「ねえ、ローランお兄ちゃん、ナミお姉ちゃん。昨日どこ行ったの?」
朝一番の言葉。
昨日は強制的に寝かせて聞けなかったから、今日の朝一に聞かないと。
「へカティア様、朝一番に言うセリフがそれですか。挨拶ではないんですね」
「だって、気になるもん」
朝はベットにいてパジャマを着ていた二人がいつもの服で部屋に突っ立っているんだよ。
それに昨日の帰り、二人の気配がしたような、しなかったような......。
「朝から元気だね~、二人はぁ」
大きなあくびをしながら、ナミお姉ちゃんが起きた。
「ん......」
「ローランお兄ちゃん、おはよう」
「おは......よ......」
「これって起きた判定?」
「起きてない判定ですね。時間も限りがあるのでもうそろそろ起きて欲しいのですが」
「それなら任せて」
二度寝したローランお兄ちゃんも起こせばいいんでしょ。
とっておきの魔法をかけてあげる。
「悪夢」
闇魔法の一つ。
夢を強制的に悪夢にする。
使い方次第ではかなり危ない魔法らしいけど、ぶっちゃけ朝起こす時ぐらいしか需要がない。
「ぅわぁ!!」
「お、起きた......。へカティアちゃん、もしかしてローランに悪夢見させたの?」
「あれが悪夢⁈そんな可愛いものじゃないよ⁉急にやばいやつに追いかけられたり、穴に落ちたり......。朝から疲れた......」
「それはご愁傷様ですね。でも、これで起きたことだし、教会に行きましょう!」
「え⁈ルナ、教会に行く前に事情聴取だよ」
教会はその後。
まずは話を聞きたい。
こっちも渡したいものがあるから。
「えっと、ローランと私はー」
ナミお姉ちゃんの話を要約すると、
「悪い人を倒したってことだね」
「かなり要約したね⁈でも、そんな感じよ、へカティアちゃん」
「そっちは帰りがかなり遅かったけど何かあったの?」
「それは、ぼくから説明します!薬を買いに行ったらー」
ほんとに大変だったけど、楽しかった。
薬を買いに行ったら材料がなくて、森に入ったらエルフの村に行ってお手伝い。
魔道具だけじゃなくて瓶に入った物も貰ったんだった。
教会で渡そうと思っていたけど、ここで見せよっと。
「これがお土産の瓶と魔道具」
「魔道具って魔法が使えるの⁉」
「はい!ナミ様の認識で正解です」
「ってことはナミのスカーフや教会で盗まれた神物も?」
「そうそう。エルフからもらったこの魔道具には一度限りの複雑な保護魔法がかかってるね」
「え、エルフ⁈」
「そうだけど?」
何か変なこと言ったかな?
思い返したけど何も出てこない。
でもこの世界と私の常識はかなり違うからな......。
あまりあてにならない。
「エルフの村に行ったのはヘカテーとルナだから納得したけど、まさかエルフから貰ったなんて......。てっきり、教会かと思っていたけど......。もしや、この瓶も......?」
「そうだけど、あ、なんか書かれてる」
『ヘカティア様、ルナ様
こちらの中に入っているのはネルンの花の蜜です。
ネルンの蜜はとても甘く爽やかな味です。
パンに付けたりして食べてみてください。』
「ハチミツみたいなものね!この世界、甘いものが少なくて不足していたから嬉しい」
「今度、使ってみましょう!食べてみたいです」
「......そ、そうだね。パンに塗る以外に使い方ってある?」
「お茶の中に入れたり、お菓子の中に入れたり、料理に入れたり、まあ、色々入れられるよ、ローランお兄ちゃん」
懐かしい。
変人がをハチミツっていう甘味料を持ってきたことを思い出す。
このネルンの蜜、ハチミツにそっくりなんだよね。
何作ろう?
こんなにいっぱいあるから、色々作れるよね。
果物をハチミツに付けたりもできるかも......!
「おーい、ヘカテー。そっちに行きすぎ。ネルンの花の蜜で興奮しているのも分かるけど、今から教会に行くから、想像はまた今度。今度、時間を取るから、みんなで考えよう」
「それもそうだね。教会に向けてしゅっぱーつ!」
「徒歩五分圏内だけど」
「気合を入れるのは大事ですよ、ナミ様」
「でも、気合入りすぎない?」
「それはナミに同感」
影でそんなことが言われてたような気がする。
気のせいだよね。
「ローラン様とナミ様のおかげで子どもたちは無事保護されました。へカティア様、ルナ様、ヒソプ草の採取ありがとうございました」
教会に行ったら、リーリエさんが頭を下げてお礼して来た。
「リーリエさん⁉私たちは昨日お礼された?してもらった?ので、大丈夫ですよ」
「そうですよ。元はこっちがお願いしに来たので。頭を上げてください」
「分かりました。こちらで調べてみたのですが、討伐されなかった魔神についてこちらでいくつか分かったことがあります」
「討伐されなかった魔神?」
そういえば、この話ローランお兄ちゃんがいなかった。
「えっと、ローランお兄ちゃんがいなくなった後ー」
ナミお姉ちゃんやルナ、それにリーリエさんが途中途中補足をしてくれたおかげでかなり分かりやすく説明できた。
「そういうことがあったんだ。リーリエさん、遅くなったけど、この間は迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「それはこちらにも非があります。ローラン様のことを考えずに......。すみません」
「はい、これで終わり。それで、リーリエさん何が分かったんですか?」
ナミお姉ちゃんのおかげで元の話に戻ったよ......!
ローランお兄ちゃんもリーリエさんも真面目だから、長くなると思ったんだよね。
「どうやら、その魔神は人間に友好だったので、討伐されずに済んだらしいです。その魔神がいたのはこの国ではなく、遠い東の国だそうで......。神殿がない国なので、これ以上のことは分かりませんでした」
「次はそこの東の国を目指してみるのもいいね。今は大陸の西にいるから」
「かなり遠いところだけど、面白そうだね、ローランお兄ちゃん」
何が待っているんだろう......!
目的地も楽しそうだけど、旅の道中の場所も楽しみ!
「賛成」
「その前に、この近くにいる魔神に取り組まないといけませんよ?」
「分かってる」
「後、へカティア様にお願いされたことも調べてきました」
「ここに逃げてきた人の出身だよね」
「何の意味があるんですか?」
「ほら、ローランお兄ちゃんとルナは見たよね?ここに入る前に門を通ったよね」
「そうでしたっけ?」
「ルナは寝ていたからね。でも、それが何か関係してるの?」
「門に並んでいた人は家族連れの人が多かったんだよね。商人とかだったら家族で都市間を移動するのは分かるけど、この人たち、前に行った集落の人と同じような恰好だったから商人はじゃないと思うの。お金稼ぎに来た人たちや冒険者は家族を連れて動かないでしょ?それに並んでいた人達は大きな荷物を持っていたんだよね」
「なら、その人たちは避難民かな。都市と集落はかなり離れているから、家族で移動なんてよほどがないかぎりしないよね」
ナミお姉ちゃんが私の下手な説明を聞いて結論を当ててる。
よく分かったね。
「さすが、ナミお姉ちゃん!」
「へカテーと同じ景色を見ていたんだけど、全く気づけなかったよ」
「でも、避難民の出身からどんなことが分かるんですか?」
「出身だけじゃ、無理だよ。ここ十年ぐらいの記録とどこらへんから来たのかの人数合計がないと」
「ってことは、リーリエさん。ヘカティアちゃんが言ったこと全部調べたの?」
「はい。かなり面白い結果になりました」
そう言って、リーリエさんは紙を見せてくれた。
一年だけの記録では変化が分からなくても、十年分の記録を照らし合わせると分かりやすい。
魔神かどうかは分からないけど、どの辺に被害が多いのかが一目瞭然だった。
「避難民の出身、僕のふるさとの近くだ......。魔神か......」
「おそらく。避難民から聞いた情報では多くの人が急に森の生気が消えて、人も木も花も灰のように消えてしまったと」
(生気が消えて灰のようになるなんて、ありえるんですか?魂が消えるなら分かりますが)
私にも分からないよ、ルナ。
(姫様、ルナ様。失礼します。我ら吸血鬼は吸血の他に生気を吸い取ります。ですが、生気を取って灰のように消えるとは聞いたことがないです)
(吸血鬼が生気を取るとどんな感じになるんですか?)
(すべての生気を取るとミイラのようになります。消えることはありません)
これは実際に見ないとだね。
(そうですね、ヘカティア様。どんな魔法が来るか注意しましょう)
「ほら、ヘカテー、ルナ行くよ」
「?行くって?」
ルナとモルモーと話していたせいで、全く聞いてなかった。
隣をみるとルナも分かって無さそうな顔をしている。
「これ以上被害が増えないように、早速行くことになったんだけど、聞いてなかったの?」
「「はい......」」
「二人とも首を頷いていたからね。行くことになるけど、大丈夫?」
「もちろん」
「大丈夫です!」
「なら、森に行こうか!」
「気を付けて下さいね」
リーリエさんに見送られて、入って来た方とも薬を採取したところとも違う門から出る。
「車よりも早い!この調子なら直ぐに着きそうだね」
「そ、そう、だ、ね......」
「ロ、ローラン?」
「ナミお姉ちゃん、ローランお兄ちゃんはルナに乗るとこんな感じになっちゃうから」
ローランお兄ちゃんとナミお姉ちゃんがルナに乗って、人数の都合上私は重力操作で飛んでいる。
こっちの方が酔わないのかな?
「ルナ、ローランお兄ちゃんは私が運ぶよ」
「ローランが物みたい......」
よいしょっと。
ローランお兄ちゃんの重力を軽くして、上に飛んでいかないように制御する。
不用意に揺らさないように気を付けて運ばないと、また酔っちゃう。
「ローラン様、大丈夫ですか?」
「う、うん......」
「大丈夫じゃなさそうだから、一度休憩した方が良さそう」
「でも......」
「そうですね......。あそこの川のところで良いですか?こんな場所よりも川の方が休憩場所に向いていると思います」
ルナが示したのは、ここから少し先のところ。
川の方が休憩に向いているんだ。
心のメモに刻んでおこう。
いつか使えるかもしれないから。
川に着くとローランが森の方へ行って、ルナと私は川で遊んでいた。
「いっくよ、それ」
ルナに思いっきり水を掛ける。
真っ白い毛が濡れてモフモフが消えていく。
「やりましたね、こっちだって」
ルナがしっぽを使って水をかけてくる。
黒いローブがびっしょびっしょになっちゃった......。
後で、乾かそっと。
空間を捻じ曲げて作ったところに入れとく。
「こんなに濡らしてってあれ?」
ルナが消えた。
魔力探知を付けているから、どこにいるのかは分かる。
こういう時、直ぐに見つけられて楽だよね。
「ここだ!」
「⁈なんで⁈」
「私の魔力探知、甘く見ないでよ!」
「魔力探知使ったんですか......。そうですね。今度は向こう側まで競争しません?」
「負けないんから。じゃあ、お先に」
「あ、待ってくださいよ」
天使だけど今は魔獣の姿......。
そんなルナに負けないんだから!
「あれ?ヘカテーとルナは?」
私が川に足だけ入れて涼んでいると、ローランがやって来た。
「ほら、あそこ。さっきまでは水の掛け合いをしてたんだけど、泳ぎ始めちゃった」
向こう岸まで競争しているんだっけ。
今のところヘカティアちゃんの方が早いけど、熊?子猫?の姿をしているルナもすぐ後ろにいる。
中々の接戦......。
ヘカティアちゃん、いつもの服で泳いでいるけど着替えあるのかな?
あ、でも、魔法で乾かせるから大丈夫だったんだ。
現代の日本から来ると魔法がある世界って常識が全部覆される。
常識がこんなに役立たないなんて、びっくりしちゃう。
「ナミは川に入らないの?」
「え......」
「ナミ様一緒に遊びませんか?」
「気持ちいいよ、ナミお姉ちゃん」
「わ、私は......」
「わ、私は......」
なんかナミお姉ちゃんの様子が変。
「水嫌いなの?」
「ううん!そんなんじゃなくて、私、その......泳げないんですよね」
「なら泳げるようになりましょう!泳ぎ方教えます!」
「あ、それなら僕も教えてくれるかな?あんまり得意じゃなくて」
「私がナミお姉ちゃんを教えるね」
「なら、僕はルナに教えてもらおうかな。ねえ、ルナ、早速何だけど、魔獣の姿じゃなくて、人みたいな姿になれる?魔獣だと分かりにくくて」
「それもそうですね。ローラン様とぼくは向こうの方で泳いで来ますね」
ルナは人間チックな姿になってローランを連れて行っちゃった。
「気をつかせちゃったかな......」
「大丈夫だと思うよ」
「そっか。ヘカティア先生、ご指導お願いします!」
「任せて!」
私たちは、戦時前のひと時の安らぎのように穏やかでただ楽しいだけの時間を過ごしたのだった。
朝一番の言葉。
昨日は強制的に寝かせて聞けなかったから、今日の朝一に聞かないと。
「へカティア様、朝一番に言うセリフがそれですか。挨拶ではないんですね」
「だって、気になるもん」
朝はベットにいてパジャマを着ていた二人がいつもの服で部屋に突っ立っているんだよ。
それに昨日の帰り、二人の気配がしたような、しなかったような......。
「朝から元気だね~、二人はぁ」
大きなあくびをしながら、ナミお姉ちゃんが起きた。
「ん......」
「ローランお兄ちゃん、おはよう」
「おは......よ......」
「これって起きた判定?」
「起きてない判定ですね。時間も限りがあるのでもうそろそろ起きて欲しいのですが」
「それなら任せて」
二度寝したローランお兄ちゃんも起こせばいいんでしょ。
とっておきの魔法をかけてあげる。
「悪夢」
闇魔法の一つ。
夢を強制的に悪夢にする。
使い方次第ではかなり危ない魔法らしいけど、ぶっちゃけ朝起こす時ぐらいしか需要がない。
「ぅわぁ!!」
「お、起きた......。へカティアちゃん、もしかしてローランに悪夢見させたの?」
「あれが悪夢⁈そんな可愛いものじゃないよ⁉急にやばいやつに追いかけられたり、穴に落ちたり......。朝から疲れた......」
「それはご愁傷様ですね。でも、これで起きたことだし、教会に行きましょう!」
「え⁈ルナ、教会に行く前に事情聴取だよ」
教会はその後。
まずは話を聞きたい。
こっちも渡したいものがあるから。
「えっと、ローランと私はー」
ナミお姉ちゃんの話を要約すると、
「悪い人を倒したってことだね」
「かなり要約したね⁈でも、そんな感じよ、へカティアちゃん」
「そっちは帰りがかなり遅かったけど何かあったの?」
「それは、ぼくから説明します!薬を買いに行ったらー」
ほんとに大変だったけど、楽しかった。
薬を買いに行ったら材料がなくて、森に入ったらエルフの村に行ってお手伝い。
魔道具だけじゃなくて瓶に入った物も貰ったんだった。
教会で渡そうと思っていたけど、ここで見せよっと。
「これがお土産の瓶と魔道具」
「魔道具って魔法が使えるの⁉」
「はい!ナミ様の認識で正解です」
「ってことはナミのスカーフや教会で盗まれた神物も?」
「そうそう。エルフからもらったこの魔道具には一度限りの複雑な保護魔法がかかってるね」
「え、エルフ⁈」
「そうだけど?」
何か変なこと言ったかな?
思い返したけど何も出てこない。
でもこの世界と私の常識はかなり違うからな......。
あまりあてにならない。
「エルフの村に行ったのはヘカテーとルナだから納得したけど、まさかエルフから貰ったなんて......。てっきり、教会かと思っていたけど......。もしや、この瓶も......?」
「そうだけど、あ、なんか書かれてる」
『ヘカティア様、ルナ様
こちらの中に入っているのはネルンの花の蜜です。
ネルンの蜜はとても甘く爽やかな味です。
パンに付けたりして食べてみてください。』
「ハチミツみたいなものね!この世界、甘いものが少なくて不足していたから嬉しい」
「今度、使ってみましょう!食べてみたいです」
「......そ、そうだね。パンに塗る以外に使い方ってある?」
「お茶の中に入れたり、お菓子の中に入れたり、料理に入れたり、まあ、色々入れられるよ、ローランお兄ちゃん」
懐かしい。
変人がをハチミツっていう甘味料を持ってきたことを思い出す。
このネルンの蜜、ハチミツにそっくりなんだよね。
何作ろう?
こんなにいっぱいあるから、色々作れるよね。
果物をハチミツに付けたりもできるかも......!
「おーい、ヘカテー。そっちに行きすぎ。ネルンの花の蜜で興奮しているのも分かるけど、今から教会に行くから、想像はまた今度。今度、時間を取るから、みんなで考えよう」
「それもそうだね。教会に向けてしゅっぱーつ!」
「徒歩五分圏内だけど」
「気合を入れるのは大事ですよ、ナミ様」
「でも、気合入りすぎない?」
「それはナミに同感」
影でそんなことが言われてたような気がする。
気のせいだよね。
「ローラン様とナミ様のおかげで子どもたちは無事保護されました。へカティア様、ルナ様、ヒソプ草の採取ありがとうございました」
教会に行ったら、リーリエさんが頭を下げてお礼して来た。
「リーリエさん⁉私たちは昨日お礼された?してもらった?ので、大丈夫ですよ」
「そうですよ。元はこっちがお願いしに来たので。頭を上げてください」
「分かりました。こちらで調べてみたのですが、討伐されなかった魔神についてこちらでいくつか分かったことがあります」
「討伐されなかった魔神?」
そういえば、この話ローランお兄ちゃんがいなかった。
「えっと、ローランお兄ちゃんがいなくなった後ー」
ナミお姉ちゃんやルナ、それにリーリエさんが途中途中補足をしてくれたおかげでかなり分かりやすく説明できた。
「そういうことがあったんだ。リーリエさん、遅くなったけど、この間は迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「それはこちらにも非があります。ローラン様のことを考えずに......。すみません」
「はい、これで終わり。それで、リーリエさん何が分かったんですか?」
ナミお姉ちゃんのおかげで元の話に戻ったよ......!
ローランお兄ちゃんもリーリエさんも真面目だから、長くなると思ったんだよね。
「どうやら、その魔神は人間に友好だったので、討伐されずに済んだらしいです。その魔神がいたのはこの国ではなく、遠い東の国だそうで......。神殿がない国なので、これ以上のことは分かりませんでした」
「次はそこの東の国を目指してみるのもいいね。今は大陸の西にいるから」
「かなり遠いところだけど、面白そうだね、ローランお兄ちゃん」
何が待っているんだろう......!
目的地も楽しそうだけど、旅の道中の場所も楽しみ!
「賛成」
「その前に、この近くにいる魔神に取り組まないといけませんよ?」
「分かってる」
「後、へカティア様にお願いされたことも調べてきました」
「ここに逃げてきた人の出身だよね」
「何の意味があるんですか?」
「ほら、ローランお兄ちゃんとルナは見たよね?ここに入る前に門を通ったよね」
「そうでしたっけ?」
「ルナは寝ていたからね。でも、それが何か関係してるの?」
「門に並んでいた人は家族連れの人が多かったんだよね。商人とかだったら家族で都市間を移動するのは分かるけど、この人たち、前に行った集落の人と同じような恰好だったから商人はじゃないと思うの。お金稼ぎに来た人たちや冒険者は家族を連れて動かないでしょ?それに並んでいた人達は大きな荷物を持っていたんだよね」
「なら、その人たちは避難民かな。都市と集落はかなり離れているから、家族で移動なんてよほどがないかぎりしないよね」
ナミお姉ちゃんが私の下手な説明を聞いて結論を当ててる。
よく分かったね。
「さすが、ナミお姉ちゃん!」
「へカテーと同じ景色を見ていたんだけど、全く気づけなかったよ」
「でも、避難民の出身からどんなことが分かるんですか?」
「出身だけじゃ、無理だよ。ここ十年ぐらいの記録とどこらへんから来たのかの人数合計がないと」
「ってことは、リーリエさん。ヘカティアちゃんが言ったこと全部調べたの?」
「はい。かなり面白い結果になりました」
そう言って、リーリエさんは紙を見せてくれた。
一年だけの記録では変化が分からなくても、十年分の記録を照らし合わせると分かりやすい。
魔神かどうかは分からないけど、どの辺に被害が多いのかが一目瞭然だった。
「避難民の出身、僕のふるさとの近くだ......。魔神か......」
「おそらく。避難民から聞いた情報では多くの人が急に森の生気が消えて、人も木も花も灰のように消えてしまったと」
(生気が消えて灰のようになるなんて、ありえるんですか?魂が消えるなら分かりますが)
私にも分からないよ、ルナ。
(姫様、ルナ様。失礼します。我ら吸血鬼は吸血の他に生気を吸い取ります。ですが、生気を取って灰のように消えるとは聞いたことがないです)
(吸血鬼が生気を取るとどんな感じになるんですか?)
(すべての生気を取るとミイラのようになります。消えることはありません)
これは実際に見ないとだね。
(そうですね、ヘカティア様。どんな魔法が来るか注意しましょう)
「ほら、ヘカテー、ルナ行くよ」
「?行くって?」
ルナとモルモーと話していたせいで、全く聞いてなかった。
隣をみるとルナも分かって無さそうな顔をしている。
「これ以上被害が増えないように、早速行くことになったんだけど、聞いてなかったの?」
「「はい......」」
「二人とも首を頷いていたからね。行くことになるけど、大丈夫?」
「もちろん」
「大丈夫です!」
「なら、森に行こうか!」
「気を付けて下さいね」
リーリエさんに見送られて、入って来た方とも薬を採取したところとも違う門から出る。
「車よりも早い!この調子なら直ぐに着きそうだね」
「そ、そう、だ、ね......」
「ロ、ローラン?」
「ナミお姉ちゃん、ローランお兄ちゃんはルナに乗るとこんな感じになっちゃうから」
ローランお兄ちゃんとナミお姉ちゃんがルナに乗って、人数の都合上私は重力操作で飛んでいる。
こっちの方が酔わないのかな?
「ルナ、ローランお兄ちゃんは私が運ぶよ」
「ローランが物みたい......」
よいしょっと。
ローランお兄ちゃんの重力を軽くして、上に飛んでいかないように制御する。
不用意に揺らさないように気を付けて運ばないと、また酔っちゃう。
「ローラン様、大丈夫ですか?」
「う、うん......」
「大丈夫じゃなさそうだから、一度休憩した方が良さそう」
「でも......」
「そうですね......。あそこの川のところで良いですか?こんな場所よりも川の方が休憩場所に向いていると思います」
ルナが示したのは、ここから少し先のところ。
川の方が休憩に向いているんだ。
心のメモに刻んでおこう。
いつか使えるかもしれないから。
川に着くとローランが森の方へ行って、ルナと私は川で遊んでいた。
「いっくよ、それ」
ルナに思いっきり水を掛ける。
真っ白い毛が濡れてモフモフが消えていく。
「やりましたね、こっちだって」
ルナがしっぽを使って水をかけてくる。
黒いローブがびっしょびっしょになっちゃった......。
後で、乾かそっと。
空間を捻じ曲げて作ったところに入れとく。
「こんなに濡らしてってあれ?」
ルナが消えた。
魔力探知を付けているから、どこにいるのかは分かる。
こういう時、直ぐに見つけられて楽だよね。
「ここだ!」
「⁈なんで⁈」
「私の魔力探知、甘く見ないでよ!」
「魔力探知使ったんですか......。そうですね。今度は向こう側まで競争しません?」
「負けないんから。じゃあ、お先に」
「あ、待ってくださいよ」
天使だけど今は魔獣の姿......。
そんなルナに負けないんだから!
「あれ?ヘカテーとルナは?」
私が川に足だけ入れて涼んでいると、ローランがやって来た。
「ほら、あそこ。さっきまでは水の掛け合いをしてたんだけど、泳ぎ始めちゃった」
向こう岸まで競争しているんだっけ。
今のところヘカティアちゃんの方が早いけど、熊?子猫?の姿をしているルナもすぐ後ろにいる。
中々の接戦......。
ヘカティアちゃん、いつもの服で泳いでいるけど着替えあるのかな?
あ、でも、魔法で乾かせるから大丈夫だったんだ。
現代の日本から来ると魔法がある世界って常識が全部覆される。
常識がこんなに役立たないなんて、びっくりしちゃう。
「ナミは川に入らないの?」
「え......」
「ナミ様一緒に遊びませんか?」
「気持ちいいよ、ナミお姉ちゃん」
「わ、私は......」
「わ、私は......」
なんかナミお姉ちゃんの様子が変。
「水嫌いなの?」
「ううん!そんなんじゃなくて、私、その......泳げないんですよね」
「なら泳げるようになりましょう!泳ぎ方教えます!」
「あ、それなら僕も教えてくれるかな?あんまり得意じゃなくて」
「私がナミお姉ちゃんを教えるね」
「なら、僕はルナに教えてもらおうかな。ねえ、ルナ、早速何だけど、魔獣の姿じゃなくて、人みたいな姿になれる?魔獣だと分かりにくくて」
「それもそうですね。ローラン様とぼくは向こうの方で泳いで来ますね」
ルナは人間チックな姿になってローランを連れて行っちゃった。
「気をつかせちゃったかな......」
「大丈夫だと思うよ」
「そっか。ヘカティア先生、ご指導お願いします!」
「任せて!」
私たちは、戦時前のひと時の安らぎのように穏やかでただ楽しいだけの時間を過ごしたのだった。