「失礼する」

このときが来てしまった……。

彩葉は茉央に叩き込まれた作法で、挨拶をする。

「陛下、本日は……」

「そういう堅苦しいのはいい。顔を上げろ」

おそるおそる顔をあげると、陛下と目があう。

「どうだ?お茶会とやらは。」

「いえ……とても、た、楽しみで……」

「無理しなくていい。虐げられていたのは知っているからな」

「陛下ですが……、」

「その呼び方は不快だな」

早速、粗相をしてしまったらしい。

彩葉はぶるっと体を震わせる。

「申し訳ありま……」

「呼び方」

「はい?」

「陛下、はいただけないな」

そんなに呼び方が不満なのだろうか?

そう疑問に思った彩葉の心を読んだように陛下は続ける。

「寵妃というのに、名前で呼ばないというのはだめだと思うが?」

「な、なるほど……そういう考えがありましたか……」

「彩葉」

甘い声でそう言われれば、拒否権はあるはずもなく。

「ほら。彩葉、樹季《いつき》と。」

こんなに緊張することがあるだろうか。

心を落ち着かせるべく、彩葉は深呼吸した。

「___い、樹季さま」

上目遣いにそう一言呼べば、陛下もとい樹季は一瞬驚いたような顔をする。

「彩葉」

でも、すぐに、彩葉を見ながら微笑み、名前を嬉しそうに呼ぶ。

(陛下___樹季さま、その笑顔は破壊力抜群です......っ)

ただでさえ、美丈夫なのに、笑顔で迫られたらもう、耐性のない彩葉には限界である。

「触れても、いいか?」

そんなことに許可はいらないのに。

いちいち聞かれると、こちらの心臓がもたない。

「き、聞かないでくださいっ......」

そう顔を真っ赤にして、そっぽを向けば、樹季は嬉しそうな笑顔になる。

そうして、なんのためらいもなく、彩葉の頬に触れた。

「っ......!」

恥ずかしさに悶えそうになっていると、樹季が驚いたように、頬をなでていた手を止めた。

「樹季さま?」

「彩葉は彩りの能力はないんだったかな?」

彩葉はそう言った覚えはないが、きっと、もう調べられているのだろう。

「は、はい。なんの力もございません」

「だったら、なぜ、君から力を感じるんだ?」

「え?」

(樹季さま、なにを仰っているのでしょう......?私に力は一つもありませんが)

そう思った彩葉は否定しようと思ったけれど、意外にも樹季が真剣な面持ちで話していたので驚いて言葉をなくした。

「こんな力......まさか」

「だ、大丈夫なのですか?」

心配になって聞くと、彼は目を細める。

「___彩葉にはすべての季節を彩れる力がある」

「えええ!?」

思わず調子の外れた声を上げてしまったのは不可抗力だ。

季節を彩れるなど、冗談でもないと思っている。

「本当だ。この能力、俺と完全一致している......」

帝になるには、すべての季節を彩れないといけないため、樹季はその力を持っているのだろう。

しかし、それを彩葉が持っているとなれば話は別。

なんの関係のない庶民でも皇后にならなければならない。

「わ、私......そんな力は......。継母も異母妹も彩れる能力はありますが、私からそんな力を感じたことはないと......」

「そこらへんのことはまだ、よくわからない。しかし、彩葉に能力があるのは間違いないようだ......」

彩葉は思わず、大きく目を見開いた。

「こういう場合は........どうすればよろしいのでしょう?」

「そうだな.......。とりあえず、四季の皇后になれと言いたいところだが、もう少し、彩葉が四季を彩れるようになってからのほうがいいような気がする」

樹季はうなってから、おろおろしている彩葉を見た。

「俺と____特訓するのはどうだ?」