そして給食準備中、私の席の前に数人の女子が私を取り囲む。

「あっれ~?何か赤坂みたいな女来たけどどちら様~?」
「漫画家になれました~?」
「てか給食前に来るとか流石デブ」

 心が折れそうな言葉ばかりに家に帰りたくなるが、グッと堪える。
 分かってた、傷つくことも泣くことも。それを覚悟でここに来たんだ。
 下を向いて俯いていると、予想外の出来事が起こる。

「まだそんな事してんの?」
「ダサくね?お前ら」

 同級生の中でも男女共に人気がある野球部の男子二人が、私達の光景を見てまさかの発言をする。

「は、は、はぁ?何よ、関係ないでしょ!?」
「き、聞いてるんじゃないわよ!」

 言い返す虐めっこの女子達が明らかに動揺していた。
 それは勿論私も含まれていて、何で庇ってくれるんだろうと疑問を持ちつつ、目立つ彼らの雰囲気に、クラスメイト達がこちらに注目したのが、耐えられない女子達。彼女達は慌てて逃げていき、その姿に胸がスーッとした。

「赤坂、お前四時間目に来るとか強すぎだろ」
「あ、うん。何か、学校行こうかなって思ったらこんな時間だった……」
「ウケる!自由か!ま、偉いじゃん」

 多分初めて話すこの人気者の男子達に少し緊張してしまうが、とりあえずあの虐めっこ達が、離れてくれて良かった方が大きい。

「あ、あの、ありがとうございます」
「いや!同い年な!?」
「敬語とか!やっぱりウケる!」

 人気者になれる理由がわかる程のフレンドリーに、話してくれる彼らのお陰で、私の不登校を解除した一日目が無事に終わった。
 後から聞くと、彼らの尊敬していた野球部の先輩が、高校で酷い虐めに合い、この世を去ってしまったと話してくれた。
 不登校になってしまった私を見て、その先輩のようにはさせたくないと思っていたようで、私に助け船を出してくれたらしい。
 ただ勿論、虐めが解決したわけではない。帰る時に虐めっこ達に玄関で待ち伏せされてはまた暴言を吐かれたり、私を見下す態度を取られるが、不思議とまた学校に行けない程でもない。
 スタート地点に立ったばかり。一歩進んだだけでも上出来だと自分を誉めるんだ。

……だけど、さっきのかとま君とのやり取りはどうしても消えないまま。
 心がポッキリ折れて、不登校になったと同じくらいの、胸の深い深い痛み。
 常に思い出してしまうあの顔、あの声、彼のお友達の茶色の色をしたワンちゃんも。
 かとま君、私、学校行けたよ。でも最初から私が不登校って教えてなかったから、ビックリするかもしれないね。
 一歩ずつ、それとも半歩ずつ、時には止まる日を持ちつつ、 自分の生き方に誇りを持って行こうと思う。

 謝りたい、君に。

 そして、変わらない笑顔で私にまた、大好きなものを教えて欲しい。

 あれから一日、一週間、一ヶ月、ゆっくりと月日が流れていった。
 お母さんとお父さんが動いた抗議に、言葉通り詰め寄られた担任と校長先生。中学二年があと一ヶ月で終わりという処で厳しくても生徒を平等で見てくれる、ベテラン担任に急遽代わり、新しい担任に目を付けられた虐めっこ達は、何かを察知したのかかなり大人しくなっていた。

 だけど私はまだ、あの公園には一度も行っていない。