言ってしまった言葉一つでこんなにも引きずり、後悔しても、もう遅い。
言った言葉は取り返しがつかない。暴言を沢山言われてきた私が一番良く分かっているから。
浅はかだったあの時の私が憎くて仕方ない。
そしてごめんなさいと言いたいのに、傷つけてしまったかもしれないかとま君に、会いに行く勇気が無い自分がズルいのは分かっているのに。
こんなグルグルと回るあの時を思い出して、気付けばどんどん雪が溶け始め、春の季節が顔を出し始めてきた、暖かい陽気まで月日が流れた。
部屋にずっと飾ってあるかとま君の白くてモコモコしている上着が、部屋で漫画を書いている時に一番目につくもの。
朝起きて、学校に行き、漫画を書いて夜眠る時。
いつだって彼の優しい存在を思い出し、彼が放ったあの言葉を思い出しては上着から目を反らしてしまう。
「ななこ、もうこの上着返さないと……」
「……うん。そうだね」
日曜日の朝、朝ごはんをお母さんと二人で食べていた時に、ふとかとま君の上着の話題を出される。
正直に話した彼の存在。お母さんがお礼とごめんなさいを言わないと失礼だよ?と声をかけてくるが、正直会いづらくて怖い。
だけど、もう動かなきゃ。分かってはいるのに。
「大丈夫よ。きっとまたその男の子と前みたいに話せるよ。ホラッ!行ってこい!」
ご飯を食べ終えた私に、お母さんに背中をドンっ!と押され、無理やり玄関まで誘導されたかと思えば、上着を可愛い紙袋に入れて私に渡す。
「あとこれ。犬のアイシングクッキー。たまたまお母さんの会社の近くの洋菓子店で売ってたからこれも渡して」
透明な袋で包装されたクッキーには、かとま君といつも一緒にいたワンちゃんに似たクッキーが数枚入っていた。
お母さんに犬のお人形の情報も言っていたから、似たクッキーを探してくれたらしい。
「ちゃんと渡すのよ?渡さないと本当に後悔するよ」
「……。
「ほーら!行っておいで」
半ば強引に外に閉め出され、上着の入った紙袋とお礼のクッキーを持って公園に向かう。
最後に会ったあの時より、太陽がポカポカと暖かく、そして今日も雲一つ無い晴天だった。
日曜日の為、小学生くらいの男の子達が自転車で私の横を通りすぎ、部活の学生達が走り込みをしているのも視界に入った。
あの日から一ヶ月以上経過し、お礼やごめんなさいの謝罪は遅すぎた。
結局今行動に移すなら、もっと早くに動けば良かった。
色々な事を後悔しても遅い。本当に……遅い。
あのいつもの公園が近づき、怖いなと思う気持ちと、また会えるかな?と思う気持ちで感情が交差する。紙袋を持つ手に力が入って、彼の姿を探す。
……が、かとま君の姿は何処にも居なかった。
当たり前……か。元々が気まぐれの性格だから、毎日あの時間でも居るとは限らない。
分かっていたようで、彼のルーティンはきっと変わらないとまた、かとま君の勝手な想像をしていたなと気分が沈む。
居ないなら帰ろうかなと、Uターンして来た歩道をまた歩き始めるが。
「かとま君のお家、もう少し先にあったよね」
一度だけ行った彼のお家。正直道のりは自信無いが、わからなかったら諦めようと、家を目指して歩いていると、意外にも覚えているかとま君の家路。
此処を真っ直ぐ、あの建物を右。住宅街の並び立つ家に、端から二番目の白い外観の一戸建て。
あ、あった……けど。駐車場にはあの時乗った白い車は無く、やっぱり日曜日だしお出かけかな?とため息を付きながら、チャイムを押す。出る筈がないと思っていたインターホンのスピーカーから、
「あらー!ななこちゃん?ちょっと待ってねー!」
機械と地声が混ざったようなかとま君のお母さんの声が聞こえて緊張が走る。
い、いたんだ……。うぅ、緊張する。
扉の鍵をガチャンと開けた音が聞こえたと思ったら、直ぐに重たいドアがゆっくりと開く。