「ちょっと疲れたから座ろうかな。あ、ワンちゃんありがとう」

 渡された犬のお人形を私が返事もする前にまた彼の手に戻り、ベンチに腰かけるかとま君。
 犬のお人形のポジションなのか、太ももの上に置いて愛しそうに撫でている。

「ななこちゃんも座ったら?」
「う、うん」

 そう声をかけられたが、彼と私の間にもう一人座れるくらいの距離でベンチに座る。

「……かとま君、学校は?」
「学校?行きたくなったら行くよ?でも今日は雪が降って沢山雪が踏みたくなったから行かないかな」

 そんな理由で学校に行かない?だからといって嘘をついてるように見えない彼の言葉に、益々自由な人だなと感心してしまう。

「ななこちゃんは学校お休み?」
「……」
「お熱出たの?」
「熱は……出てないかな」

 心配そうに見てくるかとま君との距離は、どんどん近づいてきて緊張してしまう。
 改めて顔を見ると、クリッとした二重に童顔で可愛い系な顔立ち。髪の毛の色も、太陽に浴びて少し赤茶に見えている。
 こっちは一重で眼鏡をかけて、野暮ったい顔立ち。私の剛毛で多量な髪の毛ですら、なんだか自分は女なのにこの髪質が恥ずかしい。

「かとま君……漫画好き?」

 話題を逸らそうと、気付けばお尻がほんの少し触れるくらいの距離に座っている、かとま君に聞いてみる。

「漫画かぁ……見ないなぁ。字を読むの苦手だから。絵は好きだよ」
「わ、私漫画好きなんだ」

 漫画家になりたいんだって、思わず口に出しそうになったが寸前で止める。馬鹿にしてきたあのグループとは違うとは言いきれない。
 優しそうで不思議なかとま君にまで馬鹿にされたら……私もう、一生立ち直れないかもしれない。
 なのに、ベンチに置いておいたバックがバランスを崩して一冊のノートが地面に落としてしまう。

「あっ!!」

 雪で少しだけ濡れたノートを急いで拾い上げようとしたら、体勢を変えた時に腕がバックにぶつかり、更にノートが落下していく。
 同時に何の偶然なのか、風が吹いて落ちたノートがパラパラと勢いよく捲れていく。

「「あ……」」

 私と同じ反応をしたかとま君が、落ちたノートを直ぐに拾い上げ、勝手に中身を見ていく。

「だ、ダメ「凄い!漫画だ!」
「え?」
「ななこちゃん漫画書けるの!?凄い!漫画だ!本みたいだね!?凄いね!?」

 私の書いた漫画を、キラキラした顔で誉めてくれる。
 予想外の反応になんだかくすぐったいが、産まれて初めて他人から誉められることに嬉しくて、思わず顔から笑みが溢れてしまう。

「あ、ありがとう……。下手くそだけど」
「下手じゃないよ!凄いよ!だって本物と同じだよ?ななこちゃんって凄いんだね」