「そういえば明日、俺のクラスに転校生が来るらしいよ」
那留をフェンスから引きずり下ろしてからも腕を掴んだまま、芹野は言う。
「転校生ねぇ……前の学校で、なにをしでかしたんだろうね?」
「おいおい、随分と辛辣だな」
「この学校に編入するってことは、結局プロジェクトでの更生目的でしょ? もう三年の夏が終わったこの時期に関係なく入れられるってことは、どうせろくでもない奴だって」
那留と芹野が通う高校は、国の政策である『みらい成長プロジェクト』が導入された唯一の注目校だ。
校内は毎日警備員が巡回し、防犯カメラも設置されている。校則も数年前にがらりと変わり、様々な規定が増えた。
日常の言動や目に余る行動は指導対象になるのはもちろんのこと、身なりについてはとても厳しかった。例えば、髪は地毛も含めて黒が正しい。制服だけでなく、私服も含めた服装はマニュアル通りに着るべし。男性らしく、女性らしくいなければ、それは人としてあり得ない――など。
監獄に入れられたような息苦しさを覚える生徒も少なくはない。しかしすべては将来のためだと――国が考案した『みらい成長プロジェクト』は唱える。
このプラグラムは、生徒それぞれの能力を十分発揮するため、良い大人になるためにと考え、進学と就職で分岐点となる高校生に焦点をあて、ある高校に導入した政策である。
校則がすべて。国が正しい。――それは逆もしかり、『みらい成長プロジェクト』の記載に反する行いや姿勢、人間性は、すべて誤りだと判断された。
清く正しい生徒を育てるため、国はまず手始めにこの高校に導入し、六年間の検証を重ね、順次周囲の学校に広げていくことを目標にしている。特定の生徒を被験者とし、徹底した管理を施すのだ。
そんなプロジェクトをこの高校に導入したのは今から五年前のこと。当時入学したばかりの生徒の多くが困惑した。事前に受けた入学説明会では特に説明はなく、初日から唐突に始まり、高校デビューという名目で髪を染めた者、ピアスホールを空けた者は即指導対象となった。反論する生徒もいたが、国と教師の説得により大事にはならなかった。
今ではそんな窮屈な価値観もすっかり慣れてしまっている。