次の日の朝。
 相変わらずバタバタと動くお母さんの忙しない音で目が覚める。

「あ、ななこおはよう。お母さん今日早番だからもう行くよ。学校は!?」
「……行かない」
「……もう、いい加減にしてよ。本当にそのままでいいわけ!?」
「……」

 私の寝起きの姿を見るや否や、苛々した感情を寝癖のついた私に大きな声でぶつけてくる。
 いいわけ?と聞かれても、良くはないかもしれないが、虐められてる私が学校に行っても辛いだけだよ。それで私がこの世界から消えてもいいわけ?と逆に聞いてやりたい。

「お母さん、もう知らないよ」
「……」

 家と車の鍵がくっついているキーケースがジャラッと音をたてながら、いつものように会社に出かけるお母さん。
 朝ごはんは……今日は無かった。炊飯器を見ても空っぽで、台所をガサガサと食べ物を探すと一日賞味期限が切れた食パンを見つけてトースターで焼く。
 こんな時でも朝ごはんを食べる習慣が抜けない自分の食欲にビックリしてしまうが、冷蔵庫から残り少ない苺ジャムをつけて食べていく。美味しいか美味しくないかで言ったら味は美味しい。苺ジャムが大好きで、瓶に入った苺ジャムをスプーンですくって食べる程好きだった。勿論お母さんに怒られてから、瓶で食べることは無くなったけど。
 家にいても居心地が悪くなっていて、本当に自分の居場所が何処にも無くなってきたことに、じわりと涙が溜まっていくのがわかる。

 食べ終わってお皿一枚洗った所で、白いレースのカーテンを何気なく開けると天気は良さそうだが、昨日から断続的に降り続いた雪が辺り一面積もっていた。
 あちこち雪かきをしている人の姿が見える。
 家にお母さんが居なくても、今日は漫画を書く気力になれず、今まで書いたオリジナルの漫画をベッドの上で何冊も読み返してみた。
 書き上げた時は満足だったのに、読み返すと沢山出てくる矛盾のストーリーに、描き分けの出来ていないキャラクター。
クラスメイトが「そんな下手で漫画家になれると思ってるの?」と言われた言葉が胸に刺さる。
 こんな下手でも漫画家になれると信じてるよ。
だって書き続けたら上手くなるかもしれないじゃん。
 この建物、教科書に書いてる背景を見ながら上手に写せてるもん。

 読み終えたノートは、バサバサッとベッドの下に雪崩のように落ちていく。
 私これで、学校にも行けず、漫画家にもなれなかったらどんな大人になってしまうんだろう。
将来の不安に、眼鏡を外して思わず両手で目を隠す。
……今日もかとま君、いるのかな……。