「ねぇ、ヤバいってぇ?赤坂の近くにいたら漫画のキャラにされるからぁ」
「大した絵も上手くないくせに、将来漫画家とかになれると思ってんの?」

 真っ白い紙の上で可愛い女の子や男の子を書く事が楽しくて仕方ない幼少の頃。【漫画家】という職業を知り、そしてそれになれる為の本を購入してはコマ割を覚えてなんちゃって漫画を小学生から書いていた。
 お小遣いが足りなくて漫画を書く道具なんて揃えられないので、定規とペンだけで私だけのオリジナル漫画を家でも、そして中学に入学しても変わらず書いていたが、運悪く男の子と女の子のキスシーンを書いている所を派手なグループの女子に見つかり、それはもう汚物を見るような目で馬鹿にされた。

「キモッ」

 高学年から掛け始めた眼鏡に、お菓子が好きで標準より太っている体型。
 髪の毛はひとつ結びに、整い方法を知らない濃い眉毛。
 見下されるには充分な見た目に、それに加えて下手くそな漫画を書いてる私は、彼女らの暇潰しのターゲットにされた。

 二度と学校に持っていかないと誓ったオリジナルの漫画のノート。なのに目が合えば、こうして漫画の事をネタにされて暴言を言われる日々。
 派手なグループの女子達が怖くて、私を助けてくれるクラスメイトなんて一人も居ない。
 それどころか、一緒になって馬鹿にしてくる男子までも追加されて、とうとう学校に行けなくなってしまった中学二年の冬。

 虐められてる

 お母さんに言えなくて、勿論担任にも言えなくて。
 ただただ襲われる孤独感に、先が見えない暗闇のトンネル。
 部屋にかけてある制服を見るだけで、胃痛の上に嗚咽までこみ上げ、自分の目に触れないように閉まったまるで呪いの服。
 流石のお母さんも、学校で【何か】あったのだと察して声をかけてくるが【学校で虐められてる】の言葉が言えず、自分の部屋に籠るようになってしまった。

 そんな私を癒してくれるモノはそこら辺に売っているノートに書く漫画の世界。

 漫画の世界には沢山の友達がいて、カッコいい男の子から告白される。私は団地住みでペット禁止のルールがあっても、漫画の世界では犬も猫もライオンだって飼える。
 この世界が私の味方で、漫画だけが私を救ってくれていたんだ。

 例え……もう学校なんか行かなくなったって……。

 なのに、思い出す私を虐めてきたあの人達の顔。
 書く手が時折止まるほどあの悪夢のような日々を思い出してしまい、フラッシュバックしては息が詰まる感覚。
 学習机の引き出しに悪口が書かれたメモ用紙や教科書を読み返す。

 【キモいんだよ、ヲタク。】
 【学校来んなよバーカ(笑)】
 【死ねよ、ブス】

 捨ててしまいたいのに、虐めていないと言われても証拠として残してあるが、何度も目に触れては悔しくて泣いてしまう事が多々あった。