みほに一時的な別れを告げた後、私とかなたはゆっくりと砂浜を歩いて、上へと向かった。

気がつけば、砂浜に向かって歩いているときとは全く空気が変わっていた。
その空気は、もちろん天気や気温もあるが、ここを歩いている自分の心の空気感も変わっていた。

天気は少し肌寒い程度だった風が海辺なこともあり、来た時よりも冷たい風に変わっていた。
けれど、来た時よりも心の空気は暖かかった。
心の天気も、もう夜だから晴れという表現は少し違うかもしれないが、今と同じ、曇1つない星や月が綺麗に見える夜空のようだった。
私の心も、今の空と同じように静かにチラチラと輝くものがあるような気がした。

そんなことを思いながら、来た時とは違うゆっくりとした足取りで歩いていれば砂浜が終わり、見慣れたコンクリートの地面に着いた。

「ここら辺に座って待ってるか。」

「私も同じこと思ってた。ここら辺座ってみほちゃん待っていようか。」

かなたも同じことを考えていたらしく、二言交わしてそのまま隣に座ってみほを待った。

「あー、楽しかった。まじで時間あっという間だった!」

「かなた、めちゃくちゃはしゃいでたもんね。」

「だって海で手持ち花火とかめちゃくちゃ青春じゃん。憧れてた高校生活!って感じのこと出来て俺すっげー満足してる。今、充実してる。」

かなたは目を輝かせて本当に嬉しそうにそう言った。
でも、少し意外だった。

「私、勝手にかなたは憧れてた高校生活を満喫しているのかと思ってたんだけど、違ったんだね。
少し意外かも。満足、充実してるかは分からないけど、それなりに青春してると思ってた。」

「紫桜には、そう見えてた?」

かなたが一瞬、初めて見せた表情をした気がした。
少し悲しそうな、寂しそうな、苦しそうな…。
自分がどこかで感じたことがある気がした。
本当に、少しだけだけれど。

「う、うん。だって、かなたは昔から私と違って友達作り上手だったから友達もいつもみたいに沢山できて、それなりに充実したよく見る高校生活送ってるって思ってた。
私の家寄ってきてくれる時も、時間結構マチマチだから色々用事あるからなのかな〜って。」

その表情に少し動揺しながら、それを隠すように話を続けた。

「あー、確かに。お前小さい時から人見知り凄かったもんな。いつも俺の後ろに隠れて仲良くなりたい子に話かけられなくて、俺と話してるとこに少しずつ入って仲良くなってたの思い出した。」

昔のことを思い出し、少し懐かしそうに笑った。

「う、うるさいなぁ。しょうがないでしょ。人と話すの苦手なんだって…。」

「知ってる。それで安心できるからって、よく俺とかおばさんに頭撫でてもらってたもんな。そこに関してはお前、今も昔もなんにも変わらない。まぁそれがお前の個性だからいいと思うよ?俺は。
だって、慎重に作った友達の方が、信頼して長く関係が続いていくだろ?」

最後の言葉は、どういうつもりで言った言葉だったのだろう。
空はもうとっくに暗くなっていて、前を向いているかなたの表情はよく見えず分からなかった。
でもほんの少しだけ、寂しい香りがしたのはきっと気のせいじゃない。

「…まぁ、確かにそうかもしれないね。でも、みほちゃんたちと今もこうやって細い糸かもしれないけど、繋がっていられるのもかなたが私たちを繋いでくれて、私を受け入れてくれるって分かったから一緒に居られるわけで。
あ、そう考えたらかなたは長く一緒に居られる友達を探すのが上手って事じゃない?」

私はそう少し明るい声色でかなたへと言葉を放った。
かなたの顔を覗き込む様にして。