「僕も絵を書いたことあるけど、何かいっつも誉められないんだよね」
「そう……なの?」
「風景画?だっけな?学校の美術で外の景色を見ながら書いたんだけど、空の色はその時の気分は茶色だったんだ」
「茶色……?」
「変なんだって茶色。何が悪いのか未だにわからない。僕茶色大好きなんだけどね」

 口を膨らませながら、少し不機嫌に話すかとま君の太ももに乗っている犬のお人形の色は茶色なので、そのままの言葉を伝える。

「ワンちゃんも……茶色だね」
「あ、そうか!だから茶色が大好きなのかもしれない」

 嬉しそうにお人形の身体を撫でるかとま君。

 だけど、中三の男子が犬のお人形を持ち歩いているのは、やっぱり何処かおかしいと思うのが本音で、茶色の空を書くなんて聞いたこともない。
 話題を遡れば、好きな時に学校へ行くのも何処かズレているし、雪を踏みたいから学校を休むのもおかしいのは否めない。
 彼の行動に家族や学校は何も言わないのかな……。
 だけど私とどうやら立場が違う。私は虐められて、逃げて、学校に行けないのだ。
 自由奔放に生きているかとま君とは全く異なる理由で、虐められている自分が恥ずかしいと感じてしまう。

 私も彼みたいに強かったら
 物怖じしない性格だったら

 もしかしたら学校でも自分を貫き通せたかもしれない。

「あ!飛行機!ななこちゃん!飛行機!僕が見つけたよ!」

 好きなものを大声で言える彼の生き方が羨ましい。
 指を指して、探さないと見えないくらいの小さな飛行機を見つけて嬉しそうな表情を出せるかとま君を尊敬する。

「飛行機見たから僕帰るね。また遊ぼうね」
「えっ、うん……」

 そう言って彼は、私をサッサと置いてそのまま背中を向けて遠くへ行ってしまった。
 本当にマイペースなんだ……どうやったらあんな風に生きていけるのか。
 益々彼の存在に興味が湧き、書く気力が無かった朝とはうってかわって、私も家に帰るとまた漫画を書き始めた。
 誉めてくれた私の漫画。何だか認められたような気がして、どんどん書き進んでいくページ。
 本当は、ノートじゃなくて本物の原稿用紙を使ってみたい。ボールペンじゃなくて、本物のGペンとスクリーントーンを使って書いてみたい。

 かとま君と出会って少しずつ変わっていく気持ちの変化。

 もっともっと、漫画を書きたい。
 もっともっと、認められたい。
 自信が欲しい……。人に見せられる実力が欲しい。高みを目指したい。

 かとま君と話すと、なんでだろ。
強くなれた気がしたんだ。

 やっぱり不思議だね……かとま君て。