冬のこの季節、雪が面した歩道は自転車が滑る為仕方なく徒歩でお店に向かうが、上着だけでは賄えない、感覚が無くなりそうな耳たぶ。手袋をしても冷たくなる指先。
 自転車で10分程の距離だから、どんなに早足で歩いてもまだまだお店には着かない。

 そんな中、歩道横に設置している遊具は一つも無い、よく野球の少年団が使う広いグラウンドみたいな空き地と、犬や人のお散歩コースに使われる小道だけと名前も分からない、細い木々達が生い茂る草笛公園に人影が見え、ふと視線を向ける。
 空き地が白い雪で覆われてる中で、ベンチに座っている一人の男の子の姿があった。
 距離はそこまで遠くない。
 何してるんだろう?と、上着のポケットに手を入れている男の子の姿に、思わず早足だったスピードがゆっくりと前に進む。
 あまりにもジロジロ見すぎたせいで、男の子が私の視線に気付いたのか。

 ニコッと笑ったと思ったら、おいでおいでと手招きしていた。

 虐められているどころか、男子とまともに話したこともない私。ニコッと笑ってくれたその笑顔、プラス手招きなんて、さっきまで寒くて寒くて震えていた私の身体は一瞬にして寒さが何処に吹き飛んでいってしまう。
 困惑している私をよそに、男の子はベンチから立ち上がり、私に少しずつ近づいてきた。

 ど、ど、どうしよう。
 何でこっちに来るの!?

 逃げてしまえば良かったのに、近くなる距離で見えた、まるで手を繋いでいるかのような犬のお人形が、歩いてくる男の子の横で、ブラブラとぶら下がっていた。

 何で犬の人形!?
 ていうか男の子だよね!?

 益々困惑してしまう現状に、気付けば男の子は私の目の前に立ち、またしてもニコッと私に笑顔を向ける。

「こんにちわ」
「こ、こんにちわ」

 私よりほんの少しだけ大きな背丈。どれくらい外にいたのか、色白の彼の顔の頬と鼻は赤く染まっていた。

「この子はワンちゃん。僕の友達」
「は、はぁ」

 あ、何かちょっと変な人かもしれない。犬のお人形を嬉しそうに見せながら、そのお人形の名前を【ワンちゃん】と教えてくれるが、見た目は少しカッコ良くても話すと普通の人には見えない。

 「……」
 「僕はかとま。名前は?」
 「……ななこ」
 「ななこ?ななこちゃんて言うんだね。ななこちゃんは何歳?」

「かとま」という珍しい名前の男の子はニコニコしながら沢山質問をしてくる。悪気はあるように見えないが、それでもやっぱり私の知ってる同級生にはこんな人は居ない。

「ちゅ、中学二年です」
「そうなんだ、僕は中三。僕の方がお兄さんだね」