「ちょっとなんなのよこれ!」
まだ寝ていた彩葉《いろは》は異母妹の春華《はるか》の大きな声に飛び跳ねそうになった。
急いで彼女の元に行くやいなや、突き飛ばされて彩葉はうずくまった。
「これ、洗ってっていったわよね?」
「申し訳ありま___っ」
また、足でけられ、言葉が途切れる。
「あ〜もうほんっと、使えないわ。お母様!」
けられたお腹の痛みをこらえながら顔を上げれば、継母の秋穂《あきほ》がうずくまる彩葉を見下ろしていた。
秋穂はあざ笑うように彩葉を一瞥し、春華に目を向けた。
「春華、これはどういうことなの?朝から騒がしいわ。」
「聞いて下さい、お母様!おねえさまが私が洗ってと言っておいたものを洗わなかったのですわ」
秋穂はこうなることがわかっていたかのようにこちらを見た。
「本当に使えないわよね。無能なりになにか努力をしようとか思わないのかしら。」
___無能。
体の中を電流が走り抜けたように動けなくなった。
そう、彩葉は”無能”だった。
四季国は彩りの国という別名がある。
生まれてくる子供はみな、赤ん坊でも彩りの力を持っている
それなのに彩葉にはずっと彩りの力がなかった。
血がつながっていないのもあるが、無能だということが一番の虐げられる理由だった。
「......申し訳、ありませんでした」
声はか細く、ほとんど聞こえないぐらいだったが、どうやら二人はしっかりと聞き取ったらしかった。
「もう、次はないから」
春華は釘を刺すと洗わなかった服を投げて秋穂とともに行ってしまった。
彩葉は服を持つとよろよろと立ち上がり、自分の部屋へと戻った。
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