「久しぶりねー!ななこちゃん。元気だったの?」
「……はい。あの、これ……ずっと返せなくてごめんなさい。もう、暖かくなってきて、今更なんですけど」

 紙袋に入った上着を、緊張で小さくなってしまった声と同時にかとま君のお母さんに玄関で渡す。

「いえいえ。こんな上着貰っても良かったのよ。かとま、自分のお気に入りの服しか着ないから」
「あ、あの……かとま君は」

 そう聞くと、以前玄関に飾ってあった可愛い雑貨達が色々無くなっていて、お母さんの後ろに見える廊下には沢山の段ボールが積み上げられていた。
……え?そん……な。

「……かとまね。今此処には居ないの」
「……」

 なん……で?かとま君のお母さんの表情が、少し困ったように笑う。

「実はね、前々からかとまに合う高校をずっと探していて、此処から飛行機で二時間くらいの距離なんだけど良い高校が見つかって……。そこに入学する事が決まったの。私と主人で何度も話し合って、よし、私達も一緒に行こうって……」
「……」
「私はまだちょっと仕事が残ってるから此処で一人で残ってたんだけど、環境の変化に敏感な子だから、卒業式が終わった後、直ぐに主人と向こうでゆっくり慣れるように、一足先に行ってもらったの」
「……じゃあ……もう」

 会えない……ってこと?かとま君と、会えない?そん、な私……。
 自分の遅すぎた行動と会えない現実に、思わずハァハァと口呼吸をして目が泳いでしまう。動揺と混乱に襲われて、またしても後悔の波に呑まれてしまいそうだ。
 馬鹿だ、本当に馬鹿だ私。公園?居ないならお家?
 もう会えないなんて思ってもみなかった。一ミリも考えた事無かったよ。
 まして私には携帯が無い。私の連絡先も、かとま君の新しい住所を聞くことなんて出来る訳がない。

 永遠に……会えなくなるかもしれないの……?




「ななこちゃん」
「……は、はい」
「これ、かとまからななこちゃんにって」

 かとま君のお母さんが、一度リビングに行ったと思ったら何かを持ってまた玄関に戻ってくる。渡されたのは、

 一通の手紙。

「引っ越しするから前みたいには会えないと、かとまなりに理解して一生懸命書いてたの。良かったら貰って下さい」
「……」
「毎朝、ななこちゃんに会えるのを楽しみにしてたの。ななこちゃん、かとまとお友達になってくれて……本当にありがとう」
「いえ……こちらこそ……です」

 返す上着と引き替えに、可愛いキャラクターが書いた手紙を受けとる。
 かとま君のお母さんが、家の外まで見送りをしてくれて笑顔で手を振ってくれていた。

「わざわざありがとうね。あと必ずこの可愛いクッキーかとまに届けるからね」

 泣きそうになるのを堪え、私は最後の気力でかとま君のお母さんに、作り笑いをして頭を下げた。
 私の右手には、かとま君から手紙。あの公園に再び戻り、いつものあのベンチに腰掛けて、ゆっくりと手紙に貼ってあるールを外す。
 恐る恐る、封筒の中を開けると便箋が一枚。

 何が……書いてるんだろうか……。

 不安になりながらも、ゆっくりと便箋を開くと大きな文字で、あるメッセージが書かれていた。