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 特別室騒ぎから二日後。何事もなく平然と始まった平日は溜息から始まった。
『みらい成長プロジェクト』を試験官の田畑が己の昇進とストレスのはけ口のために、複数名の考査結果を改ざんしていたことが発覚。さらに生徒を精神的に追い詰めたことも明らかになり、芹野大臣と学校長が直々に謝罪に訪れたのは昨日の話。
 困惑し、さも発案者のようにプロジェクトの存在意義を唱える那留の両親を宥めるという異様な光景を前に、那留は何が起きているのかわからずぼんやりとしていた。

 しかし、プロジェクトが現在も進行中である限り、何も変わらない。
 夜が明ければ明日が来ることは当たり前であるように、「またつまらない日が始まるのか」と憂鬱になりながら家を出た那留は、通学途中に周囲の様子から違和感を覚えた。
 早朝にもかかわらず楽しそうに話しながら歩く生徒たちは、好きなように制服を着こなし、髪型どころか、髪色も変わって随分洒落ていた。
 というか、この世界はこんなにカラフルだっただろうか。
 ずっと見ないようにしていたせいか、それが異物のように見えた瞬間、自分の感覚に疑念を持つ。
 当たり前であって、当たり前ではないもの。
 それは正しいとか間違っているとか、そんな容易な言葉で表せるものではない。

(……なんで?)

 那留は立ち止まり、スマホを確認する。長らく放置していたSNSを開くと、トレンド入りされていたニュースに目を疑う。

【『みらい成長プロジェクト』廃止へ。運営が私用目的で生徒を処罰した疑い】

 要約すると、試験官のひとりが意図的に考査結果を不正し、己の昇進とストレスのはけ口のために利用されていたことが発覚したらしい。
 この件に関して文部科学省は、プロジェクト開始した翌年に()()でリークがあったものの証拠が見つからなかったため、徹底的に解明すべく、裏で極秘に内部調査を進めていたという。周囲に気付かれないよう、慎重に行っていたこともあり遅くなってしまったが、結果的に今回の自供に繋がり、プロジェクトは見直しを含め廃止を決定。
 停止する意見もあったようだが、芹野大臣より「根本的な部分から見つめ直さなければならないため、現状のプロジェクトから大きくかけ離れる可能性が高い」と説明があり、完全廃止する方向へ決まったという。
 さらに対象の高校は、本日よりプロジェクト開始以前の校則に戻ることも決まったことも告げられていた。

(じゃあこれは、本来の――?)

 学校から事前通達があったのか、それともSNSを見たからか。両親によって外の情報を最小限に制限されていた那留には、いつ通達があったのかはわからない。

「那留!」

 すると、後ろから慌てた様子の芹野が走ってやってきた。彼もこの光景が信じられないようで、呼吸を整えながら問う。