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「――三六四番、君はとても優秀だ。容姿はもちろん、成績もよい。人柄も申し分ない。しかし、その欠点は死ぬまで一生隠し通せるものではない。それは自分でもわかっているね?」

 放課後、特別室に呼ばれた芹野は、()(ばた)試験管を前に拳を固めていた。
 一見、普通の二者面談ではあるものの、内容はひどく、個人のプライバシーに他人が割り込んでくるものだった。もし田畑の機嫌を損ねたら、何をされるかわからない。芹野はいつになく言葉選びに慎重だった。

「いつかは明かされることです。周囲に否定されても、一線を引かれても、僕はこの感情を否定したくありません」
「それは君の勝手な自己満足でしかない。社会に出たら、君を守ってくれる人は君以外いないんだよ。だったら、最初からそんな感情は捨ててしまったほうが君のためになると思わないか? 嘘をつき続けながら生きるのは苦しいだろう。それに、お父様の立場だってある」

 へらっと笑って強要してくる田畑はさらに続ける。

「プロジェクトが投入された当時、君のような生徒が何人もいてね、眠ったままの生徒もいれば、屋上から飛び降りた生徒もいる。特に飛び降りた生徒は君と同じ三〇〇番代。確か……三七八番だったかな。彼もとても苦しんでいた。……でも男は胸を張って堂々としているべきなんだ。それが世間の当たり前。頭のいい君ならわかってくれると信じているよ。大人の我々は、これから自滅していく子供たちを見たくないんだよ」
「……気持ち悪」

 思わず声に出てしまい、慌てて口元を抑える。
 田畑の表情は変わらず意味深な笑みを浮かべているが、声色が微かに震えている。それは試験官の建前と心情が相反していて、気持ち悪いと思ってしまったのだ。

「待ってくれよ、三六四番。そんな口を利くとは聞いていないぞ。教育的指導をしなければならないじゃないか。頼むから、大人の言うことを聞いておくれ」
「大人のくせに、子どもが皆忠実な犬だと思っているんですか?」

 少し言い返すくらいならと口にすれば、田畑のこめかみに青筋が走る。今謝れば、発言を訂正すれば、きっと許してくれるかもしれない。
 そしたら平和に終わる。明日もきっと、何事もなく終わる。
 そんなとき、ふいに浦辺に言われた言葉が頭に浮かんだ。

『従うだけ無駄だって、わかっているくせに?』

 そう、ここで折れたところで、きっと自分は自分を一生許せないだろう。失言してしまった以上、最後までやり遂げるべきだ。

(たとえ、家族に迷惑をかけようとも)

 今、自分の意志を示さなければ、一生彼らの操り人形だ。
 不機嫌そうに溜息をつく田畑に、芹野は意を決して口を開いた。