ」


 淡々と元に戻るだけのイメージを超えてくる現実。

 光の雨が降る中、徐々に復活していくなんて、そんな幻想的なこと思いもしなかった。

 今回みたいに良い方に行くときもあれば悪い方向に行く。

 理想に近づくにはどうすればいいのか。

 考えれば考えるほど夢中になっちゃう。


 「これ......正......功な......の......?」

 「大丈夫、ナミ?」

 「ごめんなさい......!私が無理に魔法を使わせちゃったから。直ぐに補充するね、ナミお姉ちゃん」


 肩で息をしているナミお姉ちゃんの体にそっと触れて流れている魔力に同調して、ゆっくりと私の魔力を流し込む。

 入れすぎないように、ゆっくりと。


 「体が軽くなってくる......」

 「どういうことですか?」

 「ヘカティア様がナミ様に魔力は流したからですよ。見た目は幼く小さいですが、ヘカティア様っていーっぱい魔力を持っているんですよ!」

 「それだったら、ルナも持っているでしょ!」


 私だけばれるなんてしないからね。

 闇の神はそう甘くないんだから。


 「二人ともいっぱい持っているんだから。そんなことで揉めちゃだめだよ」

 「そんなことよりも、見て!」


 ナミお姉ちゃんが視線の先には満開に咲き誇る木があった。

 周りにある緑の若木がそよ風に吹かれている。


 「綺麗......」


 ただ普通の森の風景なのに、特別な感じがする。


 「どうして、なのかな?」

 「どうしたの、ヘカテー?」

 「何でもないよ、ローランお兄ちゃん」


 きっと、いつも通りだから、かな。

 楽しく笑って旅をして、時には危険な目にあって......。

 そんな毎日がいつまでも続きますように。

 ふわりと手の平に乗った花びらに願ってしまった。

 魔道具ではないただの花びら。


 でもきっと叶えてくれるよねって思わずにはいられなかった。