「何処に行くの?」
「ノートを買いに……」
「そうなんだ、また遊ぼうね」
──また遊ぼうね
かとま君と話した時間は数分なのに、これで遊んだと認識した彼の言動は違和感だが、不思議とイヤな気分にはならないのは何故だろう。
「また……ね」
「うん、ななこちゃんまたね」
かとま君は私と反対方向の歩道を、犬のお人形を先ほどと同じように掴んでぶら下げて歩いていった。
変な、人?というより、不思議な人……。
我に返ると刺すような気温の寒さ。何となく映し出されたテレビの天気予報の気温を思い出す。
最高気温でもマイナス。午後からまた雪が降るでしょうと言っていた。
なのに気付けば空からふわふわと白い結晶が舞い降りてくる。
さむ……早くノートを買って帰ろう。
今度こそ足早にお店に向かい、いつものお気に入りの漫画用のノートを買っては先ほどと同じ道を歩く。
何となくチラリと彼が座っていたベンチを確認するが、さっきの男の子どころかこんな雪の降る寒空の下、勿論あのベンチには誰も座っていない。
まるでさっきの時間が幻だったかのように。
気付けばどんどんと降り止まない雪が、コンクリートを更に真っ白に染めていく。
彼の肌も、この雪のように白かったなぁ。
寒くて頬っぺた、ピンクになってたなぁ。
家路を歩きながら、何となく次の新しいキャラクターの男の子のモデルにしようかなと気持ちが抑えられないワクワク感。
ストーブがついて暖かくなっている部屋に戻り、直ぐに漫画を書き進める。
新しい男の子のキャラクターは名前も同じ【かとま君】
彼は色白でイケメンでそして人気者で、そんな彼と私みたいに冴えない女の子を助けてくれる救いのヒーローだ。
不登校になり、何も変哲もない日常生活に初めての出来事。
学校を休んでも誰一人、私の家にプリント等を持ってきてくれるクラスメイトは居ないし、担任は一度お母さんに電話を入れたらしいがそれ一度きりらしい。
別にどうでもいい。どうせ学校に行っても私の居場所なんて無いんだから。
誰にも心配されず、学校に行かなくてもいいのなら、私には漫画を書くことの方がよっぽど有意義な時間だ。
そういえば……かとま君、中三と言っていたけど学校は?私と同じく行ってないのかな?不思議な人だったから、私と同じように虐められてるのかな?
勝手にかとま君の状況を想像して、勝手に仲間意識を作ってしまう。
もし、そうだったら……もっと沢山話してあげてあげれば良かった。
こんな見た目の私に笑いかけてくれるなんて、優しい人に決まってる。
明日も……いるのかな?
窓から見える筈もない彼の姿を、何となく探しながら降りしきる雪の景色を眺めていた。